第3話 最終話 魔術披露会とその後

 その後、ライリーとリアムは体調不良で魔術学園をしばらく休んでいた。そして、卒業式の前日になった。


 王宮の格技場を囲むように設えた客席は、ルイーズとライリーの魔力量と魔術を一目見ようと貴族達で埋まっていた。その会場をよく見渡せる席に、アルフレッド国王陛下と王妃陛下が座っていた。ルイーズとライリーが入場すると、客席から一斉に大きな拍手が起こった。


 格技場の真ん中に、魔力を量る水晶が設置してあった。ルイーズがそれに手を触れると、薄紫を帯びた美しい光が放たれ人々を包んだ。

「なんと高貴で、しかも繊細で、優しい光なのだろうか。未来の女王に相応しい魔力だ」

 次はライリーが触れ、赤い光が放たれた。

「これは情熱的で、攻撃的で、興奮させるね」


 このような声が聞こえる客席の中に、ベンジャミン一家は座っていた。ベンジャミンとオリヴィアは怪訝な面持ちであった。

(あんな光を放てないほど魔力を吸い取ったのに…… 半年間で回復するなんてありえませんわ)

 

 そんなベンジャミンとオリヴィアの真ん中で、オーロラがクスクスと笑った。

「どうしましたの? お母様」

 オーロラは、オリヴィアの耳元に顔を近づけて話した後、二人は見合ってクスクス笑った。

「二人だけで何話しているのさ? 僕にも共有させて欲しいな」

 ふふふと笑うオーロラの顔に、ベンジャミンの横顔が近づくと、そっと頬にキスをした。

 ベンジャミンは、オーロラに微笑み返しもう一度耳を近づけた。

「へー。これから兄さん所へ行ってくるよ」


 ベンジャミンはレギウスに小声で話し、それをレギウスはアルフレッド国王陛下に耳打ちした。アルフレッド国王陛下は、レギウスに万事上手くやれと頷いた。

 レギウスは、近衛魔術兵を二人引き連れて、格技場の廊下に出ると転移魔法を使った。

  

 魔術の披露が最終となった。ライリーは、炎のドラゴンを魔術で作り出すと火を吹かせた。ルイーズは、氷の柱に水の帯をスパイラルにして絡ませ上空に上げ、紫のドラゴンを出すと雪の結晶を吹かせた。その雪の結晶は五ミリほどの大きさで、形が美しく客席の人々の体や手の平に乗ると儚く消えてしまった。客席は感嘆し、スタンディングオベーションを二人に送った。アルフレッド国王陛下と王妃陛下も拍手を惜しまなかった。


 ルイーズとライリーは、アルフレッド国王陛下と王妃陛下の前に行き、ルイーズはカーテシーをし、ライリーは臣下の礼を取った。

「アルフレッド国王陛下からお二人へお言葉があります」

 アナウンスで客席は静かになった。

「二人とも見事であった。表を上げよ」


 このときルイーズは不満げな顔をしていた。この魔術披露が無事終わったのだから喜ぶべきことなのかもしれないが、明日卒業パーティーでライリーと婚約者である証のために二度ダンスをし、後日結婚式を挙げるのだ。ルイーズは涙目でアルフレッド国王陛下を睨んだ。


(ルイーズ、私は君の期待を裏切らない父だよ?)

「ライリー君の代わりに、魔術を披露してくれた君の名前を聞かせてくれないか?」

 会場はざわつき、ルイーズは驚きの目を隣のライリーに向けた。

「国王陛下、私はライリーですが?」

 ライリーの顔が強張り、拳を強く握りしめている。


 アルフレッド国王陛下は、自分同様に特別席に座っているライリーを除く、セグレイヴ公爵一家を見た。

「余も侮られたものだ。ライリーと入れ替わったことがバレないと思ったのか? 余の目は節穴ではないのだよ。本物のライリーに入場していただこうか」

 ライリーが二名の近衛魔術兵に連れられて格技場に現れると、客席が大きくどよめいた。


 ルイーズは、隣にいたライリーの偽物に手の平を向け術解きの魔法をかけると、知らない男性が立っていた。男性は観念したようで項垂れた。セグレイヴ公爵一家の顔が青褪めて体が震えていた。


「この会場にいる皆の者、本日はご足労であった。皆には、此のことに尾ひれを付けず良識のある言動を求める。皆の者気を付けて帰られよ」

 アルフレッド国王陛下と王妃陛下は、席を立ち去られた。ルイーズはそれを見送った後、呆然と立ち尽くす男性に声を掛けた。

「私と一緒に王宮に参りましょう。包み隠さずにすべてを話してください。国王陛下は、貴方を悪いように扱いませんわ。事の次第によっては、私も貴方の味方をいたしますわ」

 

 王宮の応接室には、アルフレッド国王陛下と王妃陛下、ルイーズ、セグレイヴ公爵とライリー、替え玉の男性がいた。レギウスは持って来た椅子を、セグレイヴ公爵とライリーの背中が見える位置に置くと、替え玉の男性を座らせた。


