ショート劇場「焼き芋ロジック」

タヌキング

焼き芋から始まった

俺の名前は相川 進(あいかわ すすむ)。高校2年生の何処にでもいる男子高校生だ、以上、自己紹介終わり。

さて、俺は天秤座なのだが、今日の朝のテレビの占いで【普段やらないことをやろう】と書いてあった。何となくそれを覚えていて、夜に石焼き芋屋の声を聞いたら、そういえば石焼き芋なんて普段買いに行かないと思い、ほんの気まぐれで外に買いに行くことにした。

『いしや〜きいも〜♪』

「はぁ、はぁ・・・ちょ、ちょっと待ってくれ。」

予想より石焼き芋屋が先行しており、追い付く為に帰宅部の俺が走らされている。これで良いことが無かったらテレビ局に苦情の電話入れてやる。

5分後、やっと屋台が見えて来て、ホッと胸を撫で下ろす俺だったが、そこには先客が居た。

上下グレーのスウェット姿の黒髪ロングの女の子・・・あれ?あれはもしかして、同じクラスの鳥居 聖子(とりい せいこ)さん?

鳥居 聖子さんというのは、才色兼備整ったクラスのマドンナ・・・いや学校のマドンナ的存在であり、その美貌で数多もの男達を惑わしてきた人である。その人がまさか上下スウェットで焼き芋を買っているなんて意外過ぎて言葉も出ない。

「おじさん焼き芋6つ・・・いや7つ。」

「あいよ、お嬢ちゃん、いつも凄い買って行くね。」

「はい、焼き芋大好きなんで♪」

7つも焼き芋をたべるのか?好きにしても食べ過ぎでは?

そう思って鳥居さんと焼き芋屋のおじさんのやり取りを見ていると、こちらの視線に気づいたのか、鳥居さんがこちらを見て、彼女は顔を歪ませて、まるでこの世の終わりを体現した姿を僕に見せてきた。どうやら焼き芋を買っているところを誰にも見られたくなかった様だ。

「はい、お嬢さん。焼き芋7つ。おっ、そこの兄さんも焼き芋買いたいのかい?」

「は、はい。」

おじさんが焼き芋の入った袋を鳥居さんに手渡し、鳥居さんが精気の無くなった顔で会計を済ませると、今度は俺が焼き芋を買うことになった。ここまで来たので焼き芋は買って帰るが、早々に買ってこの場を立ち去ろう。鳥居さんが俺を睨んでる気もするし。

俺は焼き芋を2つ買って、足早に家路に着くことにした。だが、ここで緊急事態発生。なんと鳥居さんが俺の後を付けて来ているのである。さっきから彼女の視線が俺の背中に刺さりまくりだ。

これは何か言わないと駄目だろうか?

決意した俺はくるりと後ろを振り向いた。すると鳥居さんは不機嫌そうな顔で左手に焼き芋の入った袋を持ち、右手に持った焼き芋をバクバクと食べている。なんかヤケクソ感があるな。

「あ、あの・・・何か用ですか?」

恐る恐る俺がそう聞くと、チッと舌打をして、ため息を吐く鳥居さん。いつも学校で愛想を振りまいている姿からは想像もつかない悪態である。

「まぁ、仕方ないか・・・モグモグ、ゴックン。」

食べていた一本の焼き芋を食べ終わり、鳥居さんはとんでもないことを言い始めた。

「責任取って、私と付き合いなさい。」

・・・ん?待て待て、頭がバグる。えーっと駄目だ。思考回路が完全にイカれやがった。

「ピガガ・・・イミフメイ。」

「何を壊れたロボットの真似をしてんのよ。真面目に聞きなさいよ。」

ギロリと睨まれて正気に戻ると共に、背筋が凍った。これは壊れている場合ではない。

「は、はい、すいません。調子に乗りました。でも付き合うって・・・何事ですか?」

「私が芋買ってるの見て、どう思った?」

「えっ?どうって?」

「どうせ家で屁でもこいてるのかな?とか思ったんじゃないの?」

「い、いや、その・・・。」

「正直に言いなさいよ。」

ここは正直に言うのが良い気がする。

「しょ、正直、少し思いました。」

「あーはっはははは!!」

突然笑い出す鳥居さん。気でも狂ったのだろうか?住宅街だからあまり大笑いするのは宜しくない。

「はーっはは・・・ふぅ、正解よ。」

"ブッ"

・・・あれ?もしかして鳥居さん、今屁を?

「私は芋食いながら屁をこく女よ。どう幻滅した?」

正直、クラスのマドンナとしての虚像は壊れたが、屁なんて誰でもこくだろうし、別に幻滅はしない。

「僕は別に幻滅なんか・・・」

「まぁ、アナタが幻滅しようが、しまいが関係ないんだけどね。」

か、関係ないのかよ。思わずズッコケそうになったわ。

「問題なのは他人に私が芋好きなのかまバレてしまったこと。イヤなのよ、身内以外に弱味握られるの。だからアンタと結婚することにしたわ。こうすればアンタが身内になって、何の問題も無いわ。うんうん、実にロジカルだわ♪」

「け、結婚って!?」

「嫌とは言わせないわよ。私の屁をこいてる姿を見たんだから責任取りなさいよ。」

あぁ、やっぱりさっきのは鳥居さんのオナラだったのか、臭いはこっちまで届かなかったから幻聴かと思ってた。

「それに私だって、もう少し格上の男を婿にしたかったわよ。でもまぁ、妥協に妥協を重ねて、ギリギリギリセーフにしてあげるわ。」

「そんな嫌嫌じゃないですか。無理して僕と付き合ったり、結婚しなくても。」

「駄目よ、アンタが私が屁をしたことを言いふらしたらと考えたら殺意が湧くもの。私は人殺しにはなりたくないの。」

物騒、あまりに物騒な考えの鳥居さん。これは結婚するか死ぬかの究極の二択だな。僕も命は惜しいし、考えようによっては、これは美女と付き合えるチャンスだ。

「と、とりあえず、付き合うのはオッケーです。鳥居さんの気分次第で別れても文句は言いませんし。」

「バカね、私ってこう見えて一途なのよ♪一度捕まえた獲物は逃さないわ♪」

ケッケケと笑う鳥居さん。その姿には、もうマドンナのマの字もありゃしない。

「とりあえず、アナタは家事と料理を勉強しなさい。私が働くからアンタが専業主夫になるのよ。」

もう付き合う先を見据えられてる。色々凄いなこの人。

「僕は夢もやりたいことも無いので別に良いんですが、カップ麺しか作ったことのない僕が料理なんて無・・・。」

「はいはい、無理とか出来ないとか言う人は嫌いです。そんなの全然ロジカルじゃないわ。まずは全力で努力しなさい。私のために。分かったわね。」

凄い圧だ。こんなの断れるわけないが、これで結婚したら完全に尻に敷かれる未来が確定している、

「あーっははははは♪」

"ブッ"

・・・とりあえず尻に敷かれるのは構わないが、敷かれてる時に屁をこいてくるだけは勘弁してほしい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショート劇場「焼き芋ロジック」 タヌキング @kibamusi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