第86話:伊400の休息②

 要塞“高天原”に通じるトンネルに入った伊400はひたすら進んでいく。


「既に入ってからどれだけ経過したか分からないが体感では一時間ぐらいか? 最も時計も全て止まっているから時間の概念が分からない」


 日下は時が止まった腕時計を見ながら呟くと橋本も頷きいつになったらトンネルから出るのでしょうかと言った時に通信室から再び電文を受信したのでモニターに転送しますとの報告が入る。


 モニターに転送された神代文字を解読しながら読み終わると日下は溜息をつくと司令塔の乗員に聞こえるように喋る。


「何と言うか……次元が違いすぎるな。この要塞のスペックだが……収容可能艦船ドックだが2万隻分あり、要塞の大きさだが直径千キロで、巨大な整備ドックとありとあらゆる時代の最新鋭兵器工場、食料自動生成穀物貯蔵庫が揃っていて死者蘇生以外ありとあらゆる病気をも完治させる病院等や娯楽施設のインフラ設備が充実しているばかりか要塞運営の居住施設があり計400万人もの規模を内包するという」


 日下の説明に誰かがそれって……某小説に出てくる要塞にそっくりですね? と言うともう一人がまさかその要塞には主砲があるのですかね? という。


 その時、航海科から前方300メートルに出口らしきものありと方向が入る。


 日下がモニターで見ると確かにトンネルというか回廊の出口らしき方向が明るいのを確認する。


「さて、どんな所なのかな?」


 数分後、遂に伊400は回廊から出ると再び無線が入り、浮上して指示されたドックに入港するべしとの事。


 日下は頷くと伊400浮上を命じる。


バラストタンクから海水が吐き出されて浮力が生じてゆっくりと伊400は浮上していく。


「間もなく海上に出ます……5秒前……3秒前……1秒前……浮上です!」


 海面が盛り上がり独特のシルエットをした艦橋が出現して完全に海上に躍り出ると日下と橋本が艦橋ハッチを開けて外に出る。


「……凄い! これが……移動要塞“高天原”……」


 正に伊400の正面に超巨大な大城壁に囲まれている要塞外殻が目前に迫る。


 するとその外殻が自動的に一部が開いてドックNo.13,423番に入るよう空間ホログラムが表示される。


「……開いた口が塞がらないという言葉はこのためにあるのかもな? さあ、ドックに入渠するぞ」


 伊400は指示されたドック番号に通じる開門扉に入っていくとSFでしか見たこともない情景が目に飛び込んでくる。


「……もう何が起こっても驚かないようにしよう」

「ええ、そうですね」


 伊400がドックに入り指示された地点にきっちりと停止するとガントリーロックが上がってきて船体が固定される。


「よし! 接岸完了だが……これからどうしたらいいのかな?」


 そう日下が呟くとドック出口らしきドアが開くと一人の人物が笑みを浮かべて日下の所にやってくる。


 不思議と日下は彼に親近感を覚えて対面すると敬礼して挨拶する。


「有難うございます、そして……ようこそ! 次元並行世界移動要塞“高天原”へ」


 お互いに挨拶するとこの要塞の過ごし方について説明を受ける。


 特に難しくはなく普通に元居た世界と全く同じ生活が送れるとの事等を説明されて最後に日下も吃驚する内容を喋ってきた。


「実は貴方達が応募したのは外れだったのですが特別に我が主たる天照様の御威光により招待となったのです」


「あ、天照様が!?」


 日下が吃驚すると彼は優しい笑みを浮かべて日下の言葉を引き継いで教えてくれる。


「天照様は日下艦長が過去、数えきれない程の並行世界に行って日本を救ってくれたせめてもの感謝の印だとのことです。日下艦長が転生して全く別の世界で赤ん坊から始めるのを捨てて永遠に生きる選択をしてくれた事に感謝しています」


 彼の言葉に日下は照れながら自分はそんな高貴ではなくただ、この伊400という最初で最後の潜水空母が大好きであったので伊400と再び乗れるのならと永遠に生きる選択をしたのですという。


 彼はそれでも何百年もの気が遠くなる程、日下がしてきた事に感謝すると言い一番大事な事を最後に説明してくれる。


「この世界は時間の概念がありませんので気が済むまで滞在できますがその半数が元の世界に戻るのを拒否してこの世界に留まる人もいます。私が言いたいのはこの世界に来た者にとってある試練の一つです。元の世界に戻り、激動の人生を再び歩むのかこの世界で平穏に永遠に過ごすかと言う心の決断です」


 彼の言葉に日下は成程と頷いて確かに試練の一つだと感じる。


 もし、乗員の中にこのままこの世界に永遠に逗留することを選んだなら快く送り出してあげようと考えていたのである。


 最も日下自身にとってはそんな気持ちはなく、一刻も早く修理及びパワーアップして元の世界に戻ると言う気持ちが強いのであった。


「それではこの世界での休息をお楽しみください。自由に何処にでも行けますよ? 超高速リニアモーターカーも走っておりますので。艦の修理も兵器の補充も無料で好きなだけ出来ますし兵器工廠で未だみたこともない超兵器を購入することも出来ます。これは初めてこの要塞に来た方達にお配りしているのですがこれがあれば全て無料になります。最も二回目に再びこの要塞に来たなら稼がないといけませんが」


 彼は一枚のカードを渡してくれて乗員達の飲み食いやありとあらゆる娯楽施設が無料で好きなだけ使えられることを言うと再びお辞儀をしてドックから出ていく。

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