神チート【生きているだけで丸儲け】で爆速ステータスアップ!――元病弱少年は異世界冒険者ライフで理不尽を覆す――
穂積潜@12/20 新作発売!
第1話 病弱な僕が死んだ日
「長い間、お世話になりました」
ある晴れた夏の日、僕は病院の入り口前でペコリと頭を下げた。
「あのたっくんが退院かあ。寂しくなるわね――って、だめよね。おめでたい日にこんな顔をしちゃ」
ずっとお世話をしてくれていた看護師さんが、瞳を潤ませて言う。
「ははは、しばらくは検診で顔を出しますから」
「そうね。また顔を見せてね。勉強とか色々、大変だろうけど、あの病気と闘い抜いたたっくんなら、きっと大丈夫だから」
「はい、『生きているだけで丸儲け』ですから」
母がよく言っていた口癖を、そっと呟く。
色々とよくないこともあったけれど、小学三年生の時に余命3年と言われた僕が、こうして中三まで生き延びられた。それだけでなく、一応日常生活が送れるくらいまでに快復した。その奇跡に、今は感謝したい。
「本当にタクシーを呼ばなくてよかったの?」
「ええ。最初の一歩は自分の足で踏みだしたいですから。それに、お金も節約しなきゃですし。――では、失礼します」
「気を付けてね」
看護師さんに見送られながら、僕は一歩一歩足を前に進めていく。
大した運動でもないのに、息が荒くなる。
普通の中三に比べたら、周回遅れどころか、三周くらい差をつけられた僕の人生の『始まり』。
だとしても、僕は嬉しかった。
焼け付くような日差しも、額から垂れる汗も、蝉の喧騒も、その全てが、病院では感じられない、『生きている』感覚を僕に味わわせてくれるから。
普通の人なら十分ほどしかかからない家までの距離を、三倍の時間をかけて辿っていく。
そしてようやく、家へと続く最後の横断歩道までやってくる。
間が悪く、青が赤に変わるタイミング。
明滅する信号機の手前で立ち止まった僕は、大きく伸びをした。
――ふと視界の隅に影。
黄色いランドセルを背負った少女が、僕の横を駆けていく。
思わずそれを視線で追う。
「あっ」
ガタガタガタ。
減速することなく横断歩道に突っ込んでくる大型のダンプカー。
スマホを片手でいじっている運転手が、少女に気が付くことはない。
「危ない!」
歩き疲れた身体に鞭を打って、僕は駆けだした。
そのまま、少女のランドセルに体当たり。
ドン。
ドン!
っと、紙一重の差で、二つの衝撃音が重なる。
一つは僕が少女を突き飛ばした音。
そしてもう一つは――
認識する暇がなかった。
身体が宙を浮く感覚。
衝撃。
痛みはない。
それより苦しさの方が勝る。
首が動かせない。
瞳をギョロギョロ動かして必死に状況を把握しようとする。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 大丈夫!」
駆け寄ってくる少女の黄色いランドセルが揺れる。
指先が赤に染まっている。
空は青い。
薄れゆく意識の中、僕は、これで信号の三色が揃った、なんて――とりとめもないことを思った。
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