デート中、小休止

「いや~! いい感じにセールがやってて良かったね! お陰で気に入った服が結構買えたんじゃない?」


「ああ。買い過ぎたせいで荷物の重さに反して財布が軽くなっちまったけどな。暫くは依頼を受けまくる生活になりそうだ」


「あははっ! しょ~がないな~! 私も付き合ってあげますか! なにせ、私はユーゴの相棒だもんね~!」


 太陽の位置が頂点から少し落ちた頃、ユーゴとメルトは服屋で購入した荷物を手に、カフェで食事を兼ねた小休止を取っていた。

 この店はメルトのお気に入りのようで、彼女がおすすめしてくれたコーヒーは確かにユーゴが転生前の世界で飲んでいたインスタントのそれとは比べ物にならないくらいに美味しい。


 喫茶店のマスターとは思えないくらいに厳つい容姿をしている男性を見つめながら、こっちの世界の食事が自分が住んでいた世界と左程変わりのないもので良かったと思うユーゴ。

 メニューを開いて、パスタやサラダといった見覚えのある料理名が並んでいるところを見ると、なんだかとても安心してしまう。

 生きていく上で切っても切れない食事という部分が性に合わなかったら、転生後の生活は悲惨なものになっていたんだろうな……と考えながらコーヒーを飲む彼へと、メルトが声をかけてきた。


「どう、素敵なお店でしょ? こっちに来てからすぐに見つけたお店で、ちょくちょく通ってるんだ!」


「おう。いい雰囲気の喫茶店だと思うぜ。あんましコーヒーに詳しいわけじゃない俺だけど、ここのは美味しいってそう思える」


「美味しいのは料理もだよ~! 食べ過ぎて動けない~! なんてことにならないようにね!」


 あはは、と楽しくメルトと笑い合いながら、ユーゴはこの後にやって来る料理への期待を募らせる。

 普段は学食か、あるいは購買に売っているインスタントの品で済ませているため、こういった店で食事をするのは楽しみだなと思いながら料理を待つ彼に対して、メルトがこんな質問を投げかけてきた。


「ねえ、ところでなんだけどさ……この前、手に入れた炎属性の魔法結晶を使ってのブラスタの強化って、どんな感じなの?」


「ん~……進んでるっちゃ進んでるけど、そうでもないってところかな? アンにお願いしてロケットアームを作ってもらったはいいけど、まだ使いこなせてないし……そもそもアンには別の強化プランがあるみたいだからさ」


「そっかぁ……スカルがプレゼントしてくれた物だし、有効に使いたいよね。素材に余裕があれば、それを使った武器とかも作りたいところなんだろうけどさ」


「難しいだろうな。それに、ヘックスが話してくれた通り、今は魔道具の素材を巡って生徒たちが決闘をしまくってるって話だしさ。そんな中で大量の素材を集めるのって、厳しいものがあるだろ」


「……ユーゴはその決闘に参加しないの? ある意味ではチャンスじゃない? ユーゴの強さなら連戦連勝も夢じゃないし、そうなったらあっという間に素材だって集められるんじゃないかな?」


「……あんまし好きじゃねえよ、そういうの。合意の上なのかもしれねえけど、人から何かを奪うのっていい気持ちはしねえしさ。そいつが頑張って集めたものだっていうなら、猶更だろ? それに、ヒーローの力は自分のためじゃなく誰かのために使うって決まってんだ。これ、ヒーローの条件、その四な!」


「ふ~ん……そっか」


 そっけない返事をするメルトであったが、ユーゴの返答は彼女の心にクリーンヒットしていた。

 真っ直ぐな正義感というか、誰かから何かを奪いたくないという優しい気持ちが伝わってくるその答えを聞いたメルトが、緩んでしまう口元を隠すように頬杖を突く。


(やっぱり不思議だよなぁ。どうしてこんな人が、最低最悪のクズって呼ばれてたんだろう……?)


 普通に好青年であるユーゴへの周囲の評価のおかしさに首を傾げるメルト。

 少し前に工房でアンヘルも似たようなことを考えていたとは思いもしない彼女へと、ユーゴが懐からコンパクト型の通信機を取り出し、それについての話を始める。


「そういえば、こいつも前に借りた時から改造して新機能を搭載したらしいぜ。俺も色々意見を出したんだけどさ、ユニークで面白いって言って、アンの奴も色々試してるみたいだ」


「そうなの? どんな機能を追加したわけ? 教えて、教えて!」

 

「えっとな、確か……」


「お待たせしました~! こちら、ご注文のお料理になりま~す!」


 少しだけ物騒だった話を切り上げ、自分が出した話題に乗ってくれたメルトへと得意気に通信機の新機能について解説しようとするユーゴであったが……間の悪いことに、ちょうどそのタイミングで注文した料理が運ばれてきてしまった。

 自分たちと同年代と思わしき女性の明るい声を聞いたメルトは、嬉しそうに笑いながら彼女へと反応を見せる。


「ありがとう、エーン! お腹が空き過ぎて、背中とくっついちゃうかと思ったよ!」


「あははっ! 大袈裟だなぁ、メルトは!」


「ん? もしかして知り合い、なのか……?」


 女性店員と親し気に話すメルトの姿を目の当たりにしたユーゴがそう問いかければ、彼女は大きく頷いて肯定の意を示してみせた。

 そのまま、メルトはその女性店員をユーゴへと紹介し始める。


「紹介するね。この子はエーン! このお店で働いてる、新人店員さんなんだ!」


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