第三十二話 家族はノーカン

 時は翌日の昼休み。

 場所は学校、生徒会室。


「つまり、家族はノーカンなんじゃないかしら?」


 と、言ってくるのは真冬だ。

 彼女はいつもの腕組みポーズのまま、陸へと言葉を続けてくる。


「考えてもみなさいな。妹——家族から『好き』だの『愛してる』だの言われるのは、言ってみれば挨拶じゃない?」


「たしかにその可能性は高いな。家族はノーカン、それがわかっただけでも大きな進歩だな」


「えぇ、家族にまで怯える必要がなくなったわ」


「それになにより、家族に嫌われるわけにもいかないしな」


 陸と真冬の作戦は告白してくる対象に嫌われることにより、告白事態を防ぐことだ。

 家族に嫌われる方法など、思いついたとしても実行したくない。


 もっともその心配はもうないわけだが。

 それにしても。


(家族は家族でも奈々は義妹だ。義妹だから家族じゃないとか、そんな馬鹿みたいなことを言うつもりはもちろんないけど)


 血の繋がりは関係ないのだろうか。

 この告白=爆発という馬鹿げた呪いに。

 いまいち判定がよくわからない。


(ひょっとして、俺と真冬の認識は間違っているんじゃないか?)


 奈々に『大好き』と言われ、陸の心臓が爆発しなかったのには、また別の理由があるのではないか。


 などなど。

 陸がそんなことを考えていると。


「話がひと段落したところで、あなたに相談したいことがあるわ」


 と、陸の思考を断ち切るように聞こえてくる真冬の声。

 彼女はそのまま陸へと言葉を続けてくる。


「実はその……登校してすぐに、デートに誘われたわ」


「一応聞くけど、誰に?」


「奈々……あなたの妹よ」


「実は俺も真冬に相談したいことがあるんだけど、いいか?」


「え、えぇ……もちろんよ」


「家から出た瞬間、家の前で張ってた澪にデート誘われた」


「……」


「……」


 流れる気まずい沈黙。

 当たり前だ。


 これまでの経験上、デート=告白。

 そして告白=死なのだから。


 だがしかし。

 今の陸はそこまで悲観的ではない。

 なぜならば。


「考えたんだけど、今回のデートでかねてからの計画を実行してみないか? 相手にわざと嫌われるっていう例のやつ」


「っ……驚いたわ、奇遇ね」


 と、陸の言葉に対して言ってくる真冬。

 そんな彼女はさらに陸へと言葉を続けてくる。


「私も絶好の機会だと思っていたわ。だって、デートでドン引きなことをされたら、普通は相手のことを嫌いになるもの」


「じゃあひょっとして、俺に相談したいことって」


「えぇ、多分あなたと同じよ」


「「嫌われるためのデートプランっ!!」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る