犬のきょうだい

 あるところに、ひきのいぬがいました。

 いっぴきのなまえはシロしろで、もういっぴきはクロくろでした。

 きょうは、シロしろのたんじょうびです。シロしろクロくろは、いっしょにハリネズミはりねずみケーキけーきやさんへいきました。

「いらっしゃいませ」

 きょうは、ハリネズミはりねずみのおかあさんがみせばんのようです。

 んー、いいにおいがしていますよ。シロしろクロくろも、はなをひくつかせると、ほほがふわぁっとゆるんでしまいます。

「こんにちは!」

 シロしろが、げんきにあいさつをします。

「こんにちは。あら、はじめましてね?」

 ハリネズミはりねずみのおかあさんは、くびをかしげます。

「はい。はじめまして。ぼくはクロくろといいます」

「ぼく、シロしろ!」

「よろしくね、シロしろさん、クロくろさん。きょうは、なにかのおいわいかしら?」

「きょうは、シロしろのたんじょうびなんです」

 クロくろが、うれしそうにはなします。

「あら、そうなの! いいわねえ! シロしろさんとクロくろさんは、おともだちなの?」

「ううん! きょうだいだよ! ぼくがおとうとで、クロくろがおにいちゃん!」

「えぇ? ほんとうに? それにしては、ぜんぜんていないわね」

 ハリネズミはりねずみのおかあさんが、をまるくします。

「そうかなぁ?」

「だって、シロしろさんはちいさくて、しろくてながいまきよ。でも、クロくろさんはおおきくて、くろくてみじかい、まっすぐなよ」

「ぼくは、これからおおきくなるの! クロくろみたいにおおきくなったら、クロくろみたいになるの!」

「うーん、でも、おとなになって、そんなにすがたがわるのは、ペンギンぺんぎんさん、カエルかえるさん、イモリいもりさん、カニかにさん、クラゲくらげさん…………。とにかく、イヌいぬさんではたことがないわ」

