第17話

今日は曇天。まるでわたしの心を表しているようだ。

 悪役令嬢にならない!と決意したわたしは、中庭でのお茶の時に友達に3つのお願いをし、協力をしてもらっている。


 悪役令嬢といえば、1番にイメージされるのがライバルを階段から突き落とすというアレですね。

 夢の中の小説でもエリアーナは実行していたなぁ。

 いまのわたしに全然その気がなくても、実際に階段でなにが起きるかはわからない。

ということで、友達にはわたしは悪役令嬢になりたくないので、その1・階段を使う移動がある時はなるべく一緒にいてほしいこと、その2・わたしはキャロル嬢のことをなんとも思っていないのでキャロル嬢の悪口を言わないこと、その3・アーサシュベルト殿下となるべく接触しないようにアシストをしてほしいとお願いをした。


 アーサシュベルト殿下とわたしの仲をそこそこ上手くいっていると思っている友達たち(意図的にそうしていたんだけどね)は、「あのふたりを見てしまって、階段から突き落としたくなる気分なのね。やきもちを焼くなんてエリアーナも可愛いところがあるじゃない。殿下を少し困らせてやりましょう。悪口は趣味じゃないし、それは心配なくてよ」と楽しげに笑ってくれた。


 気づけば、もうお昼。

 アーサシュベルト殿下は右手を回復されたので、お役御免となったわたしは今日から階段事故があった以前のように、友達とランチがようやく出来る。


 食堂に行こうと準備をしていると、教室の入り口が騒がしくなった。

 クラスメートがわたしを手招きして呼んでいる。


 慌てて入り口まで行くと、そこにはアーサシュベルト殿下おひとりがいらっしゃった。

「…殿下。どうされましたか?」


 殿下がわたしのクラスを訪ねてくるなんて、こんなことは学園生活でも初めてのことだ。いままでは廊下ですれ違っても、わたしが会釈をするぐらいだったのに。


「昨日、一緒にランチが出来なかっただろう。だから、今日はランチを一緒にどうかな?エリアーナを誘いに来たんだ」

 眩し過ぎるぐらいの笑顔で誘われる。


 周りで様子を見ていた女生徒から感嘆の溜息やら、黄色い声が聞こえる。


 殿下を見上げたまま、突然のことで微動だに出来ないわたしは声も出ない。


「あら、エリアーナ。担任の先生に呼ばれてなかった?」

 先日の無茶苦茶な3つのお願いに協力してくれている友達の1人がヒョイと顔を出す。


 それで正気に戻ったわたしは、わざとらしいかなと一瞬頭によぎったが、ポン!と両手を胸の前で合わせてみた。

「!!ああ!そうでした。担任の先生にこの後すぐに呼ばれていまして、せっかくの殿下からのお誘いですが、行けそうにないです。本当に申し訳ありません」

 作り笑顔だけはいままで頑張ってきたので自信がある。ニコリと笑って、あとは残念そうに眉尻を下げてみる。


「そうなんだね。それは仕方ないな。また、誘うね」

 友達のナイスアシストのお陰でなんとか殿下からのお誘いを回避できた。

 戻られる殿下の背中をなんとも言えない気持ちで見送った。

 

 次の日もアーサシュベルト殿下はお昼のランチに誘いに来られたらしいが、そうなることをあらかじめ警戒して、授業が終わった直後に食堂に大急ぎで駆けて行ったので、顔を合わすことはなかった。


 殿下となるべく接触をしないよう学園生活を送りながら、友達の完璧なアシストもあって日々良い感じに過ごせている。

 

 ふたりの仲が進展したかどうかは気になるところだけど、キャロル嬢とも接触をしていない。

 この調子でいけば、悪役令嬢からの断崖絶壁ダイブも回避できそうだ。


 悪役令嬢を回避するため、友達もアドバイスをしてくれた。

 まずはわたしは窓際には近づかないこと。わたしの窓際の席と友達の廊下側の席を交代してくれる気合の入れよう。

 言われてみれば、悪役令嬢系の乙女小説では、ライバルが窓の下にいたら窓から水や植木鉢をライバル目掛けて落とす嫌がらせは王道だ。(良い子は本当にしてはいけません)

 偶然でも窓際にいて疑われてはならないので、窓際には近寄らないことになった。


 放課後、帰ろうと友達と廊下を歩いていると、後ろから突然、肩を掴まれた。


「やっと、エリアーナを捕まえられた!」

 驚いて、後ろを振り返ると息を切らしている殿下がいた。

「アーサシュベルト殿下!」

「エリアーナ、いまから時間ある?」

「執行部の仕事ですか?」

「ちょっと一緒に行きたいところがあって」


 困惑の表情を浮かべてしまう。

 そばにいた友達が気を利かせてくれる。

「エリアーナはいまから先生に呼ばれていまして…」

 アーサシュベルト殿下がニヤリと笑う。


「お嬢様方、今日はその手には騙されませんよ」

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