第15話:サンティエゴ攻撃①

 昭和十六年十二月二十一日、伊400はカリフォルニア州コロラド沖合二海里付近の海中に潜んでいた。


 小型偵察ドローン五機がサンティエゴ海軍基地周辺を偵察していてその映像が途切れることなく映像解析区画の『佐上英知』一等兵曹の下に送られてくる。


 佐上はそれを整理して艦内専用インターネットを通じて日下艦長が座っている艦長席の正面上に設置されている大型モニターに映し出される。


「ふむ、有名な十三個の桟橋には大型艦が一隻もいないな。どれもこれも駆逐艦クラスしかないな」


 日下の言葉に橋本がそれは仕方がないと言い、太平洋艦隊の殆どが出航したので閑散としている事を言う。


「よし、このまま侵入するが時計回りに大きく回り、奥深くまで進まないといけないが攻撃終了後に脱出するまで航空機の攻撃があると思われる。確か近くに航空基地があったはずだな?」


 日下の言葉に橋本は頷くとドローンから送られてきた映像を数回切り替えると目的の映像が流れる。


「ノースアイランド海軍航空基地ですね、約二百機の航空機が滑走路に展開しています。機種はF4FワイルドキャットとF2Aバッファローですね?」


「……武御雷神矛で攻撃終了後、MOAB弾で破壊するか……! 最も爆弾や魚雷程度ではこの装甲に傷一つも付ける事が出来ないが」


「光学迷彩とステルスシードを展開します。それと海中には潜水艦侵入防止の罠が沢山設置されていると思われますので水中ドローンを先に行かせましょう」


「日本海軍で言えば、防備衛所ぼうびえいしょだな。水中聴音所に海底に水中聴音機パッシブ・ソナーなどのセンサーは配置されているだろうが残念ながらこの伊400の装甲塗料は全て吸収してしまうから無駄だな」


 伊400は水深五十メートルを五ノットで進んでいく。

 海底地形は3Dで表示されるので障害物も軽やかに躱していく。

「艦長、米国潜水艦五隻が水上航行中です、間もなく通過します」


「前方五キロ海上に駆逐艦四隻が警戒行動に出ています、パッシブソナーが常に発信されています」


「敵さんも流石に呆けていないな、このまま直進する」


 伊400は順調に進んでいき一時間後、大桟橋付近まで到達する。

 既に偵察ドローンによって周囲の状況は把握していた。


「かなり奥深くまで侵入したが帰りは大変そうだな」

「刑務所と同じです、入るのは簡単ですが娑婆に出るのは困難ですから」

「ふっ! 大丈夫だ、この伊400の力と皆の力を合わせれば何も怖くないさ! さあ、それでは浮上開始と行くかな! 敵さんの度肝を抜いてやろうではないか」


 伊400艦内に第一級戦闘配置のベルが鳴動する。

 臨戦態勢に入っていたので僅か数十秒で完了する。

「ベント弁開放! メインタンク・ブロー!」


 伊400の船体から海水が吐き出されて浮力を得た船体はゆっくりと上昇する。

 間も無く海面が盛り上がり独特な形をした格納庫が現れると共に完全に浮上する。

「武御雷神矛の発射準備!」


 “晴嵐”を射出するロング射出機が格納されて代わりに武御雷神矛(荷電粒子砲)が出現する。


「各バイパスの切り替え実施……切り替え接続完了!」

「荷電粒子を、粒子加速器に注入及び増幅開始!」

「艦内生活電源回路切断、武器管制システムに全移行開始!」

「核融合炉出力増幅!」

「エネルギー充填九十パーセント! …… 百パーセント! ……百二十パーセント」

「発射カウントダウン十秒前です!」


 日下は発射トリガーの引き金に手を当てる

 今まではCICの徳田がやっていたのだがやはり必殺必中武器は艦長でやるのが鉄板だという事で日下がやることにしたのである。

「発射四秒前……二秒前……」

 そしてカウントモニターが遂に0を示した時に日下は発射トリガーを引く。


 武御雷神矛の発射口奥が白銀色になっていて荷電粒子が今か今かと待っている状態だったがトリガーを引くことによって解放される。

 白銀色の光の柱が亜光速まで加速して発射されたのである。


♦♦


 時間は数分前に戻るが桟橋付近を警戒航行をしていた米国駆逐艦“サンダース”は交代の為に桟橋へ向かおうとした時に後方の海面が突如盛り上がってくるのを感知したのである。


「な、何だ!?」

 艦長『エリンスギ』中佐は後方から海面が盛り上がって巨大潜水艦が海面に浮上したのを見る。

「………… 」

「…………」

 駆逐艦“サンダース”の乗員達はポカーンとしていたが直ぐにそれが日本の潜水艦だと分かる。

「ジャップの潜水艦だ!! 司令部に報告だ! 爆雷……いや、主砲で攻撃だ! 何をとち狂ったかは分からないが沈めてやれ!」

 エリンスギ中佐の言葉が終わると同時に副長が指を指して叫んだのでエリンスギ中佐がそれを見るとカタパルトが格納されて代わりに一門の巨大大砲みたいなのが出現したので唖然とする。


「あれは……何だ?」

「さあ? しかし今は攻撃です!」

 駆逐艦“サンダース”は回頭して前部主砲を放つが中々、命中しない。

 潜水艦の周囲に水柱が立ちあがるが砲手の腕がよくないため、中々命中させる事が出来ない。

 付近を航行していた駆逐艦数隻が直ぐに応援に駆け付けて全砲塔が伊400に向けられた時に巨大な大砲から目も眩むばかりの光が発射されたのを視認すると同時に駆逐艦四隻の乗員全ての意識が刈り取られる。


 武御雷神矛のエネルギーは四隻の駆逐艦を呑み込んで一瞬で原子一つ残さずに消滅させると共に桟橋に直撃する。

 凄まじい轟音と震動がサンティエゴ全体を襲う。

 エネルギーは一瞬の内に四つの桟橋を消滅させてその他の海軍施設を木っ端微塵に破壊する。

 サンティエゴ海軍基地全体に非常警報が鳴動して周囲一帯が大騒ぎになる。

 陸地に設置されていた防衛用火砲が次々と火を噴くが伊400の船体周辺に水柱が無数に立ちあがるが全然、命中していない。

 本土が直接、攻撃された事もないので練度も低かったのである。




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