第73話:我が軍は圧倒的でないか?

 メキシコ国境を抜けた米国陸軍三個師団は、威風堂々と陣形を整えて進撃している。

「薄汚いジャップが制圧しているサンティエゴまでもうすぐだな!」


 バイエン大将は指揮車の椅子に座りながらサングラスをかけてパイプを口に咥えて喋る。


 その様子を見ていた参謀がマッカーサー大将の真似をしているのですか? と聞くとバイエンは頷くと敬愛するマッカーサー閣下の真似をしていれば幸運をあやかるだろうと言う。


「閣下! 遥か前方にサンティエゴ海軍基地が見えます!」


「よろしい! 三手に分かれて突入するぞ! ジャップの軍団は二個師団と聞く。一気に粉砕して黄色い猿を太平洋に叩き出すのだ!」


 凄まじい歓声が上がると共に先陣を任された戦車部隊が勇ましい音をたてながらサンティエゴ基地に通じる道路を爆走していく。


 バイエンは勝利を確信していた。


♦♦


 少し時を戻して大晦日の日も終わる頃、サンティエゴ基地内にて将兵たちがずらりと並んで整列していて彼らの前には『樋口季一郎』大将が壇上に上がっていてその右翼と左翼に『牛島満』中将と『栗林忠道』中将が並んでいる。


 そして全将兵の右手には小さな杯がありそこにはなみなみと日本酒が入っていた。


「諸君! 本来ならば明日は正月でゆっくりしたいであろうがそうはいっておられない! 明日の明け方に米帝軍が殺到してくる。本格的な戦いが始まるだろうが一方的に蹂躙されるのは敵さんの方だ! この杯は死にに行くのではなく明日も皆一緒に一人の犠牲もなく作戦を終了するための物だ! これより乾杯の音頭を取る」


 樋口の言葉に皆が杯を上にあげて次の語句を待つ。

「乾杯!!」


 樋口の号令と共に皆が杯の酒を一気に飲み干すと地面に叩きつける。

 パリ~ン・パリ~ンと割れる。


「明日の勝利の為に!」


 凄まじい歓声が沸き起こると壇上にいた樋口・栗林・牛島もお互いに顔を見合わせると大きく頷く。


 そして……年が明けた朝方、偵察に出ていた隊から地を覆う戦車軍団を発見したと連絡がいく。


「ふふふ、いよいよだな。防衛拠点に連絡! 発射の命令は現場に任すと通達!」


 樋口の命令が防衛施設に行くと了解との返答が来る。

 既に牛島軍団と栗林軍団が配置についている。


「バロン西、どうだ? 貴様にとって初陣だろ?」

 栗林の言葉にバロン西こと『西竹一』少佐はにっこり笑いながら栗林にまさかと言い武者震いをしていますよという。


♦♦


 バイエン率いる各戦車部隊は紡錘陣形を保ちながら密集して進撃してくる。


「くくく、ジャップめ! 覚悟しろや!」


 その瞬間、突如……耳の奥の鼓膜が吹き飛んだと思うぐらいの凄まじい轟音が米軍全体を襲う。


「な、何だ!?」


 その瞬間、直下型地震かと間違うぐらいの今まで経験したことがない地響きと共に戦車数百台が紙切れのように一瞬で吹き飛ばされていく。


 あっという間に阿鼻叫喚の地獄が出現する。

 轟音が数十秒ごとに聞こえると共に地面が根こそぎ吹き飛ばされて兵士も全身が千切れ飛んでいく。


 最悪な事にバイエン大将も初撃で天に召されて指揮系統がズタズタに分断されて大混乱に陥る。


 一瞬のうちに三個師団が壊滅していく様子を見ていた樋口は改めて絶句していた。


「……これほどとは……な、流石は世界最強戦艦“大和”の46センチ主砲だな」


 そう、実はサンティエゴ基地の東西南北には各二門ずつの46センチ主砲が備え付けられていてそれが炸裂したのである。


「亡き石原閣下が手を回して優先的に手配してくれたお陰だ。見たか、米帝兵! これが日本が誇る最強の矛だ!」


 双眼鏡で確認すると三個師団は壊滅状態になっていて精神がまともな者は殆どいない状態だった。


 生まれて初めて経験した凄まじい恐怖を体験した米帝兵達はパニック状態になって戦闘不能になっていてそれは各士官達も一緒だった。


 断続的に襲い掛かる巨弾に次々と部隊が破壊されて遂に師団の統制が崩壊して蜘蛛の子が散らすように敗走していく。


 その様子を見ていた栗林とバロン西は拍子抜けた様子で敗走していく米軍を眺めていたが樋口から進撃の命令が下されると車上の主となって進撃する。


 開戦の火ぶたが切られた僅か一時間で勝敗は決し、米帝軍は実に八割以上の戦死者や先頭車両の損失を出して事実上、崩壊したのである。


「閣下の言う通り、こちらは一兵の負傷者も出さずに完勝しましたがこれで奥の手の一つは敵に知られることになりましたね? アイゼンハワー率いる主力部隊の戦いではこうも完勝できないでしょうね?」


 牛島の言葉に樋口も頷くとこの勝利に驕ることなく陣地の構築をしなければいけないと言うと牛島も頷く。


「先の沖縄と違ってここには資材も豊富にあり理想的な防御陣地を構築できます。恐らく栗林も一緒だと思います」


 樋口は圧勝したといえど勝利の実感は殆どなくこれから起きる戦いは正に地獄の様相を示すだろうと思い己が出来ることをしっかりと愚直に徹していこうと改めて誓う。


「これも全てリメンバー・パールハーバーがないお陰であろうな? もし、あればこうも簡単に崩壊しなかっただろう」


 その樋口を年が明けた空の上に輝く太陽は優しく照りかけていたのである。

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