第5話
立ち上がり、そして言葉を発する。
成長する快感を覚えた私の体は、留まることを知らなかった。
手を前に出し一生懸命バランスをとりながらヨチヨチと歩き、ニョキニョキとむず痒い歯が生え揃い、次々と新たな言葉を発する。
「ちち、はは、まほう」
その一挙手一投足に歓喜する両親。
実際には記憶している言葉だし、手を前に出してバランスを取っているというよりも、空気中の何かを掴みながら歩いているのだから、成長というよりチートと言った方が正解だろう。
「そうかそうか、アクアは魔法が好きなのか。いや~将来有望だな」
「そうね、言葉を覚えるのも早いから呪文の詠唱もきっとすぐに出来るわね」
この異世界には魔法というものが存在することは確定した。
父と母の会話から察するに、空気中に漂う“氣”というものがプロセスになっているらしい。
その氣とやらに言葉を充てがう行為で魔法が発動するようだ。
意味を持たない文字の組み合わせ、発音やリズム、抑揚などで発動する魔法が変わり、空気中に含まれる成分なんかも関係しているらしい。
例えば、綺麗な空気の場所では回復魔法の発動が容易で強化される。気温が高い、つまり水蒸気の多い時期や場所では火の魔法の発動が簡単で強い、逆に乾燥していると氷の魔法の発動が簡単で強くなる。風が強いければもちろん風の魔法が等々。
簡単に言えば、空気中に漂っている氣とやらに、決められた言葉をリズム良く充てると氣が練りこまれて魔法が発動するという仕組みだそうだ。
もちろん誰も彼もが容易に魔法を発動できるわけではないとも言っていた。
“氣”を感じ取り、それに言葉を充てる感覚が理解できない者は、残念ながら才能がない者としてこの世界から淘汰され奴隷のように扱われるしかない様だ。
もちろん努力すればなんとかなるらしいが、初めから才能の無い者はマッチ棒の火や、水鉄砲くらいが関の山、ファーヤーボールやウォーターソードが使える頃には寿命も尽きてしまうとか。
つまり魔法とは才能が全て、生まれた時から人生決まっちゃうくらいに重要な要素。
だから魔法の効果を石に閉じ込める方法、つまり練った氣を空気を含みやすい軽石や溶岩石みたいな石に入れることでできる魔石と呼ばれる物が、高値で売買されているとも言っていた。
なかなか興味深いな、色々な呪文を試したくなる。
そしてこの異世界で幸せになるためには最も重要な要素だ。
「アクア、魔法が使えるといいわね」
「そうだな、せめて火を起こせるくらいの才能をもっていれば苦労しないんだがな」
「でも元気でいてくれたら、私はそれだけでも幸せよ」
「ああ、もちろん俺もだ」
優しい父と母よ、心配することはない。
おそらく私は才能の塊だ。
なんたってヨチヨチ歩きの時に手を前にだしているのは一生懸命バランスを取るためではない、私は掴めるのだ。
“氣”が‼
空気中の氣を掴んで歩いているのだ。
イメージで魔法を発動、つまり無詠唱で魔法が使えるし。
まだ無詠唱魔法や氣を掴むことが、この世界でどれだけ凄いか分からないけど、幸せな生活を送るには十分過ぎる才能であることは確かだ。
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