第24話 探索者免許
- 2025年11月1日 新宿ダンジョン免許センター -
ダンジョンが一般開放されたとはいえ、ほんとに誰でも入れるわけじゃない。
まずは探索者として働くための免許が必要だ。
普通は何ヶ月もかけて軍隊みたいな養成キャンプに通って免許を貰うんだけど、実力に自信のある人間のために、高難度の実技一発受験も用意されている。
もちろん俺が狙うのは一発受験だ。
ダンジョン免許センターの運動場で軽くウォーミングアップしながら、試験開始を待つ。回りにいるのは格闘技とかやってそうな体格のいい人ばかりだ。
みんな法律に触れない範囲で限界まで物騒な武器を持ってる。
俺のほうが経験豊富だとは分かってても、ちょっと気後れしちゃうな。
「それでは試験を開始します。番号順に呼んでいきますので、声の聞こえる範囲で待機してください。1番のかたー!」
壁で区切られた試験場にマッチョが入っていく。
肩で風を切りながら自信満々に向かっていった男が、すぐ顔面ボコボコの状態で放り出されてきた。あーあ。
「2番のかた!」
「はい」
さあ、俺の出番だ!
自信満々に試験場の扉を潜る。
「陰野歩さんですね。19歳の高校3年生、運動経験なし……なるほど……」
確かに外聞が悪い経歴だ……。
探索者になるんでもなきゃ、高校生で1年半の空白はキツい。
「まさか手加減しろって言わねえよな?」
試験官は二人いた。片方は制服だけど、もう片方は探索者だ。
金髪で、武器は魔法の杖を思わせるDE操作の補助杖。Tシャツの上に軍用チェストリグを装備していて、正直ダサい格好をしている。
なるほど実技試験。
「あの人を倒せばいいんですか?」
「オイオイオイ、言うなあ! 生意気なのは嫌いじゃねえけど」
「……倒さないでくださいね。彼は〈サモナー〉ですから、DEをこねて仮想の魔物を作れるんです。一撃も喰らわずに魔物を倒すのが、この試験の合格条件となります」
「言っとくが、この俺はBランクの探索者だからな! 一線級だぞ!」
「……ランク……?」
何そのシステム。俺そんなの知らない。
「だあーっ!? お前、探索者ランクも知らないで何しに来たんだよ!? ったくもう! 探索者は実績と強さでランク分けされてんの! 強さに見合わないダンジョン潜って死んだら大変だろ!」
「なるほど」
そっか、どういう探索者をダンジョンに送るか選べるぐらい余裕があるんだな。
近くにいる探索者を問答無用で放り込むほど困ってないんだ。うーん平和。
「なるほどってお前なあ……ちょっと試験後にツラ貸せよ」
「え? ステゴロ?」
「ちげーよ! ド初心者で危なっかしいから色々教えてやる!」
意外と面倒見のいい人だった……。
「……では、試験を始めてください」
「おうおう、しっかり現実を思い知らせてやるか」
探索者がチェストリグから一本の棒を取り出し、投げる。
DEを圧縮して固めた棒か? 珍しいもの持ってるなあ。
「サモン! フランカー試験用!」
バシュンッ、とDE棒が瞬時に変化する。
機械の関節を持つ四足獣が現れ、俺の周囲をぐるぐる周り始めた。
「そいつは威力こそ手加減してあるが、この俺がダンジョン攻略で使ってる本物の召喚獣だ! 探索者になるってのがどういう事か理解して帰りな!」
フェイントを織り交ぜながら機械の獣が跳び回り、俺の裏に回って攻撃してくる。
確かにけっこう速い。けど、別にDEで身体強化しなくても対処できる範囲だ。
「よっ、と!」
背後の獣に裏拳をぶちかます。クリーンヒット。
うん、練習相手に丁度いいな。これでいこう。
「……は?」
跳び回る獣を相手に、しばらくDE強化無しの状態で戦う。
これぐらいなら全然余裕だ。
「こ……この俺の召喚獣相手に、DE無しの素手で渡り合ってやがる……!?」
なんか懐かしいな。前世でDE削り役やってた頃の気分だ。
DE操作がまったく出来ない状態でも、まあ戦えないってことはない。実際やってたし。
じゃ、そろそろ終わらせるか。
DEを身体強化に回し、一気に踏み込んで拳を振り抜く。
獣がドカンと吹き飛び、バラバラのDEになって虚空へ消えていった。
「あ……あーっ! そこまでオーバーキルしなくたってよかったんじゃねえか!? その召喚獣、再利用したかったんだが!? 高いんだぞ、DE棒! 一本で一千万するんだぞ! ち、ちくしょう……なんてやつだ!」
「え? マジ? 一千万するの!?」
もう少し手加減しておくべきだったか……!?
「おかしいだろ!? 何でDE棒の価格も知らねえ奴がそんなに強いんだよーっ!」
「……とにかく、試験は合格ですね。おめでとうございます」
「おいお前! 後で絶対に面貸せよ! なあ! 話があるから!」
「あ、はい……なんかすいません……」
逃げるように試験場を後にする。
と、とにかく合格だ。探索者になれたぞ。
……数時間後。
俺の受験番号が合格者一覧に表示されたのを確認して、窓口へ向かう。
大量の書類にサインしたり、長ったらしい注意事項を読み合わせたりした後、俺は教習ビデオを見せられることになった。
ダルいなあ……運転免許じゃないんだから……。
パイプ椅子に座り、片膝に肘をついて半目で映像を眺める。
何十人も座れる部屋なのに、職員と俺しか人がいない。
結局、合格したのは俺一人か。未経験であれとやり合うのはそりゃあキツい。
そうして数時間後、俺はようやく探索者免許を手にした。
ほとんど運転免許証みたいなダサ……実用的デザインだ。
名前の背景が銅色で塗られている。ランクが上がるとここの色が変わるらしい。
「いたいた! お前!」
「あ」
さっきの探索者に捕まった。
「俺の会社に入らねえか!?」
そうきたか。
「……えっと、しばらくソロで潜ろうかなと……」
「一千万円ふっ飛ばしておいてタダで逃げれると思うなよー!?」
た、確かに。
「とにかく、話だけでも聞いてくれよ! な!」
というわけで、俺は近くの喫茶店に連行された。
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