第24話 友人
この村では長老の他にも教師役の大人が何人もいる。というか、もしかすると村にいる大人たち全員が交代制で教師役をやっているのかもしれない。
実際にアグニルやシーナがおれたちにものを教える機会もあったし。誰々の父母というのを後だったり、自己紹介の時に知ったこともある。だから、というわけでもないだろうが、ここでは同級生という意味合いが前世のそれとは若干違う気がする。
もっと距離が近いというか、まるで兄弟近いような感覚があるのだ。
「よっ。また居残りしたんだって?」
ぼーっと空を見上げていたらそんな風に声をかけられた。
大の字のままだらけ切っていたおれは首を傾けるだけで、相手を見た。果たして、そこにいたのはおれにとって予想通りの人物だった。
「悪いかよ、アスラ」
我ながら喧嘩腰の言葉に相手もむっとしたようだった。別に気にしない。いつもの態度だったし、お互いこういうノリの方が気楽でいいのだ。何せ、家族の次に一緒にいる連中の一人なんだから。
アスラ。
多分、俺よりも三つか四つは年上の男だ。
「トール。お前、いくらなんでも意地になりすぎなんじゃねえか?」
「あ? どういう意味だよ?」
「まんまだよ。向き不向きってのがあんだろ。おれの兄貴だって未だに魔法は使えねえぜ? おれらの代がたまたまみんな使えるだけだってさ」
「うるせえ。んなくだらねえこと言いにきたんならとっと帰れ。おれはまだやることあんだからよ」
「まだやんのかよ?」
「お前、今日のことだっておれは忘れてねえぞ」
思い出すのは瞑想の最中のこと。いつもよりも深く集中できたと確信したと同時に、この馬鹿がちょっかいをかけてきやがった。多分、頬を突いていたのはこいつである。それに便乗して周りの奴らが脇をくすぐったりとメチャクチャにされるのが最近の定番になってしまっている。
いや、もう、こいつ本当に死んだほうがいいんじゃないかなマジで。
ダメだ。思考が体に引っ張られているのか幼稚すぎる怒りしか湧いてこない。呆れ顔をしているアスラを睨みつけた。
「だって、お前、めちゃくちゃ怖い顔してんだもん。もうちょっと気楽にやったほうが上手くいくんじゃねえか?」
「…ふん。おれとお前は違うんだよ」
「違わねえよ。怖い顔したって何も上手くいかねえぜ」
いや、どっちが年上かわからないなこれじゃ。
我ながら自分の態度が実に馬鹿みたいだなと思った。けれど、どうにもこいつと話していると童心に戻ってしまう、というか昔からの友人と話しているような気がしてしまうのだ。
そもそも、こんな態度をとっても友人として接してくれるこいつがいい奴すぎるのかもしれない。小学生に宥められる四十代。しかも四十代が自分である。うん、死にたくなってきた。
「…出来ないってのは嫌なんだよ」
「そうか。なら、遊ぼうぜ」
「…いやいやいや、流石にその流れにはなんねえよっ!?」
「面倒臭いんだよ、お前。つまんねえ。そんなことより遊ぶぞ」
「えぇ…?」
一瞬だけでも心を開こうとしたおれが間違ってたんだろうか。いや、小学生になにかを求めたこと自体が間違いだったのかもしれない。なんだか怒る気にもなれなくて、むしろこんなことを考える自分がとことんおかしくなった。
「あーもう、わかったよ。遊ぶったって何すんだよ?」
「ほれ」
アスラが指を向けると他の連中がこっちを見ていた。ボールを持っている。人数を数えてようやく理解した。あそこにいるのは四人。そして、おれとアスラを合わせて六人である。これでようやくチーム分けができるわけだ。
「お前、魔法使えないかもしれないけどよ」
「あ?」
「ボール遊びは誰よりも上手いと思うぞ」
下手な慰めの言葉に驚いた。
けれど、その言葉で今日の特訓を切り上げることを決めた。魔法が使えるようになることも大事だが、それよりも大切なものはある。前世でだって、おれは友人だけは大切にしていのだ。
その後、俺たちは日が暮れるまで遊んで帰った。
久しぶりに遊んで満足したし、疲れもあった。
それでも、一日の最後に瞑想だけはした。
結局、それでも魔法は使えなかった。
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