「ぼくは、クロくろみたいになるの! なるったらなるの!」

 シロしろは、とうとうきだして、はしっておみせをていってしまいました。

 クロくろは、いそいでいかけます。

 シロしろちいさいので、どれだけがんばってはしっても、クロくろよりはやくはしることはできませんでした。

 クロくろは、すぐにシロしろいつきました。

シロしろ

 なまえをんでも、シロしろくばかりで、こたえられません。

「いちど、かえろうか」

 おうちでは、シロしろクロくろ大好だいすきな、シロしろクロくろのことが大好だいすきな、ニンゲンにんげんケンけんくんがまっています。

 シロしろは、きながらうなずきました。




「あれ、おかえり! はやかったねぇ。って、シロしろくん、どうしたの!」

 ケンけんくんのかおをると、シロしろは、さらにおおきなこえをあげてきます。

 シロしろのかわりに、クロくろが、さっきのできごとをケンけんくんにはなします。

「そんなことがあったんだね。かなしかったね」

 ケンけんくんにあたまをなでてもらって、シロしろは、やっときやみました。

「ねえ、ぼくたちは、きょうだいじゃないの?」

 シロしろが、ケンけんくんにたずねます。

「うーん、おみせのひとは、きょうだいだから、いっしょにかってあげてくださいって、ってたんだけどな」

「あぁ、そうだったね」

「おみせ……?」

 シロしろちいさかったので、おみせにいたころのことを、おぼえていないのでした。

「ぼく……、ぼくとクロくろは、ケンけんくんが、かったの……? ケーキけーきみたいに……?」

 なぜだかからないけれど、シロしろからは、またなみだがあふれはじめました。

「ちがうよ」

 クロくろケンけんくんは、しっかりおぼえていました。

 クロくろは、まっくろで、さらに、あたまちいさながあるからと、せまくてきたなれられていました。はんたいに、シロしろは、ひろくてきれいなおうちをもらっていました。

 おみせのひとは、タダただで、シロしろクロくろケンけんくんにわたしたのでした。

「ぼくね、シロしろくんとクロくろくんのことが、大好だいすきになったの」

「ぼくも、シロしろケンけんくんのことが大好だいすきになった。きらいだったら、とうのむかしにかみころしてるよ」

「だから、いっしょにいるんだよ。ぼくは、いつ、どこで、どんなかたちシロしろくんとクロくろくんにであっていたとしても、大好だいすきになって、いっしょにくらすよ」

シロしろは、いやだった? ぼくとケンけんくんと、いっしょにいるの」

「ううん……」

 シロしろは、ぴたりときやみました。

「ぼく、クロくろケンけんくんのこと、大好だいすきだよ」

 シロしろクロくろは、もういちど、ハリネズミはりねずみケーキけーきやさんへかいます。

「あぁ、シロしろさん、クロくろさん!」

「さっきは、すみません。きゅうにとびしたりして」

「いいえ! わたしのほうこそ、ごめんなさい! きょうだいだとか、きょうだいじゃないとか、そんなのどうでもいいのに! シロしろさんとクロくろさんが、ケーキけーきをよろこんでくれれば、それだけでよかったのに……!」

 こんどは、ハリネズミはりねずみのおかあさんがきだしてしまいました。

かないで……」

 シロしろは、なきむしのくせに、だれかがいているのをるのはきらいでした。

「ごめんなさい、シロしろさん……。でも、ほんとうに、もうしわけないことをしてしまったとおもって……」

「いいの! ねぇ、おたんじょうびのケーキけーき、くださいな!」

「あぁ、そうだった、そうだったわね。もう、きなだけもってかえって。たくさんいたぶん、たくさんべて、たくさんわらってちょうだい……」

「ぼく、いちごのタルトがいい!」

 シロしろが、げんきよくいます。

「いいわね。ねえ、プリンぷりんき?」

「うん! 大好だいすき!」

「じゃあ、プリンぷりんもつけとくわ」

「ありがとう!」

クロくろさんは?」

「あー、ええと……、モンブランもんぶらん……」

「これね! じゃあ、シュークリームしゅーくりーむもつけとくわ」

「いや、いいですって……」

「あら、にがてだったかしら……」

「いえ、きですが……」

「じゃあ、うけとって! おわびの、おまけなんだから!」

「あとさ、ケンけんくんのも!」

ケンけんさんは、なにがおきなの?」

チーズケーキちーずけーきだよ!」

チーズケーキちーずけーき、いろいろあるけれど、どれかしらねぇ……」

「くだものやはいっていない、チーズちーずだけのやつです。レモンれもんの、いいかおりがする」

「やわらかいのじゃなくて、ぎゅっと、かたいのだよ! まわりのクッキーくっきーも、ぎゅっと、かたいの!」

「あら、ふたりとも、よくしってるわね」

「そりゃあ」

ケンけんくんのこと、大好だいすきだから!」

「なかよしで、いいわねぇ。じゃあ、これね! そしたら、おまけはチーズクッキーちーずくっきーにしておこうかしら」

「すみません、ほんとうに……」

「いいの、いいの」

「ありがとう!」

「どういたしまして!」

 シロしろクロくろは、ハリネズミはりねずみのおかあさんから、ケーキけーきとおまけがたっぷりつまった、おおきなをもらいました。しかし、なんどっても、ハリネズミはりねずみのおかあさんは、おかねをうけとってくれません。

シロしろくん? クロくろくん?」

 シロしろクロくろのかえりがおそいので、ケンけんくんが、しんぱいしてやってきました。

「あ、ケンけんくん!」

ハリネズミはりねずみさんが、おかねはいいってって、きいてくれなくて……」

「だって、いらないんですもの。シロしろさんとクロくろさんと、そしてケンけんさんが、にこにこえがおになってくれたら、それで、じゅうぶんなの。あわよくば、またきてくれたら、もっともっと、うれしくなっちゃうけれど」

「また、きます」

「くるよ!」

シロしろクロくろが、おせわになりました。また、うかがいますね」

「えぇ、ぜひ! ありがとう!」

 みんなでおれいをって、おみせをます。

 ケーキけーきべるまえから、みんな、にこにこえがおでした。

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