Chapter2-6 ウルフたちの宝
「し、死ぬ!!」
“ひとつかみの栄光”の効果時間が切れ、為す術の無くなった俺はその場から脱兎のごとく逃げ出した。
それもう華麗な逃げっぷりだったと思う。ウルフたちも手負いの獲物を優先したのか、ティアを置いて俺を追い掛け始めた。おかげでティアは危機を脱したと思う。……俺のピンチ度は爆上がりしたけど。
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カイト Lv.5
HP(生命力):28/100
MP(魔法力):10/10
ST(スタミナ):32/100
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それからどれくらい走っただろうか。
再びスタミナが切れそうだ。丁度いい大木があったのでその陰に滑り込む。
息を切らしながら後ろを振り返ると、視界にウルフたちは俺の姿を見失ったようだ。
だが油断はできない。犬と同じ特性があるのか、フガフガと匂いを嗅ぎまわりながら探している。このままではいずれ俺のことも探し出すだろう。
「はぁ……はぁ……はは、こんなことなら体力つけとくんだったな……」
バドミントン部の現役時代は体力に自信があったのだが、最近では面倒くさくて筋トレすらサボっていた。それがまさか仇になるとは。
とりあえずここでじっとしよう。幸い、ここは森の中だ。隠れる場所には困らない。しかし、これからどうするか。
「クソッ。何か手は無いのか……」
森の中を無我夢中で逃げ回ったせいで、頼みの綱であるティアはどこにいるかも分からない。足を怪我していたようだし、心配だ。
今すぐにでも探しに行きたいところなのが……彼女と合流するよりも早く奴らに見つかれば、俺は一巻の終わりだ。
「アイツら、モンスターのくせに軍隊みたいに連携が取れるんだもんな……」
もし俺があの時、逃げ出すのが少しでも遅れていれば、背後に控えていたグリーンウルフたちに袋叩きに会っていたことだろう。
ただでさえ親玉のブラックウルフだけでも強敵だってのに。
「……とにかく何か隙がないか観察しよう。大丈夫、きっと上手くいく」
自分に言い聞かせるように呟いてから、俺は木に背中を預けつつコッソリとウルフたちの様子を窺う。
熊のように大きな体のブラックウルフを筆頭に、一回り小さいグリーンウルフたちが周囲に控えながら、時折キョロキョロと周囲を見回している。
その様子を見て、俺はあることに気が付いた。
「なんだ? あのグリーンウルフ」
一匹だけ「わふっわふっ」と吠えながら、周囲を駆け回っているグリーンウルフがいる。他のグリーンウルフとはどうも違うような気がする。
さらに注意深く観察してみると、その個体が声を発したあとに何体のウルフたちが別の場所に移動したり、逆にその場で警戒を始めたりしているように見える。驚くべきことに、ボスであるブラックウルフまでソイツの指示に従っているようにさえ思える。
「……まさか。本当の親玉はブラックウルフじゃないのか?」
そう考えれば、すべての辻妻が合う。
ブラックウルフと戦っているとき、なぜ他のウルフが俺に襲い掛かってこなかったのか。
てっきり俺はブラックウルフがそうさせていると思ったが、戦闘中に指示を出している様子は無かった。
そして、ボスであるブラックウルフがピンチになった瞬間。それまで大人しかった周囲のウルフたちが一斉に向かてきた。まるでブラックウルフを助けようとしているかのごとく。
つまり、あの時点でグリーンウルフたちに指示を出す個体が居たってことか……。
「よく自力で気付けたじゃない。あのボス以外、実は全員メスだったのよ」
「へぇ……って、うわあっ!?」
急に背後から声がしたと振り返ってみれば、いつの間にかティアが立っていた。
「ティア!? お前、無事だったのか!」
「しっ、大声出すとウルフたちにバレるわよ」
「むぐっ……」
彼女は、小声で囁きながら俺の口元にそっと指を当てる。そして申し訳なさそうに眉を下げた。
「心配かけてゴメン。でもカイトのおかげで足の治療をすることができたわ、ありがとう」
「む、むぐぐむぐっぐむぐ(そ、それは良かったけど)」
どうやら俺が気付かなかっただけで、彼女はずっと近くに来ていたらしい。
視線を下に落とすと、ティアの右太ももに白い布が巻かれていた。出血していたのか、布がじんわりと赤黒く滲んでいる。
「ウルフの追跡に気を取られていたら、森の中に仕掛けられていたトラップに引っ掛かっちゃって。アタシとしたことが、油断したわ」
「むぐっぐ(トラップ)……?」
人が立ち入らなさそうなこの森にトラップだって? いったい、どうしてそんなものが……。
っていうか、あの。そろそろ口を塞いでいる指を離してほしいんだけど。
「ウルフたちの真のリーダーを見付けたのは見事だったわ。じゃあ、どうしてあんな躍起になってアタシたちを追ってきたのかは分かった?」
ウルフたちが怒った理由?
そんなの、余所者である俺たちがテリトリーに入ったからじゃないのか?
「……ん? また奴らの数が増えてきたな」
そうこう考えているうちにも、先ほど群れから離れていたと思われる数体が帰ってきたようだ。
しかも口にはフワフワの小さな生き物をくわえている。
って待てよ。あれは、まさか――!
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