第7話 トレーニング開始・ハ
学校の授業を聞き流し、即帰宅してトレーニングに励む。
こんなに意識の高い帰宅部が俺以外に居るだろうか? いや、いない。
帰宅部全国大会があったら優勝できるんじゃないか俺。
「ぬぬぬ……」
DEを体内に巡らせたり、放出したり、周囲に充満させたり。
色々試してみる。〈異能〉の才能みたいな特殊適性があれば、こうやって試しているうちに何かが起きるはずだけど……何も特殊な現象は起きなかった。
時間が巻き戻ったって、やっぱり俺に才能なんてないのか。
それならそれで仕方がない。
特殊な異能がなくたって、純粋なDE操作だけでも魔法みたいな事が起こせるんだ。
防御壁を展開したり、弾丸や炎を作り出して遠距離攻撃したり、固めて武器にしたり。
効率は悪いし才能と努力が必要だけど、やろうと思えば魔物もどきを作って使役することも出来るし、建物を出現させることだって出来る。
元々ダンジョンや魔物を作るために使われてるエネルギーなんだから当然だ。
「いい方向に考えよう! 戦闘スタイルが選び放題だ!」
十五年間でだいたいDEを使った戦い方のテンプレが固まってる。
その中から何を選ぶか決めて、そのスタイルに必要なDE操作を練習しよう。
”破”って言われてるだけあって、目指すべき方向が決まらないと訓練が始まらない。
「ずーっと素の状態で接近戦やってたんだから、やっぱり身体強化がメインの〈ファイター〉か?」
身体の外側にDEを纏わせておけば銃弾でも防げるし、内側を巡らせれば身体能力が強化される。
最も簡単な戦闘スタイルで、初心者はここからスタートするのが通例だ。
でも突き詰めていくと難しい。基本を極めるのは派手な小細工より大変だからな。
「いやしかし、俺はずっと”炉”の練習をしてたわけで。DEのリチャージが速いはず。DE充填速度を最も活かせるのは、ダンジョン素材で作った兵器の運用に徹する〈アーティフィサー〉だけど……まだ兵器がないな」
ダンジョンのドロップ品で作ったDE兵器が出てくるまで、最低でも数年。
俺の手が届く価格帯まで降りてくるのはいつになるやら。待ってらんない。
「〈サモナー〉っていう手もあるか」
使うDEに対して効率が悪いから不人気な戦闘スタイルだけど、俺ならやれるかも。
魔物もどきを生み出したり、自動砲台を生み出したり。
生成が難しくて一瞬でDEが空になるけど、すぐ充電できるなら関係ない。
高速チャージでバシバシ増やせば数の暴力で押しつぶせるんじゃないか。
「でも扱いは難しそうだなあ……となると〈シューター〉か」
DEを変換して射撃に使う。召喚ほどじゃないにしろDEの消費は激しいけど、楽だし安全だし連携もしやすくて素直に強い。
問題は射撃に集中しすぎて隙が多くなることと、安全すぎて
ギリギリの戦いをしたほうが最終的には強くなれる。
「回復役の〈ヒーラー〉も妨害役の〈ウォーロック〉も仲間がいる前提だし、隠蔽専門の〈ローグ〉はちょっと……他のマイナーなスタイルはよく知らないし……」
どれにしよっかな。目移りするう。贅沢な悩み~。
「んんー……いっそ全部やってみるか!」
最初に色々試してみたって損はないよな。
ダンジョン解放までたっぷり時間はあるだろうし、じっくりやろう。
というわけで、人気のない山の中まで移動する。
俺が住んでる鎌倉の近辺は山がちだし、昔の切り通しがルートに入ってるような山道がたくさんあって、適当な場所で山に入れば練習場所には困らない。
「まずは身体強化からやってみるか!」
意識を集中し、全身のDEを循環させるようなイメージで操作する。
……なかなか難しい。箸で豆を掴んでるみたいな繊細さだ。
これ、最も簡単なDE操作だって聞いてたんだけど?
「むむむ……」
数十分ほど体内を逃げ回る不思議エネルギーと格闘した末に、なんとなく体をグルグル流れてるっぽい感じにはなった。
これが血だったらすぐに詰まって心筋梗塞で死にそうなぐらいドロドロの流れだけど、力が湧いてきてるのを感じなくもない。
「えい!」
試しに木を殴ってみた。
バギィッ、と幹が千切れて、派手な騒音を立てながら木が倒れていく。
「お、おお……!」
すごいパワーだ! ちょっとすごすぎる気もする!
「ジャンプしたらどうなるんだ? ……うわーっ!?」
手加減してるのに、森のてっぺんから頭が飛び出すぐらいの高さまで飛んでしまった。
「落ちるーっ!?」
思いっきり地面に叩きつけられた! 痛……くない!?
