【 逃がれの街 】レビュー

Eternal-Heart

愛読書

皆様の愛読書は何ですか?



辞書によると

【愛読書】とは

一度や二度ではなく、何度も読み返すほど気に入っている、または日頃から読んでいる本を指す。


シンプルに、これまでに最も多く読み返した本、と言ってもいいかも知れません。




『 ロング・グッドバイ ( 長いお別れ ) 』の巻末の解説で

村上春樹先生が書かれていた感想が

愛読書を、とても端的に表現されていて

しっくりきます。


「 初めて読んだのは高校生の頃だった。

以来40年に渡り、折に触れ手に取ってきた。

初めから終わりまで通読する事もあれば

適当なページから、拾い読みする事もある。

一枚の大きな油絵を、俯瞰で眺めたり

時に近寄り、細部を眺めるように 」




また、北方謙三先生は自身の愛読書のひとつ

『 ヘンリー・ライクロフトの私記 』について

このように語っています。



「 ヘンリー・ライクロフトという作家が

知人の遺産を相続し、小さいが清潔で快適な家を手に入れ、淡々と自適な日々を送る。


鳥の鳴き声と、煌めく陽の光で目覚め

豊かな自然を身体で感じながら散歩をする。

好きな本に没頭し思索に耽け、時に執筆する。暖炉の元で、静寂の夜に酒を飲む。


理想的な人生の黄昏である。

この暮らしに憧れ、読みながら情景を思い浮かべたものだった。



ところが、穏やかで静謐な日々の中に

対極の奇妙な切迫した、緊張感 漂う気配を

感じる不思議な小説でもあった。



当初、この作品をギッシングの自伝的な小説だと思っていた。

後に、

この小説は、46歳で闘病中のギッシングが

不遇と病苦の中で、切望した

ささやかな幸せに彩られた、理想の暮らしを

描いた遺作であった事を知り、愕然とした。



そう思うと、描写の中にある緊張感が

無理なく理解できる。


ひとつひとつの事象が

異様なほど、澄んだ描写で表わされ

読む方にも、微妙な緊張を強いてくる。


人間が切望したものは、現実の穏やかさとは

まるで違う

祈りにも、死にも似た、静けさがある。


そこに小説家としての本質を見たからなのか

私の心を捉え続けている作品である 」

と述べています。




そして、私の愛読書は

『逃がれの街』/北方謙三(1982)

です。

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