第28話 夕食の会話
無事、チャリティーパーティー、孤児院視察を終えたルドヴィカは一段落だと肩の荷を下ろした。
3日ぶりにルドヴィカはジャンルイジ大公と夕食を共にした。
「ルフィの弟子二人は役に立ったか」
「ええと」
ルドヴィカはどう説明しようか考えた。
「チャリティーパーティーではまだ礼儀がなっていないと不安になったルルに連れて行くのを止められました。確かに大公領の有力者たちが集まる会でまだあの子たちには早かったのでルルの判断は正解でした」
ルドヴィカの言葉にジャンルイジ大公はこくりと頷き、葡萄酒を飲んだ。
一杯飲み終われば、後はパルドンにお茶を淹れてもらう。
彼の体調はだいぶ改善され、体力もついてきた。嬉しいことに、今までベッド上での生活であったが、今は車いすを使いテーブルで向かい合って食事ができるようになった。
新しく作ったベッド脇の手すりのおかげでジャンルイジ大公はベッドから車いす移乗、逆の動作を一人でできるようになった。
そして嬉しいことがもう一つ。
ルドヴィカはじぃと彼の身に着けている衣装を眺めた。
ようやく彼の体格に合わせた服を新調できたのである。今まで寝着で過ごしていた彼が綺麗な身なりをしているのをみると嬉しかった。
ジャンルイジ大公がルドヴィカをみる。じろじろと見すぎてしまったなとルドヴィカは話を続けた。
「孤児院は連れて行きました。小さい子たちにはあれくらいくだけた方がいいみたいで……魔法も使えるから早速人気者でした」
この1週間一緒に過ごしているうちにルドヴィカはオリンドの可能性を見出した。
「オリンドは今後大公家になくてはならない存在です。魔法学の教え方もうまいので、将来魔法棟を引っ張る逸材と思います」
ふとルドヴィカはオリンドの出自を思い出す。
オリンドは没落したとはいえ男爵家の令息であった。
父親を戦争で失い、生活に苦労した母がオリンドを魔法棟へ送った。
魔力量がその年齢でかなりの高い値であったためすぐに籍を用意してもらったが、当時荒れていたオリンドは手のつけられない暴れん坊であった。
どの研究室でも手を焼いて、だからといって追い出せるには惜しい魔力量を持っており押し付ける形でルフィーノの研究室へ追いやられた。
ルフィーノとしては弟子は欲しておらず、むしろ手間が増えることに難色を示した。周りから説得され大きな問題を起こさないのであればと受け入れた。
オリンドははじめルフィーノに反発していたが、魔法でぼこぼこにされたことから彼を師匠と認めいうことは聞くようになった。社交性のないルフィーノの代わりに応対することがあり、オルランド卿と随分親しくなっていた。
「社交性はルフィーノよりありますし、礼儀作法を身に付けさせればルフィーノ殿と私にとって良いと思います」
ルドヴィカの評価にジャンルイジ大公は笑った。
確かにルフィーノの社交性のなさと何を考えているかわからないところは前々から問題だと感じていた。
オリンドがよき仲介人になってくれればそれはそれで悪い話ではないだろう。
「ヴィートの方は?」
「ヴィートはまだ幼いから何ともいえません」
ルドヴィカは困った表情を浮かべた。
実はヴィートはルフィーノやオリンド程の魔力を持っていない。
オリンドの指導のおかげで魔法を使えるが、魔力量はルドヴィカより少しある程度であった。
はじめの能力評価は魔力で決められる魔法棟ではそこまで期待はされていない。出自も影響していた。
没落したとはいえ男爵家令息のオリンドに比べヴィートは孤児であった。
貧しい平民の出で口減らしの為に川へ捨てられた。6歳の頃のことである。
雨により川が増し、酷い激流だった。
丁度、通りがかったオリンドが魔法を駆使してヴィートを救い出した。
そしてそのままオリンドは魔法棟へ連れて帰ったが、魔法棟の魔法使いたちは難色を示し孤児院へ送るように指示した。
オリンドはルフィーノに泣きついて、ルフィーノが研究の手伝いをするのならとヴィートの魔法棟入籍の手続きをしてくれた。
今のヴィートにとってオリンドの傍にいるのが良いかもしれないが、成人後の彼はどうなるのか。
魔法使いとして活躍できるか微妙だと言われる中、師匠や兄弟子の後ろを追いかけるのもなかなか酷なことである。
「でも、彼は絵が好きで、とってもうまいの」
ルドヴィカは思い出したように彼の長所を述べた。
ヴィートは緻密なデッサンを描くと思えば、抽象画も描ける。
最近は解剖学を勉強させて、人体のスケッチをさせている。
ルフィーノの研究室に貼られていた人体構造のスケッチの半分はヴィートが描いたものだという。
「正直血管の枝分かれもあれだけ正確に描けるとは思わなかったわ……」
てっきりルフィーノが描いたと思っていた。8歳の少年が描いたと知った時はびっくりしてひっくり返った。
というのもルドヴィカは絵のセンスが微妙である。
運動メニューの紙に描いた図は棒人間で適当に描いたものであった。それで何をすべきかわかればいいのだが。
朱美の学生時代のことをふと思い出してしまう。
細胞学のスケッチでは〇に点しかついていない絵であった。
教授から「もう少し描けないの?」と言われて、「こうとしか描けないからしょうがないでしょう!」と言ってしまった。
教授も「そっか、それならしょうがないね」といったのが今となっては空しい一コマである。
うまくスケッチ描ける学生が羨ましく感じることもあった。ヴィートのスケッチは羨ましいの一言である。
「美術の道に進むのもいいかもしれないけど……」
だからといって美術工房へ送るのはおすすめできない。工房へ弟子入りすれば、オリンドと離れ離れになってしまう。
あれだけひたむきにオリンドを兄と慕っている。
8歳の少年に今必要なものは大事な絆を持つ存在で、オリンドがそれであった。
「ルフィーノ殿の弟子、オリンドの弟弟子が今の彼にとっての大事な環境と思うと」
「そうか。なら、お前の少年従僕の仕事をしている間は美術の教師を雇おう」
「い、いいの?」
ルドヴィカは驚いてジャンルイジ大公を見つめた。
「才能があるというのなら伸ばしてやるのも大事だろう。今の環境がヴィートにとっての幸運ならば、それをふんだんに活用させてやればいい。返しはお前の肖像画を描いてもらうでいいだろう」
太っ腹なジャンルイジ大公の言葉にルドヴィカは感謝した。
「きっとあの子は喜ぶわ」
早速明日教えなきゃとルドヴィカは嬉しそうにしていた。
自分のことのように喜ぶのだなとジャンルイジ大公は目を細めた。
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