VSブルゴーレム!

「敵影発見! 数は三! 魔鎧獣の種類は……ブルゴーレムですっ!」


「なんだとっ!? 見間違いじゃあないのか!?」


「間違いありません! リーダーと思わしい個体を中心に、左右に一体ずつ展開しながらこちらに突っ込んできています!」


「馬鹿な!? どうしてブルゴーレムが集団を形成している……?」


 見張りの隊員と報告を受けた隊長の話を耳にしたユーゴがその会話の意味を尋ねるようにフィーへと顔を向ければ、彼もまた驚きを隠し切れない雰囲気を醸しながらもこう説明をしてくれた。


「ブルゴーレムっていうのは、同種同士の対抗意識が強い魔鎧獣なんだ。顔を合わせたらどちらかが死ぬか逃げるまで戦いを続ける。そんなブルゴーレムが集団を形成するなんて、イレギュラー過ぎるんだよ」


 その説明を聞いたユーゴは、先の自分の考えが正しいという確信を覚える。

 本来ならば自分たちが直接戦うことでつけていたブルゴーレム同士の立場の優劣を、狩りという第三者を巻き込んだ形で決着させることを学んだ彼らは、進化ともいえる新たな生き方を見出してしまったのだ。


 同時に、彼らは自分より弱いものを嬲り殺す楽しみも知ってしまった。

 群れを形成し、移動を続けているのも、狩りの標的を探してのことなのだろう。


 このブルゴーレムたちを逃がすわけにはいかない。新しい習性を身につけてしまった彼らがそれを他のブルゴーレムたちにも伝えてしまったら、これまで単独で生息していた魔鎧獣たちが徒党を組み、獲物を襲うようになる。

 そんなことになったら動物たちにも人間にも甚大な被害が出るだろう。そうならないためにも、ここでこのブルゴーレムたちは倒すしかない。


(元をただせば、ラッシュのあの事件が引き金になって今もその影響が出続けてるってことか。人が変化した魔鎧獣……本来あり得ない、外来種の影響ってやつなのかもな……)


 あの事件からそれなりに時間が経ったと思うが、ヤムヤム山での一件やルミナス学園が休校状態になっていることも含め、その被害の爪痕はこうして残り続けている。

 本来ならばあり得ない、自然の摂理に反した存在と化してしまったラッシュのことを想いながら、外来種といえば異世界からの転生者である自分だって同じかと、この状況を招いた責任の一端は自分にもあるのかもしれないと考えたユーゴが拳を握り締める中、仇敵の気配を察知したスカルが復讐の炎を燃え上がらせると共に、真っ向からブルゴーレムたちへと突っ込んでいった。


「ヒヒーーンッ!!」


「あっ!? スカル、待てっ!」


 ユーゴの制止の声も聴かずにブルゴーレムたちへと突進したスカルが、リーダーと思わしき個体と正面からぶつかり合う。

 突進の勢いこそ互角ではあったが、重量という面で勝るブルゴーレムはスカルをその逞しい両腕で掴むも、スカルもまた全身から噴き出す炎で迎撃し、相手を跳ね除けてみせた。


「やるじゃん! スカル、燃えてるね!」


「仲間の仇が目の前にいるんだ、燃えないわけがないだろう。だが、あのままじゃマズいぞ!」


 魔鎧獣のリーダーにも負けていないスカルの奮戦に感心するメルトとアンヘルであったが、群れを形成しているブルゴーレムはそんなスカルを取り囲んで三対一で狩ろうとしている。

 このままでは数を活かされてやられてしまうとスカルの不利を見て取った二人が彼を助けるべく駆け出す中、警備隊もまた魔鎧獣たちとの戦いに参加していった。


「全員、うろたえるなっ! 予想外の事態かもしれんが、ブルゴーレムはブルゴーレムだ! 数が如何に多かろうとも、弱点は変わらんっ! 直接攻撃ではなく、魔法で迎え撃てっ!」


 強靭な肉体を堅固な岩石で覆ったブルゴーレムは鉄壁の防御力を誇る。

 ただしそれはあくまで剣や槍といった物理による攻撃に対してのみであって、魔力を含んだ攻撃には滅法弱い。


 数が多かろうとも、その弱点だけは変わらないという警備隊長の指摘を受けた隊員たちは動揺を鎮めると共に、その指示に従って遠距離からの魔法攻撃で魔鎧獣を攻撃し始めた。


「……下がってろ、フィー。戦いに巻き込まれないようにな」


「う、うんっ!」


 抱えた迷いを振り払うように首を振ったユーゴが背後に立つフィーへと声をかける。

 スカルを援護するかのようにリーダーと思わしきブルゴーレムに攻撃を仕掛ける警備隊と、それを煩わしく思ったであろうリーダーの指示を受けて彼らを襲いに駆け出した取り巻きの二体の動きを見たユーゴは、一度深呼吸をしてから走り出した。


(自分のせいかもだとか、それを悩んだり悔やんだりしてる暇なんてねえ! そう思うのなら、自分自身の手で責任を取るべきだろ!)


 こうなった責任の一端は自分にあるのかもしれない。だが、それを後悔するあまり足を止めてしまっては、何にもならないではないか。

 そう思うのなら……いや、仮にそんな後悔を抱えていたとしても、自分のやることは変わらない。


 その全てをひっくるめて背負ったまま、沢山の命を守るために戦うだけだ。


「メルトっ! アンっ! 魔鎧獣の片割れは任せたぞっ! 俺はこいつの相手をするっ!」


「わかった! 気を付けてね、ユーゴっ!」


 大ボスに挑む前に、まずは取り巻きの掃除だ。

 邪魔者を倒してから本命との戦いに臨むという特撮番組のお約束と、スカルの援護を担当する警備隊の護衛という目的の下、ユーゴは四本脚の疾走態とでもいうべき形態から二足歩行の戦闘形態へと姿を変えたブルゴーレムへと突っ込んでいく。


 筋肉を活からせ、威嚇するように吼える魔鎧獣の姿を真っ向から睨みながら、その威圧感に一切怯むことなく拳を握り締めたユーゴは、腕輪に魔力を注ぎ込むと共に大声で叫んだ。


「変身っ!!」



―――――――――――――――

感想で教えてもらったんですが、この小説も早いもので100話に到達していたみたいです。

応援ありがとうございます。感謝の二話投稿を楽しんでくださいね。

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