第四十五話 悠里澪④

 扉から入ってきたのは、まさかの澪その人だった。

 けれど、これは陸にとって幸いだ。


「澪、助けてくれ! なんだかわからないけど俺、気がついたらここに居て!」


「……♪」


 と、何故かにっこり笑顔を浮かべてくる澪。

 きっと、彼女は状況が理解できていないに違いない。

 故に陸は澪へとすぐさま言う。


「ここは危険なんだ! 俺のことを誘拐した犯人が戻ってくるかもしれない! だから……助けにきてくれたのは嬉しいけど、早くしないと!」


「大丈夫だ、陸! 大丈夫……ここには何の心配もないんだ!」


「大丈夫って……ひょっとしてもう警察を呼んだのか?」


「警察なんて呼ぶ必要ない!」


「だったら——」


 と、陸はここでとあることに気がつく。

 それは澪がバカではないということ。


(俺がイケメンになってから、澪と初めて会ったあの体育館裏を思い出せ)


 澪はしっかりと警戒していた。

 男複数に呼び出されるという状況に。


(つまり、危険に対する認識はしっかりとしている)


 そんな澪が果たして、この状況でニコニコ笑ってくるだろうか。

 そんな澪が果たして『大丈夫』と言うだろうか。

 それも、陸の助けを無視して。


 あり得ない。


 ではどうして、そんな状況が目の前で起きているのか。

 可能性があるとすれば。


「澪……なの?」


「なにがだ?」


 と、陸の言葉に対し首をひょこりと傾げてくる澪。

 彼はそんな彼女へと言葉を続ける。


「澪が俺のこと……気絶させて、誘拐したの?」


「誘拐じゃない! 招待したんだ! でも……」


 と、どこからかスタンガンを取り出してくる澪。

 彼女はいつもの笑顔で、陸へと言葉を続けてくる。


「これを使っちゃったのは、ごめんなさいだ!」


「っ……どうしてこんなこと!?」


「陸がうちから離れようとしたからだ! うちは陸に幸せになって欲しいんだ!」


「それって——」


「陸はうちの王子様だ! うちだけの王子様なんだ! そして、うちの全部は陸のもの……心も体も全部、何もかも」


「…….」


「だったら、陸はうちの側に居たほうがいい! うちが陸のことを監禁すれば、うちも陸の側にずっといられる! これからはうちが、陸のことをずっと育ててあげるぞ!」


 やばい。

 やばすぎる。


 澪に育てられるって、いったい何をされるんだ。

 思い当たる点があるとすれば。


「ん? あぁ、安心しろ!」


 と、壁の拷問器具へと目を向ける澪。

 彼女はその後、陸へと視線を戻して言葉を続けてくる。


「あれは陸が調教に反抗した時しか使わないぞ! 陸が素直なら、陸はずっと気持ちいいことしかされないから、安心して欲しいんだ!」


「調教……って、そもそもどうしてこんな事するんだよ!?」


「だって陸、変態なんだろ? 変態はこういうのが大好きなんだ! 女の子に虐められたり、罵られたりするのが大好きなんだ!」


「なっ!?」


「大丈夫だ、陸! うち、陸が気絶してる間に勉強したんだ! 陸が思ったより早く起きちゃったから、まだあんまり勉強できないけど……でもうち、陸がたくさん気持ちよくなってくれるように、男の子が喜ぶこと、たくさん勉強した! だから安心して欲しいんだ!」


 なるほど。

 全く安心できない。


「それじゃあ早速、スタンガンを使っちゃったお詫びの調教だ! うち、頑張って陸のこと……たくさん気持ちよくするぞ♪」


 と、そんなことを言ってくる澪。

 彼女は陸へと近づいてくると、スカートの端を両手で持ち上げてくるのだった。

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