追憶・先月のこと
人を殺そうと思った。
人というか、まあ、人なら誰でも良かったわけではなくて。
明確にあの人とあの人を殺そう、と決意した瞬間があった。
高校の同窓会の報せが来て、とっくに地元から離れていた自分の住所がどう割れたのかが不気味だったが……楽しかった思い出も、仲の良かった友人も、一応は恩師も居たには居たし。
何より、トシキくんにも会えると思った。
眼鏡をコンタクトに変えて、ピアスもあけて、金髪になって髪を伸ばして内側を刈り上げてツーブロックになんてしちゃって。
でも、トシキくんなら「かっこよくなったね」と言ってくれる気がしていた。
僕がどんな見てくれになろうと否定しないでいてくれるという、確信じみた幻想を彼に抱いていた。
でも、いざ行ったらトシキくんは居なくて。
懐かしい顔ぶれが各々大人になって、あれ敬太じゃん誰かと思ったと薄ぺらい歓迎をしてくれて。
その中に柿崎という当時の友人が居て、彼が敬太こっち座れよと手を振ったので従って。
「敬太最近どう?」
運動部でいつも日焼けしていた柿崎は記憶より少し色白になっていて、しかしガタイが良くて筋肉質なのは変わらなかった。
僕は眼鏡を外したのに柿崎は当時かけていなかった眼鏡をかけている。
「まあ……ぼちぼち幸せかな」
「そっかあ。俺、前にいろいろお前に酷いこと言ったろ。あれずっと謝りたくて。ごめんな」
「……いいよ別に」
「ありがとうな、まあ俺も馬鹿だったんだ。ガキだったしな」
いいよ。
別に。
君の酒のつまみ程度の謝罪なんか響かないし。
君の後悔なんてなんの価値もないし。
どうでもいいよ、別に。
「そういえば──」
自分が他人の人生に影響を及ぼしていると信じて疑わない、傲慢な連中。
自分の言葉で他人が泣いて、自分の謝罪で他人が許すと思い込んでいる、お花畑みたいな人達。
そんな人達を僕は友人と呼んでいる。俺達友達だよなと言われればそうだねと頷く。
傲慢だと思うが嫌いではない。彼らは『普通の人』だから、彼らを嫌いになるのはつまり自分が社会のつまはじきものだと認めることになる。
それは、少し、負けた気になるから。
だから彼らはあくまでも、友人なのだ。
「──鴨川トシキ、あいつ今どうしてるか知ってる?」
「……」
「あいつ、なんか高校卒業してからヤバい人達と関わり持ってたみたいで……行方不明だって」
「……そうなんだ」
「お前あいつのこと好きだったろ。付き合ってたの?」
「ううん、そういうのじゃないけど……」
「俺、あの頃とは違うから。なんでも相談しろよ」
「うん」
それからそれなりに楽しく飲み会をして、二次会のカラオケは断って繁華街をひとりで帰ることにした。
駅に向かう途中、薄暗い路地でキスをしているカップルが居て。
あ、この人達を殺そう。
そう思った。
こっそりあとをつけて、自宅方向とは逆の電車乗って、彼らの住居近くに山があるから埋めようと決めて始発で帰宅した。
とりあえず最後と思って実家に帰ることと、ついでに肉切り包丁を持ち出せたら御の字だ。
あとは何が必要だろう。分からないから考えても無駄だ。とりあえずやろう。
自分が今どういう気持ちなのかよく分からなかった。
たぶん、むしゃくしゃしていた、のだと思う。
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