第17話:怒り狂う悪魔
「……もう一度いってくれないかな? スチムソン君?」
ホワイトハウス大統領執務室にて第三十二代大統領であるルーズベルトは持っていた書類を片手に持ちながら今しがたスチムソン総参謀長が喋った内容を再度、言うように命令する。
書類を持つ手が微動だにしていない。
「私の耳が聞き間違いならサンティエゴ海軍基地が破壊されて飛行場も破壊されて航空部隊も全滅。しかもそれをやってのけたのがジャップの潜水艦一隻だけだと?」
スチムソンも真っ青な表情になりながら頷くともう一度同じことを喋る。
それを聞き終わったルーズベルトは暫く無言状態であったが持っていた書類を机に叩きつけると凄まじい剣幕で怒鳴る。
「サンティエゴの司令は何をしていたのだ!? 戦争中だという事を分からずに呆けて昼寝でもしていたのか!? 即、軍法会議に掛けて銃殺刑にしろ!」
ルーズベルトの激怒にスチムソンはそれは不可能で敵の攻撃時に指令部が吹き飛ばされて全員が死亡した事を話すとルーズベルトは憤怒の表情をしながらスチムソンを睨む。
だが直ぐに冷静になりその敵の潜水艦の事やその時点での防備体制について直ちに報告せよとの命令を出すと共に主要閣僚と各専門の学者を呼び出すようにスチムソンに言うと直ぐに了解しましたといい、執務室を出る。
独りになったルーズベルトは室内の天井を見上げてこれからどうするかを模索し始めてある事を思いつく。
それから二十分後、続々と閣僚達が入ってきたが全員が真っ青な表情をしながら信じられないという想いが溢れていた。
ルーズベルトが着席を促すと閣僚達は椅子を引いて座る。
皆が着席すると直ぐにノックス海軍長官が立ちあがって皆に頭を下げると共に今回の失態についての言葉が出て来る。
ルーズベルトが手を制してそれは不要だと言うとノックスは頭を下げて着席する。
「皆も既に知っているが信じられない事にジャップの潜水艦一隻がサンティエゴ海軍基地に殴り込みをかけてかなりの被害を出したという事」
ノックスは再び立ちあがると今回の被害について答える。
「駆逐艦四隻・潜水艦四隻・小艦船十一隻・航空機三百機以上・死者六千四百八十六名・軍港施設の四割が破壊されました。完全復旧まで半年はかかるかと」
「聞くところによるとその潜水艦は、見たこともない兵器で攻撃したとか? 偶然、映画監督がカラーフィルムで一部始終撮影したとの事だが?」
「ええ、そのフィルムを軍事機密に匹敵としてネガを含む機材全て一万ドルで買いましたが内容を確認した所、とんでもない映像でしたので国費扱いにしましたが解析する材料としては一級品です」
「そのフィルム内容はここで放映できるのかな?」
ルーズベルトの言葉に商務長官『ハリー・ホプキンス』が頷いて執務室内にいる秘書に命じて映像準備を命令する。
フィルム上映時間は三十分であったが一部始終を見た全員が絶句していた。
特に物理学者や科学者等も沢山、招かれたが全員が茫然とするか信じられない様相でその映像を見ていた。
上映が終わるが大統領以下全員が何も言わずじっと黙っていたがようやくアインシュタイン博士が口を開いた。
「……信じられませんね、今の技術ではあのような兵器を作成するのは不可能です! 理論的には可能で相対性理論に照らし合わせても理解できますが荷電粒子(電子、陽子、重イオン)を加速器に入れて増幅しなければいけませんが……そんな技術の確立は今の時代では到底、不可能」
「後半のあれは……恐らく磁気で飛ばす大砲だと思いますが……理論構造的にはこの時代でも作成可能ですが電動力技術に関しては今の技術では無理です! 天文学的な電気エネルギーが必要です。例えば……今、開発中の原子爆弾数数発分を一斉に爆発したときのエネルギーが必要になりますが潜水艦に搭載できるとは信じられない」
口々に言葉を交わす学者達の言葉には全く興味が無かったルーズベルトは机をドンと叩くと叫ぶ。
「そんな事を聞くために呼んだのではない! 薄汚い黄色い猿の分際で我等白人が作れない物を何故、持っているのかだ! そして黄色い猿が出来て我らがそれを持つことが不可能と言う体たらくな事の説明だ!」
ある意味、理不尽な事を言っているルーズベルトであったがそれに関して誰も喋る機はなかったが末席に座る人物が手を挙げる。
「大統領閣下、一つよろしいでしょうか? 皆さまが疑問に思う事の答えですがあの潜水艦はこの時代の物ではなく別次元の世界から来た存在ではないのでしょうか? アインシュタイン博士ならご理解できると思われるが相対整理論によると未来・過去を自由に行き来できるタイムトラベルという言葉があるそうですがそれに該当するのでは?」
末席に座る人物は、古来から続く秘密結社のグランドマスターでルーズベルトは数ある秘密結社のグランドマスターと交流を持っていて神秘的な事も興味深いのである。
「……ふむ、それなら理解できるが……。ジャップがもしあの潜水艦を作ったのであれば一隻ではなく数隻は造るだろうし真珠湾を占領する時もその兵器を使うのが当たり前だが……」
ルーズベルトはその秘密結社のグランドマスターのいう事は信頼しており大統領選挙の時にでも非常にお世話になった組織であった為、信用もしていたのである。
「グランドマスター、もしそれが事実なら我が国にも未来から来た合衆国の兵器が来てもおかしくはないがそんな事実はない」
大統領の言葉に出席者達が沈黙していたがノックス海軍長官が何かを思いついて言葉を発す。
「大統領、例のその潜水艦はパナマ運河を狙うのではありませんか? 私ならそうしますが? 万が一に備えて年内に通過する予定の大西洋艦隊の空母を北方周りに変更してはいかがでしょうか?」
ノックスの言葉にルーズベルトは頷くと至急に無電を送ってパナマ運河通過を中止するように命令する。
その後、戦略情報局(OCC)長官『ウィリアム・ドノバン』が手を挙げて立ち上がると発言する。
「私達の組織は各国にスパイを送り込んでいますが日本に対しても同様で日本海軍や日本陸軍の中枢部にも我らに協力してくれるスパイがいますので彼らに命じてその潜水艦の情報を集めるように指示します」
「うむ、よろしく頼むよ。それとだ、パナマ運河は破壊されると決めたうえで対策を練ろうと思う。先ずは運河を渡ろうとする全ての船舶の通行禁止命令を出すと共に運河周辺の空軍基地に避難しろと命令するのだ。みすみす破壊されると分かっている事に兵力を投入するのは馬鹿げてる! いいな、今からそれを実施するのだ! 急げ」
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