第32話「模擬戦、見に行きたいです!」
◇◇◇
ミルさんたちに散々エリオットとの話を聞かれ、たくさん喋ったあと日も暮れてきたので帰宅した。
部屋の埃が気になって掃除しているころ、鍵が開く音がして、エリオットが帰ってきた。
私も部屋から出て一階に降り、エリオットの帰りを迎える。
「おかえり、エリオット」
「ただいま、アイリス」
なんだかエリオットがいつもより疲れている気がする。
コートを脱ぎ手を洗ってリビングの椅子に腰かけると、エリオットは向かい側に座る私に微笑みかけた。
「弁当、すごく美味かった。ありがとう」
「……! 良かった! 不味かったらどうしようかと思ってたの」
「アイリスの作る料理で美味くないものなんてない。本当に作ってくれてありがとう。それで、団員たちがさ……」
エリオットはため息まじりに今日のことを話し始めた。
護衛が終わって交代したあと、訓練棟の食堂で私が作ったお弁当を開いたら、フレッドとルギルという人が寄ってきたらしい。
勝手にエリオットのお弁当を食べたうえに、私に自分の分も作ってくれと頼んでほしいと言われたのだとか。
それほどお弁当が美味しかったらしく、二人が美味い美味いと食べている間に他の団員も寄ってきてしまい。
その人たちも、「そんなに美味いなら俺たちにも作ってほしい」と言ってきて、さすがのエリオットも怒ったそうだ。
「作ってほしいのであれば、お作りしますよ」
「いや、そんなのしなくていい。調子に乗るだけだ」
「でも……」
「俺の大事な人が作った弁当を、他の人に食べさせたくない」
……大事な人、という言葉にきゅんと心臓が跳ねた。
真っ直ぐ見つめてくるものだから、思わず目を逸らしてしまう。
そういうことを言うのは、ずるいと思います……。
「もうすぐ暖かい季節になるから、服を買いに行かない?」
「あ……そう、ね」
冬用の服はこの服とエリオットと出かけたときに購入したものをいくつか持っているけれど、涼しい洋服を持ってない。
もうこの国は春の季節だ。
さすがにこの分厚いコートや洋服じゃ暑いだろう。
「じゃあ、お給料が出たときに買いに行くわ」
「俺が買うよ」
「いえ、自分のものなので、私が」
私が胸に手をあてて自分で買うことを示す。
エリオットは「こうなるとアイリスは頑固だからなぁ……」と肩を竦め、一緒に買いにいくけれど自分の洋服のお金は私が払うということになった。
「そういえば、エリオットは騎士団の中で模擬戦を行ってるの?」
「ああ、行っているよ」
「それじゃあ、その……見に行ってもいい?」
「……!」
エリオットが嬉しそうに瞳を輝かせる。
「いいよ、来て」
「ありがとう!」
「五日後朝一で模擬戦の予定があるから、一緒に行こう。アイリスも休みだろう?」
「ええ。行く! 絶対行くわ!」
エリオットはどういう風に戦うのだろう。
確か、獣人騎士団は魔物も倒していると言っていた。
エリオットは副団長だ。
ミルさんたちから聞いた話だと、エリオットは団長と同じくらい剣技に長けているらしい。
五日後が楽しみだと思いながら、夕食の時間まで二人でいろんな話をして笑い合った。
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