替え玉の男性は、セグレイヴ公爵とライリーの間から見えるアルフレッド国王陛下の質問に答えた。

 替え玉の男性は、魔術庁直轄の魔術研究所に入ったばかりの新人であることがわかった。この男性はセグレイヴ公爵の遠縁にあたる者で、魔法で他人の姿に似せることが出来る特殊な能力があり、そのことをセグレイヴ公爵は知っていたと言った。男性はセグレイヴ公爵に、依頼してきた理由を聞いたが答えず、研究所への就職と魔術研究の便宜と報酬をちらつかせた。


「君は依頼してきた理由をセグレイヴ公爵は答えなかったと言ったが、君は何が原因だと思った? 君の思うところを述べてくれ」

 アルフレッド国王陛下に聞かれ、男性は応えた。

「ライリー様の顔を両手でなぞったとき、魔力量が激減していることがわかりました。激減の原因はわかりませんが、激減したままで今日のお披露目に出ていましたら、人差し指に小さな炎を灯らせただけで終わっていたでしょう」


 そんなに激減していたのかとアルフレッド国王陛下は驚いた。扉の横に立つレギウスは満足そうな笑みを一瞬だけ浮かべた。

「話はわかった。君には後で沙汰をする」

 レギウスに促されて、替え玉の男性は出て行った。


「セグレイヴ公爵、ライリーの魔力量が激減したことを隠し、代わりの者を立てるなど、王家を謀り信頼を裏切る行為を許すわけにはいかない。ルイーズとライリーの婚約を破棄する。そして多額の慰謝料も請求する」

 アルフレッド国王陛下は、慰謝料として領地を三分の一取り上げる。爵位を伯爵まで引き下げる。その上公爵の代で爵位を返上させ、息子の代には平民にすると付け加えた。


「国家を統治するということは、代用など利かないのだ。ライリー君は国家に危機が訪れたら、ルイーズの隣に代用を置いて民をも見捨てて逃げる気か! 君がした行為はそういうことだぞ!」


 セグレイヴ公爵とライリーは、アルフレッド国王陛下の本気の怒りに震えていた。

「国王陛下、ライリーにはルイーズ王女殿下との婚約を辞退させます。私は魔術庁長官を辞します。今後は領地運営のみ携わり、派閥などの利害関係には関わりないように中立の立場を貫きます。慰謝料は分割で支払います。ですので、領地も爵位も代を変えてもこのままにしてください」

 セグレイヴ公爵とライリーは、ずっと頭を下げていた。


「父上、私はライリーの婚約辞退を受け入れます。今、セグレイヴ公爵がおっしゃったことを誓約書にし、末代に至るまで誓約を違えないのであれば、慰謝料はいりません」


 俯いていたライリーが顔を上げ、ルイーズに言った。

「私はルイーズ王女殿下との婚約を辞退したくない。君を愛しているんだ。必ず魔力量を取り戻すから半年待ってもらえないか」

「ライリー、私は貴方の婚約辞退を受け入れると言ったのよ。もう貴方との信頼関係が失われているの。貴方には私の王配ではなく、公爵として国に貢献して欲しいわ。ライリー、もうこれ以上、何もおっしゃらないで」

 ライリーの婚約辞退は次の日に発表された。

 

 アルフレッド国王陛下は、上機嫌で執務を熟していた。

「アルフレッド国王陛下、今日は一段と仕事が捗っているようですね」

「レギウス、王妃とルイーズにキスされたんだよ。頬にさ」

 王妃には、「さすがアルフレッドだわ」と言われ、ルイーズには、「父上、尊敬いたします」と言われ、「私の評価が急上昇なんだ」と、アルフレッド国王陛下は笑った。

「それは良いことでございます。臣下の間でもこの度のことは称賛されております」

 アルフレッド国王陛下はそうかと頷いた。

「ところで臣下の間で、ルイーズ王女殿下の王配になるのは誰かと話題になっています」

「ルイーズには、ずっと以前から秘めた思い人がいるようだ。だが私にも王妃にも言わないのだよ」

「それは父親として気になりますね。話が変わりますが、替え玉男はそのまま魔術研究所に勤めさせています。但し、監視も付けております」

 アルフレッド国王陛下はうむと頷いた。


「ところで、グレイ男爵はどうしている?」

「私の上の息子が魔術学園を卒業しましたので、只今領地で業務の引継ぎをしております。その後頂いた領地へ向かうことになります。破格の報酬をありがとうございます」

「しかし、グレイ男爵の奥方とご息女の規格外の能力には驚いたな」

「彼女達の意に沿わない依頼はお断りです」

「レギウス、助力をありがとう」

 二人は笑った。

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魔力量鑑定で空っぽと言われた令嬢は婚約者候補に嫌われる ~ピンクブロンド小動物系男爵令嬢の逆襲~ 鶴水紫雲 @noibara3

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