episode:08 解決です!


「では、マルコットさん、予定通りに」

「はい」

 マル爺が目配せをすると二人の女性団員が入室し、フォウさんを左右から挟んで腕を掴み、立ち上がらせました。そのまま病室の入り口まで移動していきます。まるで犯罪者を確保した様な状態でしたが……まさかフォウさんが? 

 何がどうなっているのか、考えが追い付いていません。不謹慎なのは解っていますが、先生の推理を聞くのが正直めちゃくちゃ楽しみです。

 ……でも、同時にそれは僕の推理が間違っていたという事になってしまいますが。


 後になって先生から聞いたのですが、僕の推理メモには一つだけ不確定要素が存在していました。そんな事とは全く想像も出来ずにいた僕は、ここから始まる先生の流れるような推理に聞き惚れてしまうのでした。


「今回の殺人事件。命を狙われたのはニコラッドさんではなく、イーサムさんです」

「え? 今なんて……」

 フォウさんの驚いたこの一言が、この場にいる全員の……いえ、真犯人の“彼”を除く皆の気持ちを代弁している様でした。

「考えてもみてください。足を骨折して入院している者が、どうやって毒物を手に入れられるのでしょうか?」

 もっともな話です。しかしそういわれて、ふと気が付いたことがあります。

 「先生、共犯者って可能性はないのですか?  誰かに毒を用意させるとか」

「あら、エリオ。良い所に気が付きましたね」

 あ、褒められました。

「ですが落第点です」

 え~……。

「単に殺そうというだけならば、わざわざ共犯者を募って疑われるような毒殺ではなく、事故にでも見せかけて殺せばよいでしょう。例えば、

 その言葉を聞いた時、フォウさんは“探索時最後尾にいた”メンバーに視線を向けました。メンバーの誰にも気づかれずにターゲットを殺すのなら、最後尾にいるしかありませんから。

「ゴードルー、まさかあなたが……」

「ち、違います。知りません、そんなの……嘘です」


「イーサムさん、そろそろ出ていらしたらいかがですか? フォウさんの安全は自警団の皆さんが確保してくれていますよ」

 シーン……と静まりかえる室内。十数秒の後、窓際の天井の一部が開き、中からほこりだらけの人が出てきました。

「イーサム!」

「フォウ……」

 先生は駆け寄ろうとするフォウさんに手の平を向け、行動を制止しました。

「フォウさん、そこにいて下さい。イーサムさんもどうぞ、ベッドにでも腰かけて下さいな」

 窓際の“魔力溜まり”は、屋根裏に上がった時の残りという事でしたか。それにしても、骨折している足がとても痛々しく見えます。天井裏に丸二日潜んでいたのですから、それでは治るものも治りませんね。


「イーサムさん。ゴードルーさんは果物をお見舞いに持ってきたのではありません事?」

「はい。そこで買って来たと言ってリンゴを三つ」

「単純な話です。それに毒が仕込まれていた、という事ですわ」

「そうです。ゴードルーが帰った後、入れ違いでニコラッドがきて……」

「リンゴを見つけたニコラッドさんはそのうち一つを手に取り、口にした。と」

 幼馴染だった二人は、その辺りのやり取りもツーカー(注)だったのでしょう。そこにあるリンゴを黙って食べても、それが普段通りと思えるほどに。しかし、その場でニコラッドさんが突然死を迎える。


 ……ですが納得出来ません。

「イーサムさん、何故すぐに自警団に届け出なかったのですか?」

 先生の推理の邪魔をしてしまったかもしれないと反省していますが、その時は聞かずにいられなかったのです。すぐに届け出ていればこんな面倒な話になっていないのですから。


「すみません、それは俺が……そうさせたんです」


 僕の問いかけに返事をしたのはイーサムさんではなく、ずっと黙っていたサントスでした。

「いや、サントスは何も悪くないんだ。俺の……俺達の事を考えて動いてくれただけなんだから」

「イーサムさん。その辺りの事、お話いただけますか?」

 先生が静かに問いかけました。犯人が解っても、その時のやり取りは直接聞くしかありません。どのような経緯いきさつでイーサムさんは隠れなければならなかったのか。婚約者フォウさんをおいてまで隠れる理由。罪を被るかもしれないのに、何故?


「あの日、ニコラッドが倒れた直後、丁度サントスが病室に訪れたんです……」






――――――――――――――――――――――――――――

(注)つう‐かあ

〘名〙

① 互いに気心が知れていて、ちょっと話をすればすぐその話の内容がわかるさま。つうといえばかあ。

② 一人の得た情報がもう一人につつぬけになるような、仲のよい間柄にあるさま。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典


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