第14話

リュディガーは私の首筋にキスを落としながら徐々にドレスをはだけていく。

抵抗?するだけ無駄。

いっその事、舌を噛んで死んでやろうかとも考えたが「余計な事は考えない方がいいですよ?」なんて言われて死ぬ気も失せた。


私ができるのは唯一、この行為が早く終わることを祈るだけ……


コルセットも外され「いよいよか……」と覚悟を決めた。

その時……


バンッ!!!


「アリア!!!!」


勢いよくドアが開き……いや、ドアを蹴り破って現れたのはまさかの人物。


「……ヴェルナー……?」


私は目を見開いて驚いた。


「ッ!!リュディガー!!お前!!」


ヴェルナーは私の姿を見るなりリュディガーに殴りかかった。

私はその時になってようやくあられもない格好をしている事に気づき慌てて布団にくるまった。


いつもおちゃらけているヴェルナーの雰囲気は一切なく、殺気を放ちながらリュディガーを殴り続けていた。

リュディガーは抵抗する様子もなく黙って殴られている。

リュディガーには散々怖い目にあったし、当然の報いだと思っていたが、今のヴェルナーは本気で殺りかねない。

流石に止めに入ろうとした所で、私より先にヴェルナーを止めた人物がいた。


「そのぐらいにしとけ」


落ち着いた声なのに冷たく怒気を含んでいる声。この声主はおじ様だった。

その後ろにはおば様とお父様、お母様まで勢揃いしていた。

共通点として、みんなの殺気がヤバい。


「アリアちゃん!!無事か!?怖かったなぁ~!!遅そうなってごめんな!!」

「良かった……アリアちゃんにもしもの事があったら……」


おば様とお母様が私の元に来るなり泣き出した。

私も解放された安心感でぶわっと涙が溢れてきて、女三人で泣き出すと言う事態になってしまった。


部屋の片隅ではリュディガーが縄で拘束され身動き出来ない状態になっていた。


「……さて、リュディガー。弁解があるなら聞くが、この状況では弁解もなにもないだろう?」


おじ様がリュディガーに問いかけるが、リュディガーは黙って下を向いたまま。


「何か喋れや!!」

「ヴェルナー!!」


苛立ったヴェルナーがリュディガーを蹴り飛ばし、おじ様がすぐに止めに入った。

それでもリュディガーは一言も喋らない。


すると私を抱きしめてくれていたおば様がリュディガーの元へ行き、胸ぐらを掴んで無理やり立たせた。


「おい、いつまで黙っとるつもりや。そない卑怯もんに育てた覚えはないで」


ドスの効いた声で本気でリュディガーを問い詰めるおば様は私でも震え上がるほど怖かった。


「……はぁ~……なんなら殺してくれても良かったんですけど?」


漸く口を開いたかと思えば、殺してくれだと?

その言葉におば様もおじ様もヴェルナーまでもがピクッと顔を歪めた。


「アリアちゃんが自分のもんにならんなら生きてる意味無いっちゅうことか?随分と弱い男になったなぁリュディガー?」

「……母様には私の気持ちなんて分かりませんよ」

「分からんなぁ。好きな子を怖がらせて傷付けて……それでよぉ好きだと言えたもんやな」


そう言って責めるおば様をリュディガーはギロっと睨みつけていた。


ここで今まで黙っていたお父様が口を開いた。


「……リュディガー。少し前にあった屋敷の張り紙も君の仕業だね?」

「えっ!?」


お父様の言葉に驚いた。

まさか、リュディガーがそんな事までしてたの……?


「そこからは僕が説明するわ」


ヴェルナーが前に出て、説明を始めた。


「そもそもアリアの屋敷周辺は僕の担当地区や。アリアの屋敷周辺は大通りから外れとるが、人通りはそこそこある。そないとこで目撃者が一人もおらんのがおかしいんや。だからその日、事件が起きるまでの時間と警備に当たった奴の時間を比べ合わせたんよ。するとな、僕の班に空白の時間をもっとる奴がおったんよ」


「……グルーナ。知っとるやろ?」声は落ち着いているのに酷く冷たい声で問い詰めたが、リュディガーはすました顔で「……さあ?知りませんね」と一脚した。


「ほんに諦めの悪いやっちゃな……グルーナが全て話したんよ。数分だけ人を足止めしとく様に脅されたってな」

「グルーナの他にも数人の騎士が絡んでいるだろ?私が気づかないと思ったか?愚か者め」


おじ様が軽蔑するような目を向けた。

リュディガーはグッと唇をかみ締めかと思えば、タガが外れた様に叫び出した。


「あぁ、そうですよ!!全て私が仕組んだんです!!アリアと兄様の仲を割くためにね!!アリアを手に入るなら悪魔に魂を売ることだって出来る!!」

「お前ッ──!!」

「先に生まれたってだけでアリアの婚約者になった兄様はいいですよねぇ!!私はいつも兄様のおまけでしたからね!!」


悲痛な叫びに私はギュッと拳を握った。


「アリアが婚約破棄したいと言い出した時には歓喜しましたよ。これで私のものにできると確信しましたからね!!」

「は?婚約破棄?」

「そうですよ?兄様との婚約破棄をアリアが願ったんです。あれ?もしかして兄様愛されてるとでも思ってたんですか?あはははははっ!!とんだ勘違いじゃないですか!!滑稽ですね!!」

「黙れ!!」


ガンッとヴェルナーがリュディガーの顔を殴りつけ、馬乗りになって更に殴ろうとしている。


「あはははははっ!!そうです、そのまま私を殺せばいい!!兄様に殺されたと言う記憶は一生アリアの心に楔となって残るでしょう!!」


狂ってる……

記憶の中の可愛らしいリュディガーの面影は一切ない。

目の前にいるのはただ、己の欲望のままに動くだ。


ヴェルナーもリュディガーも正常な状態ではないと判断され、おじ様とおば様が一旦連れて行き、この件はひとまずおじ様の預かりとなった。

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