Break the Chain
「強いだけじゃ意味がない、優しさを忘れるな……」
「え……?」
突然、そんなことを呟いたフィーへと兄妹が驚きながら視線を向ける。
二人からの視線を浴びながら、フィーは今の呟きについての話をし始めた。
「兄さんが教えてくれた、ヒーローの条件の一つです。失礼かもしれないけど、僕は今、この言葉の本当の意味がわかったような気がします」
「本当の、意味……?」
何が何だかわからないと、フィーの言葉に反応を見せるユイ。
そんな彼女とリュウガの前で、フィーは自分の小さな手を見つめながら話を続ける。
「僕は今まで、この言葉の意味を『持つ力を正しいことに使え』ってことだと思っていました。どんなに強くても、その力の使い道を間違えたら魔鎧獣やザラキのようになってしまう。だから、優しさを忘れるなって……そういうことなんだろうって思ってました。でも――」
「……でも、どうしたのかな?」
「――この言葉には、もう一つの意味がある。それは、『優しさのための強さを忘れるな』ってことだと思うんです」
そこで顔を上げたフィーが、リュウガを見つめる。
弱々しくも真っ直ぐに自分を見つめる少年の瞳を見つめ返しながら、リュウガは彼の話に耳を傾けていく。
「リュウガさんの心の中では今、ライハさんを助けたいって気持ちと敵討ちをしたいって気持ちがぶつかり合っています。復讐心と優しさがせめぎ合っていて、どちらを選ぶのも苦しい。リュウガさんやユイのことを考えれば、簡単に答えを出すことなんてできないってことはわかってます。でも、僕は……リュウガさんに優しさを忘れないで欲しいんです」
「………」
「リュウガさんが復讐のことだけしか考えない冷たい人だったら、こうして戻ってくることなんてなかった。そして、自分が進むべき道に迷って、葛藤することもないはずです。リュウガさんは優しい人だから……今、こうして迷ってるんだと思います」
リュウガの中にある迷いと苦しみは、彼が本当に優しい人間だからこそ生まれたものだとフィーが言う。
自分の話を黙って聞いてくれる彼へと、フィーは声を震わせながら気持ちをぶつけた。
「優しさを貫くには、強くならなくちゃいけない。兄さんはリュウガさんが迷うこともわかってたと思います。その上で、信じてるんです。リュウガさんは、自分の中にある優しさを貫き通せる強い人だって……!」
「優しさを貫くための強さ、か……」
強く握り締めた両手を胸に当て、涙をあふれさせながら語るフィーの姿と、眠り続けるユーゴを順番に見つめたリュウガが呟く。
その強さが自分の中にあると、自分を縛る過去という名の鎖に負けない力があると、相棒は信じてくれているのだろう。
だから、全てを託した。だから、笑顔でいられた。
信じてる……その言葉が何度も心の中で反響することを感じたリュウガが瞳を閉じる中、扉の外から看護師たちの慌ただしい声が聞こえてくる。
「急いで治療の準備を! 怪我人が搬送されてくるわ!」
「警備隊と魔導騎士が束になっても敵わないだなんて……!!」
「大丈夫なのかしら? もしもそいつがこの街を襲いに戻ってきたら、とんでもない被害が出るんじゃ……」
ザラキによる被害は今も拡大し続けている。警備隊も次々倒され、怪我人も増えるばかりだ。
ライハを助けに行ったマルコスたちも、もしかしたらやられてしまったのでは……と、嫌な想像をしたフィーとユイが不安気な表情を浮かべた時、大きな手が安心させるように二人の肩を叩いた。
「ユイ、フィー……何も、心配するな」
「……!!」
自分を励ますその声に、肩に触れる手の力強さに、兄に近しい何かを感じ取ったフィーが目を見開く。
二人の間を擦り抜けて病室の扉に手をかけたリュウガへと、ユイが声をかけた。
「行くのね、お兄様」
「ああ……この街にいるヒーローは一人だけじゃない。それを、証明してくる」
妹の声に振り向かないまま、リュウガがそう答える。
最後に小さく、ありがとうと言い残した彼は扉を開け、部屋を出ていった。
「……ありがとう、フィー」
「僕はお礼を言われるようなことはしてないよ。兄さんが信じた通り、リュウガさんが強くて優しい人だったってだけさ」
部屋に残ったフィーとユイが、静かに語り合う。
つい先ほどまで抱いていた不安は、二人の胸からは完全に消え失せていた。
―――――――――――――――
エゴスのこの後に関してなのですが、お話のテンポなどを考え、第三章の裏エピローグとして投稿する予定です。
なので、すぐには投稿しません。ただ、サポーター限定の近況ノートで冒頭部分だけを近日投稿する予定なので、それを見て末路を察していただけると幸いです。
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