第十三話 イケメンはやりなおす②

 そうして時は夕方を過ぎて夜。

 場所は住宅街。


(よしっ! とりあえず、前回痛みが襲ってきた時間は確実に過ぎてる!)


 なんせ今は夜なのだから。

 やはり、胸に痛みが襲ってきた原因は、公園にあったに違いない。

 となると、どうして『時間の巻き戻り』が起きたのかが謎だが。


(まぁ、きっとイケメンに備わってる能力なんだろうな。イケメンはなんでも出来るって聞くし)


 などなど。

 陸が一人そんなことを考えていると。


「なぁ、陸。今日は本当にありがとな」


 と、聞こえてくるのは隣を歩く澪の声だ。

 彼女は照れた様子で、陸へと言葉を続けてくる。


「うち、男の人に家まで送ってもらったの初めてだ!」


「一緒に出かけた女の子を、家まで送るのなんて当たり前だよ。夜ならなおさらにね」


「えへへ、そっか……陸、あのな! うち、初めてが陸で嬉しいぞ!」


「そう言ってもらえると光栄だよ」


 言って、陸は澪へと微笑みかけるわけだが。

 彼はその内心。


(うぅ……可愛いっ! 可愛い女の子に『俺が初めてで嬉しい』って言われたぁああああああああ!)


 陸は思わず自らの口元に手をやる。

 嬉し過ぎて嗚咽が漏れそうだったからだ。


 と、陸がそんなことを考えた。

 まさにその時。


 きゅっ。


 と、握られる陸の手。

 見れば——。


「えへへ……陸の手、握っちゃった」


 言って、照れくさそうに微笑む澪。

 瞬間、心の中の陸ノックダウン。


 あやうく、体もノックダウンして気絶してしまうところだった。

 しかも、澪の攻撃はまだ終わっていなかった。

 その理由は簡単だ。


「陸……うち、な。うち……陸のことがっ」


 と、どこか必死な様子で。

 そして、きゅっと震える手で陸の手を握ってくる澪。

 彼女はそのままの様子で、陸へとさらに言葉を続けてくる。


「好きだ! うち……陸のことが、大好きなんだ! だから、その……うちを陸の彼女に、し……て——っ!?」


 と、何故か驚いた様子で言葉を途切らせる澪。

 いったいどうしたのか。


 陸はそんなことを考えたのち、ゆっくりと澪の方を見てみると。


 澪の顔が恐怖に歪んでいる。

 というかそれ以前に、彼女の顔が真っ赤だ。


(まさかこれ、澪の血!? どこか怪我をした!?)


 こうしてはいられない。

 早く澪を助けないと。


 などなど。

 陸はそんなことを考えたのち、すぐさま澪へと声をかけようとする……が。


「ぁ……ぇ」


 変な声しか出ない。

 というか、身体中の力がどんどん抜けていく。

 何がおかしい。


 陸がゆっくりと自らの身体へ、視線を向けてみると——。


 胸に穴が空いていた。


 まるでそう。

 胸の内側で何かが爆発したかのように。


(あぁ、そうか……澪の顔の血、あれは俺の……か)


 よかった。

 澪が無事で。


 そしてようやく理解した。

 公園で襲ってきた痛み——あれは。


(俺が死ぬ時の、痛み……だった、んだ)

 


 

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