第3話 問いかけ
「で、君の名前は?」
やけに気安い言葉だったが、おれはただ黙りこむことを決めていた。
目の前には煙管を吹かせた髭面の爺さんがいる。
額から角を生やしているからあの大男と同じ種族なのだろう。立ち振る舞いにもどこか只者ではない雰囲気を漂わせている。恐らくは長老とかのお偉いさんなんだろうなと思った。
いや、それよりもそのセリフ。
大分古いが、まさか爺さんに言われるとは思っていなかった。
「そう警戒しなさんな。別に取って食おうってわけじゃない。ただお前さんのことを教えて欲しいだけなんだ」
教えて欲しいのはこっちの方だ。
その言葉も無意識に飲み込んでしまった。
室内にはおれと爺さんの二人きり。
思わず喋ってしまった後は怒涛の展開だった。何故か大男が家を飛び出し、奥さんは心配そうな目でおれの頭を撫で続けた。姉妹はと言えば不思議そうな目でおれを見ているだけだったが。それから間もなく、大男はおれを抱き上げてこの爺さんのうちに転がりこんだのだ。
そして、一対一の面談となったわけである。
「んー? まだ子供ってわけじゃないだろうなぁ。多分、大人ではあるんだろうが、なんだ? あまり人と喋るのに慣れてないってかい? そういう奴多いんだけど、どうも違う気がするんだがねえ?」
独り言のような言葉だったが明らかにおれに向かって話しかけている。
すっとぼけるのにも限度がある。
そもそも、ここでおれが喋らなければ延々とこの時間が続くという確信もあった。ので、観念して話すことにした。
「あの、すいません。どう話していいのかわからないんですが」
「おお。随分と流暢だ。やっぱり、あんた生まれ変わりだね?」
「…やっぱりわかってるんですか」
「お前さんみたいのはよくいるからね」
「よくいるんですかっ?」
「ああ。二月ほど前にもおったさ」
「そんなに最近…」
「そいつは妙な格好した若造だった。他にも青年や中年の男が多かったの。どいつもこいつも自分勝手なやつだった」
妙な言葉、というのはおそらく日本語のことだろうか。
おれは、理由はわからないが言葉に不自由していない。異世界転生あるあるでは女神様からそういう特別なスキルなりなんなりとしたものを授かるのが筋なんだろうがそういう記憶はまるでなかった。
いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「あの、その人たちもここにいるんですか?」
「いや、皆それぞれここを発っていきおった。なんでも女神とやらに使命を与えられたんだとさ。中には便りや物資を送ってくる奴もいるが、ほとんどはどうなったかはわからんな」
「女神っ?」
なんだよ、やっぱりいるんじゃん。
おれが食いついたのを見て、髭面のおっさんが目を丸くした。
「なんじゃ? お前さんも会ったのかい?」
「いえ、その逆で。会ってないんです。気がついたらこうなってたというか」
「そりゃ良かったな」
「え? 良かったってどういう意味ですか?」
「ああ、それはな」
何故か、髭面のおっさんはそこで間を作った。もったいぶっているのかと思ったがどうにも言いづらそうにしている雰囲気もあった。おっさんはゆっくりと煙管を吸った。煙を吐き出しながら、
「なんでも寿命を奪われたらしい。期限以内にミッションだったかな? それをこなさないと魂ごと存在を消されちまうんだそうだ。まるで奴隷の生き方みたいなもんだよな」
そんな恐ろしいことを言った。
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