Chapter2 勇者と修行編
Chapter2-1 俺に足りないモノ
先代の勇者あらため、聖剣の精霊ユースティティア(本人はティアと呼べとうるさい)が冒険の仲間になった。
頼りになる先輩勇者を引き連れ、俺は次の目的地に向かおうとしたのだが……。
「向かっている方向が違うわよ、カイト」
「え? いや、街の方角はこっちなんだろ?」
バベルの塔で幼馴染のキリカに聞いていた二番目の街、フタバはここから南に向かった先にある。つまり俺が向かおうとしている方角で間違いないはずだ。
「何言ってるの。フタバの街には行かないわよ?」
「はぁ? 何を急に……っておい、どこへ行くつもりだよ!!」
さも当然のように、ティアはフタバの街には向かわないと言い出した。
しかも俺の話を一切聞かず、南ではなく西に向かってスタスタと歩き出してしまった。
ちなみに俺はまだ地図を持っていない。だから西に何があるかは俺にも分からない。今いる場所から直接見えるのは、高い木が鬱蒼としている薄暗い森だけだ。
「ねぇ、カイト。今のキミには、決定的に足りないモノがあるわ」
ティアは一度歩みを止めると、後方で呆然としていた俺に向き直った。
「えぇ……? 急にダメ出しかよ」
「これはキミにとって大事な話なのよ? それが分からない限り、キミを街なんかに行かせられないわ」
ティアは真剣な表情で真っ直ぐに俺の目を見つめた。
「うぐっ……」
その迫力に気圧され、思わず言葉を失う。
しかし、何度考えても、何が足りていないのか全く思い当たる節がないのだ。
西に何か大切な用事があるのならそれでもいい。だけどそれなら、理由をちゃんと説明してほしい。
そもそもだ。あんな深い森に行ったら明らかに危険じゃないか。
こっちは最初のアヒト村で購入した安い鉄の剣と皮の軽鎧しか持っていないんだぜ?
早めにジョブに就いて職業スキルを覚えておきたいし、ここはセオリー通りに次の街で旅の準備を整えたかったんだが。あっさり死んでまた28年後なんて、冗談じゃない。だいたい、現実でもフリーターなのに、ゲームの中でも無職でいろって言うのかよ。
「あのさ、ティア。やっぱり俺は街に行きたいんだけど……」
「街には行かないわ。絶対にね!」
ティアはそう言い切ると、再び俺の前へと躍り出た。
「せめてその俺に足りないモノってのを教えてくれよ。もし実力だって言うなら、これから頑張って鍛えるからさ」
「……正解はアタシの口からは言えないわ」
「はぁ? なんだよ、それ。自分から言い出しておいて、そりゃないんじゃないか……?」
相変わらずのティアの勝手さに、だんだんイラついてきた。
なんでそこまでして隠す必要があるっていうんだよ。どうも釈然としない。
俺が納得いかないという顔をしていると、ティアはひとつ溜め息を履いてからこう言った。
「聞けばなんでも他人が教えてくれると思っちゃ駄目よ? それにこれはカイト自身で気付かないと意味がないの」
「自分自身でって、ヒントくらいくれてもいーじゃんか」
しかしそれ以上は答える気はないのか、ティアは完全に口を閉ざしてしまった。
それどころか悩む俺を見て再度溜め息をつくと、巨大な聖剣を背負った背中を俺に向けて再び歩きだした。
「なんだよ、ティアのやつ……これも勇者修行のうちだっていうのか?」
そんな愚痴にさえ、彼女は反応を返してくれない。こうしている間にも、ティアはどんどんと森の方へ進んで行ってしまっている。
男の俺でも重たくて抱えるしかなかった聖剣を軽々と背負って歩く彼女の後ろ姿は、まさに勇者と呼ぶに相応しい。さすがは元勇者というべきなのだろうか。だが本当に正義のヒーローであるのなら、もっと優しく指導してほしいんだが。
「はぁ、仕方がない、自分でどうにか考えるしかないか……」
幸いにもこの辺りにモンスターはいないようだし、歩きながらゆっくり考えられそうだ。せめて森へ着くまでに、彼女が言いたかった答えをなんとか見つけないと。
俺はそう思いつつ、仕方なくティアの後を追って歩き始めた。
「って言ってもなぁ……自分に足りないモノかぁ」
レベル……いや、ステータス? それとも装備だろうか。
うーん、マズいな。思い当たるフシが多すぎるぞ?
「せめて今までの会話や行動に何かヒントがあれば……ん?」
そしてしばらく進んだところで、ふとある考えが浮かぶ。
そもそも彼女が急にこんな冷たい態度を取ってきたのは、あの丘で俺が『スタートの地、アヒト村滅亡イベント』でゲームオーバーになった後のことを訊いてからだ。だからその中に、何か俺が見落としている自分の弱点があるのかもしれない。
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