第4話
男は“無詠唱魔法”と確かに言った。
あの驚き様からして、この異世界では魔法を使うのになんらかの詠唱、つまり呪文的な文言を必要とするのだろう。
そして私はそれを無視して魔法が使えるということだ。しかも赤ちゃんの体で。
「ひぃぃぃ、悪魔、悪魔だぁー」
腕の骨を私の無詠唱魔法で粉々にされた男はその場で腰を抜かした。
悪魔、悪魔の赤子か……。その呼び名は納得がいかないな、できれば聖女とかがいい、最初の印象は大事だから言い直して欲しいな。
「狼狽えるな、何かの間違えだ。こんな赤ん坊が魔法をしかも無詠唱で使えるはずがない。大方、防護用の魔法石でも設置されてたんだろう。親が戻る前に黙らせるぞ」
「そ、そうだよな、くそう回復魔法は後回しだ。いてぇけどこいつの足の骨を俺の腕と同じ状態にしてやるぜ」
防護用の魔法石? そんな代物もあるのか、興味深いな。でもこっちの両親がそんな石を置いてるのは見たことがない。
残念ながら私の魔法だ。
「でていきなちゃいっ」
私の最後の警告を無視した男どもは、躊躇なく私に襲い掛かる。
「ふんっ」
男の腕を粉々にした時と同じイメージで私は思いっきり踏ん張った。
踏ん張り過ぎて、ちょっと漏らしてしまった。まったく赤ちゃんの体は色々踏ん張りがきかなくて不便だな。
「「うぎゃ~」」
両腕がボロ雑巾になった男どもは、顎でドアを開けると、バタバタと転びながら逃げて行った。両腕が使えないとバランスが悪いらしい、ざまあみろだ。二度と来るんじゃない。
ほどなくして、肩を落とした両親が帰ってきた。みんなに最後の別れを言ってきたのだろうか。でも安心して欲しい、私は立っている。
「おかえりなちゃい」
そして喋れる。
もう何も心配する必要はない、呪いなんて言葉に惑わされて命を絶つなんて考えなくていいんだ。
私の変化に気が付いた両親は、私の名前を叫び、涙し、強く抱き寄せた。
漏らした物がこびり付いた衣服をものともせずに強くしつこく頬を寄せて喜んだ。
無事に戻ってきてくれて良かった。母が父の後を追ったときは、父の代わりに死ぬ覚悟を決めたのかとも思ったから、もしかしたら2人とも早まってしまうかもしれないと。
転生後、ひっそりと幸せに暮らしていこうと思っていたが、どうやらこの異世界はそんなことを許してくれそうもないな。私に深い愛を注いでくれる両親を守りたいし、悪い奴を懲らしめるのは気分が良い、そして私にはそれが出来る無詠唱魔法が備わっているようだ。
これは良い、これは良い人生を再スタートできそうだな……。
私は両親に気づかれぬように口角を少し上げた。
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