第26話「聖夜祭、大忙しです!」

◇◇◇


 時が過ぎ、聖夜祭当日となった。

 出勤のときもそこかしこからパーティーをして盛り上がっている声が聞こえる。


 ベスティエ街はパーティーライトがそこら中に飾られ、屋台もたくさん出ている。

 いろんなカフェやレストランも聖夜祭限定のメニューを店頭で宣伝し、完全に祭りだ。


 この日は昼から夕方までのシフトだったけれど……うちも聖夜祭限定のメニューを出しているため、お客さんの数がいつもの倍以上来ていて、ルウィーナさんに閉店までいてほしいと言われてしまった。


 早く帰られるように言っておくと、エリオットに言ったのに……。

 でもこれだけ忙しいのなら、ちゃんと最後までいないと。


「アイリスさん、向こうのオーダーお願いします!」

「はい!」

「アイリスさん、十九番の方のお会計しておいて!」

「わかりました!」


 今日のホールの出勤はミルさんとナジェリさん、私だ。

 ルウィーナさんは私のシフトをミルさんとナジェリさんに被るようにしておいてくれている。


 聖夜祭までにカフェの仕事を一通り習った私は、テンパりそうなほどに大忙しだ。

 もちろんキッチンのルトさん、ルザックさんも大忙しである。


「すみませーん」

「はい、少々お待ちくださいね~!」

「カルボナーラ一つくださーい」

「はい、カルボナーラですね、かしこまりました!」


 息つく暇もなくホールの端から端まで早歩きである。

 私が案を出した内装変更は大成功で、今では男性客だけで来店してくれたりする人も多い。


 今日はカップルだらけで、お互いの料理を「あーん♡」と食べさせあっているのが視界の隅に何度も映っていた。


 私もエリオットに「あーん♡」なんてしたりする日が来るのだろうか。

 は、恥ずかしくて無理……!


 そんな恋の妄想は一瞬で、仕事に集中し続けて数時間。

 閉店後の片付けをしている頃には……既に二十二時。


 どうしよう。私、エリオットに豪華な食事を振舞おうと思っていたのに。

 それに、今日の出勤前にエリオットへのプレゼントを買っていたのに。


 エリオットは明日、仕事だと言っていた。

 私が帰る頃には、寝てしまっているだろうか。


「アイリスさん!」


 気持ちが沈みがちになりながらテーブルを拭いていると、ミルさんが小走りでやってきた。


「後は私たちがやっておきますから、アイリスさんは先に上がってください」

「えっ!? でも……」

「今日は聖夜祭です。番の方とお祝いする予定だったんじゃないですか?」

「え! アイリスさんって、番がいるの!?」


 ミリさんの言葉に声を上げたのは、ナジェリさんだ。


「それなら後の処理は私たちに任せて! ルウィーナさんにも言っておくから! お祝いしてきなさい!」

「アイリスさん番いるんだ! 早く帰りな! 俺からもルウィーナさんに言っておく!」

「……お幸せに」

「あ……ありがとうございます!」


 ルザックさんとルトさんにも背中を押され、私はお言葉に甘えて帰る準備をした。

 裏口から帰るときに、ルザックさんやミルさんたちに手を振られ、温かい見送りをされる。


 本当に、優しい人たちだな。

 冬なのに、心は温泉に入ったかのようにぽかぽかと温まっていた。

 そして、人通りの多い街を走ってエリオットの家へと向かった。

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