第12話 祝福の儀
「あ、スキルの中身までは教えられないの。どうしても知りたければギルドに入ってね」
そう言って咲奈さんはウインクを一つくれた。
それもまた似合いすぎていて見惚れてしまいそうだった。もちろん、本当に見惚れたりしなかったが。
しかし、ファンタジスタか。
いや、ほんと、スキル名がズルすぎる。
お約束の儀式程度の印象だったが、俄然やる気が出てきた。といっても、何をすればいいのかがわからない。いや、そもそも何も出来ないんだった。
「よう来たな。ほれ、この服に着替えさせなさい」
長老がやってきた。
相変わらず立派な白髭を蓄えている。けれど、今日はどこか厳かな雰囲気の服装だった。例えるなら、なんだろう。お祓いなんかで神社の神主さんが着ている様相に似ている気がした。額にある角に被せ物をしていているのが烏帽子…というか修験者の額に被るものに似ている。
長老から渡された衣装も似たような色合いの代物だった。シーナさんはその場で手際良く着替えさせてくれる。
夕暮れ時の空の下で、全裸で。
…いや、まぁ、赤ん坊の姿とはいえ裸になるのに抵抗がないと言えば嘘になる。けれど、この年になればさまざまな人生経験でそういう類のことに関して免疫は十分にあるのだ。誰かに裸を見せるとか社会的に問題がなければどうということでもないことなのだ。…やめよう。少なくとも赤ちゃんが考えていい思考では絶対ない。
ちらちらとおれの裸を見てくる咲奈さんの視線を気付かないふりをしながら、どうでもいいことを考える。頬を赤らめるくらいなら見なきゃいいのに。これが若さか…。
「うん。似合ってるぞ」
シーナさんはそう言って笑みを浮かべた。得意そうな笑顔でなぜかこっちまで嬉しくなってくる。アグネルさんも満面の笑みを浮かべながらごしごしと頭を撫でてくれた。
「さすがおれの息子だ。かっこいいぞっ!」
「…ありがとうございます」
我ながら薄い反応だと思ったが、二人はまるで気にしていないようだった。それがますます嬉しい。だから、態度が、反応が薄くなってしまう。どうしても照れ臭さが抜けないのだ。
まるで子供みたいだ。見てくれだけではなく、自分自身の幼稚さが滲み出ているような気がした。
「では、最後にこいつを」
長老が頭に何かを被せてくれた。
おそらく、長老自身がつけているものと同じ造形のものだろう。子供用に小さいみたいだが、おれにとっては重いヘルメットを被せられたような気分だった。
「祠に向かう。トールとシーナ、そしてサクナだけ着いてまいれ」
長老の雰囲気が変わった。
アグネルさんもシーナさんも雰囲気が変わる。
咲奈さんの表情も心なしか引き締まったように感じた。
夕暮れ時もまもなく終わる。
徐々に暗くなっていく空を見上げ、おれは心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
緊張感とは一味違う。生前から数えて何年振りかもわからないワクワク感を胸に、シーナさんにしがみついた。
いよいよ、おれの異世界生活が本格化するのだ。
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