第十四話 イケメンはやりなおす③

「どうしたんだ、陸?」


 と、聞こえてくる澪の声。

 周囲を見渡せば、またも変わらぬアウトレットモールと夕日。


(また時間が戻ってる……っ!)


 これでもう間違いない。

 陸はこれまで二回死に、二回この時間に戻ってきているのだ。


(でもなんで!?)


 一度目の死は公園を通ったからだ。

 だから、二度目は公園を避けた。


(でも俺は死んだ! 何か他に原因があるのか!?)


 陸自体に原因がある可能性はない。

 行動によって死亡時間が変化した以上、死は外的要因に違いないからだ。


(考えろ。今の俺はイケメンだ。冷静に考えれば、俺が死んだ原因がわかるはずだ)


 考えろ。

 考えろ。

 そうしないとまた——。


「陸?」


 と、陸の思考を断ち切るように聞こえてくる澪の声。

 彼女は不思議そうな表情で、陸へと再度言葉を続けてくる。


「どこか具合が悪いのか? うち、陸が心配だ!」


 だがしかし。

 陸はそんな澪に言葉を返すことができない。

 理由は簡単だ。


 気がついてしまったからだ。


 公園で死んだ時。

 そして、住宅街で死んだ時。


(その二つには共通点がある。それも、たった一つだけ)


 それすなわち。

 澪に告白されたことだ。


(よく思い出してみろ。そういえば一度目の死も、二度目の死も『澪に告白された直後』に胸の痛みを感じて死んだんだ)


 どう考えても無関係とは思えない。

 では、澪に何かしらの原因があるのか。


 例えば澪に『告白した相手は死ぬ』呪いがかけられているとかだ。


(あり得なくはない……だけど、それよりもまず疑うべき存在がここには居る)


 獅童陸。


 キモメンからイケメンに突如変化し。

 そして死んでも死んでも蘇る。


 異常だ。


 これで澪の方を疑うとしたら、あまりにも都合がよすぎる。

 というより、澪に失礼まである。


(俺、なんじゃないか…….呪いがかけられているのは。例えば『告白されたら死ぬ』……とか)


 あり得ない話だ。

 あまりにも非現実的。

 しかし。


(ここ数日で俺に起きた非現実が、その否定を否定する)


 考えがまとまらない。

 そもそもどうして死んだら時間が巻き戻るのか。

 わけがわからない。

 何もかもわからない。


(でも、俺の死が『告白』をトリガーとしているのかどうか——それを確かめる方法はある)


 簡単だ。

 告白されなければいいだけだ。

 そうして、今日一日生き延びることができれば。


(少なくとも、俺の死のトリガーは『告白』だってことだ)


 当然、『澪に原因がある』という考えを完全に捨て去ることはしない。

 万が一彼女に原因があった場合、それをスルーすれば彼女が不幸になってしまうからだ。


(でも今は……)


 陸に原因が——『告白されたら死ぬ呪い』がかけられている前提で動く。

 先ほども言った通り、一番怪しいのは陸だからだ。


 などなど。

 陸はそんなことを考えたのち、澪へと言うのだった。


「ごめん。今、妹から連絡が入って——出先で体調が悪くなったから、迎えに来て欲しいみたいなんだ」

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