第24話:困惑

「……う~ん……いたた! 皆、無事か?」


 護衛艦“しらね”艦長『山崎塔屋』二等海佐の声に艦橋にいた乗員達から無事ですとの連絡が入る。


「被害状況を確認して報告! “いせ”は大丈夫か?」


「はい、当艦から三百メートル横を航行しています……あ、久留間艦長からTV通話が入っていますので切り替えます」


 乗員がTVモニターをONにすると“いせ”艦長の久留間が出る。


 お互い、敬礼をして無事を確認し合うと共に現在、艦の被害状況を調査していると。


「久留間艦長、先ほどの金床雲は……一体?」


「さあな、私も数十年間海で生きて生きたがあんな積乱雲は初めて見たがどうやら両艦共無事で何よりだ。今、ハワイの演習艦隊司令部と通信を試みている途中だ。アンテナの調子がおかしいようだ」


「了解しました、こちらでも試みましょう! それでは失礼します」


 お互い、敬礼しあうとTVモニターの電源を切る。

 山崎は艦長席に座るとハワイの司令部との通話を試みてくれとの命令を出す。


 十分後、被害状況の有無の報告があったが衛星通信アンテナが折れていて短距離通信しか出来ない旨を“いせ”に連絡すると同じく衛星通信アンテナが根元から折れて使用不可能だという。


「久留間艦長、こちらからSH-60J哨戒ヘリを出しますので」

「了解した! こちらも同じく哨戒ヘリを出そう」


 十分後、“しらね”と“いせ”からそれぞれ哨戒ヘリが出動して二機がハワイ方面へ向かって行った。


♦♦


 その頃、ミッドウェイ方面を偵察飛行していた“瑞鶴”所属のゼロ戦二十一型二機が右前方遥かに二機の飛行物体を発見する。


「赤坂一等兵曹、確かめるぞ!」


 『新津道彦』少尉が風防内から手で合図すると赤坂も頷く。

 二機のゼロ戦は臨戦態勢に入ると護衛艦のヘリに向かって行く。


 一方、“しらね”“いせ”から飛びだった哨戒ヘリも又、レーダーで探知していた。


「来栖一尉、レーダーで未確認機発見しました! 速度は四百二十キロ前後でどうやらレシプロ機のようです」


「まあ、米軍所属だろうな! とにかく味方識別信号を出しているから向こうも気付くだろう」


 三分後、ゼロ戦二機は哨戒ヘリを視界に捉えるが新津と赤坂は怪訝な顔をする。

「少尉! 見たこともない飛行機? ですが胴体に日の丸が描かれています」


「……ああ、もしかしたら本国で極秘に造られた最新機かもしれないな、翼を振ってみようか」


 そして哨戒ヘリも又、戸惑いを見せていた。


「……なあ、あれはどうみてもゼロ戦ではないか? しかもあれは初期型の二十一型だな? アメリカは何を考えているのだ?」


「うん? 浅水一尉、あのゼロ戦……翼を振っているぞ? 味方だという意思表示だがどういう意味だろう?」


 そうこうしている時にゼロ戦二機は哨戒ヘリの頭上を通過する。


 ゼロ戦二機は本国から送られてきた航空機と認識しているので敵と判断していなく哨戒ヘリも又、米軍の仕業と思っている摩訶不思議な状態であった。


 護衛艦“しらね”では哨戒ヘリからの報告で???状態であった。


「ゼロ戦が二機? ゼロ戦って……旧日本海軍の戦闘機だがヤンキーの考えている事は分らんな」


 山崎が頭を捻っている時に操舵手の『光浪広助』准尉がもしかするとここは我々がいた令和の世界ではなくて昭和の初めの時代かもしれませんと言った時に山崎もまさかと思ったが昔から仮想戦記が大好きだったので現実かもしれないと思い哨戒ヘリにモールス信号でゼロ戦と意思疎通をしてみろと命令する。


 その結果、とんでもないことが分かり至急、久留間に連絡を取ると彼も直ぐに出て哨戒ヘリからの報告を聞いたと答えるがそんな馬鹿なことがあるかと反対にヘリのパイロットが先程の金床雲の影響で狂ったに違いないという。


「久留間艦長、私も半信半疑ですが米国の真珠湾と連絡も取れないのはどう考えてもおかしいと思います」


「確かにそうだが……貴官の言いたいことは、ここが平行世界の別の日本でハワイ諸島を占領した時代だというのかね? 馬鹿らしい!」


「しかし、現実に何処とも連絡が取れないのはおかしいのでは? 英国艦船も繋がりませんし……取り敢えず、哨戒ヘリを彼らの言う日本機動部隊の所まで案内してもらっては如何でしょうか?」


 久留間はそんな非現実的な事や超常現象を信じていないが確かに今の状況はおかしいと思い山崎の提案を是とする。


 ゼロ戦の案内で哨戒ヘリ二機はそのまま飛び続けると海上に白い航跡を引いて進む艦隊を発見する。


 高度を下げて映像録画を開始する。

 この情景は通信で“しらね”と“いせ”に送られる。


 ヘリが写している映像を見て山崎も久留間も絶句する。


「……すげえ……大東亜戦争時の日本海軍の軍艦じゃないか! あれは……瑞鶴だな、後部甲板に“ズ”と描かれている」


 護衛艦“いせ”艦橋で久留間はとんでもない事態に巻き込まれた事でどうしようかと言う思いで一杯だった。


「この時代では米国と戦争をしているが私達の時代では同盟国だ! 何とかして中立を守り介入しないようにしないといけないな。そして、早く元の世界に戻らないといけないぞ」


 それから久留間は山崎にもこの時代には一切、関わらないように釘を刺すが彼は反対に積極的に手を貸そうと思っていたのである。


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