すごいぞ身体強化! っていうか前世の探索者連中はこんなパワーで戦ってたのか!?
そりゃ、DEも使えなければレベルアップもしてない俺じゃ歯が立たないのも当然だ!
「よーし、次。思いっきりDEを放出してみよう」
初心者はまずDEの放出を単体で練習するのがいい。
スムーズに体外へ放出できるのが色んな戦闘スタイルの最低条件だ。
これを習得した後でDEから物質への変換を練習し、癖や得意分野を把握するといい。
って彩羽さんが言ってた気がする。
「ぬぬぬぬぬ」
一瞬だけDEのチャージを挟む。ぶわっと風が吹いたけど、爆発はしない。
さっき減った分は補給できたはず。さあ放ってみよう!
「あ、どっちに撃とう……」
周辺の山に人はいないはずだし、仮に直撃しても無害だけど、心情的に当てたくない。
うーん。真上に撃てばいいか。今度こそやるぞ!
せー、の!
「うりゃあっ!」
ダアアアアァァァァンッ!
「えっ!? めっちゃ極太のビーム出た!?」
とりあえず試した程度の力だってのに、なんかすごいことになっちゃったぞ!?
直視できないぐらい眩しい青色光が無限に手から出るんだけど!?
たっぷり数十秒ほど、昼間の空にくっきり浮かび上がるほどの光が放出された。
スッキリとした疲労感がある。トイレを我慢したあと全部出し切ったような感じだ。
ふう。
「……何だったんだ今の?」
見上げれば、上空の雲に円形の穴が開いている。
俺の放出したDE、高度何千メートルまで届いちゃったんだ……?
何にも変換してない素のDEだから、この光線に攻撃能力とかは無いし、ただの派手なライトショーだけどさ。
前世でひたすら基礎訓練してたとはいえ……強くなりすぎじゃないか、俺?
- - -
【悲報】鎌倉、終わる 山中に謎の光線が出現
1:何でも名無し
URL:https://Twitter/kamakura/video
避難するなら今のうち
2:何でも名無し
やば めっちゃビーム出てるじゃん
3:何でも名無し
こんな時にCGでフェイク動画作るやつ性格悪いと思う
4:何でも名無し
これってダンジョン出現の前触れみたいなやつ?
5:何でも名無し
こんなん出す化け物が暴れてるの? 今度は千人ぐらい死ぬ? ワクワク
6:何でも名無し
どうせニュースにもならない嘘だろ最近そんなんばっか
7:何でも名無し
さっきニュースでやってたぞ? 自衛隊が調査中だって
8:何でも名無し
近くに住んでる人がTwitterに写真上げてるぞ
何にも起きてない平和な日常だわ 解散
9:何でも名無し
ダンジョン潜ると超人になれるって噂あるよな? アレじゃね?
10:何でも名無し
>>9
人間がこんなビーム出せるわけねーだろ
11:何でも名無し
>>9
ダンジョン出現日に鎌倉の長谷高校のやつだけ攻略済みの状態だったって聞いた
もしかして……
12:何でも名無し
>>11
そんなヒーローが救ってくれるみたいな妄想やめとけよ
もうこれ日本終了だから
13:何でも名無し
ヒーローでも何でもいいから実在しててほしいよ
みんな非日常イベントだと思ってワクワクしてるけど、たくさん死んでるんだからな……マジで核爆弾でも何でもいいからパパッと終わらせて日常に戻ってくれ……
14:何でも名無し
世界の終わりに備えて鍛えてきた俺の身体が火を吹くぜ!
さっさと近所にダンジョン出てこい! 俺が全部ボコボコにしたるわガハハ!
15:何でも名無し
>>14
自衛隊が殺されてんのに訓練してないアマチュアが勝てるわけねーだろ
16:何でも名無し
正直ちょっと楽しい
もっと世界中で大事件が多発してほしい
17:何でも名無し
>>9
そんな奴ホントに居るならとっ捕まえて解剖して研究しろ
「うわ」
思わず俺は匿名掲示板を閉じた。人体解剖されてるとこ想像しちゃったよ。
探索者の解剖は合成兵器の研究過程で実際に……ウッ。頭が痛い。考えないでおこう。
平和なうちは解剖なんかやらないだろうけど、安心できない……。
……大活躍してチヤホヤされたかったけど、目立ちすぎるのも考えものか。
しばらく控えめにいこう。練習場所も変えなきゃな。
とはいえ、無名でいるのもリスクだ。失踪しても騒ぎになりにくいから。
いっそ一気に大活躍して有名人になるほうが安全かもしれない。
「はやくダンジョン解放されないかな……」
何にしたって、あと何年も下積みするしかないんだよなあ。
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