第5話 トレーニング開始・イ
イロハ・メソッド、”意”。
まずは自分のDEを感じ取れるようになること。
ってことで、ひとまず座禅を組んでみた。
呼吸に感覚を集中して、意識を空っぽに……。
……ぐう。
……ハッ。
寝てたわ。いい夢見ちゃった。
ダンジョン攻略の疲労がまだ抜けてないかも。
改めてもう一度。すー、はー。
……あ、嫌な夢を見そうな予感が……。
-A.D.2033 ジャワ共和国 ジャカルタ探索者キャンプ-
「んん……」
トラックがガツンと木の根を越えた衝撃で、俺は目を覚ました。
素早く武器を確認する。魔物の超硬質甲殻で作られた剣も、護身用のDE銃も無事だ。
迂闊だった。運が悪ければ商売道具を盗まれて飯が食えなくなっていた。
同乗していた探索者たちが、英語混ざりのインドネシア語で会話している。
『~~日本人~~雑魚だし気が緩んで~~』
「なんだと?」
部分的に罵倒が聞き取れた。食って掛かると、入れ墨だらけの男が応じてくる。
「事実だろ? まだ一回もレベルアップしてないんだって? 才能ねえんだから国に帰れよ……ああ、滅びてたか! お前みたいな雑魚ばっかだったせいで滅びたんだな!」
「黙れ!」
許せない侮辱だった。剣を抜く。
他の探索者たちが慌てて俺を制止した。無視した。
「やるか? いいぜ? ダンジョンまであと数分だ! 準備運動にちょうどいい!」
そうして数分後。
鉄条網で囲まれた泥濘地に張られたキャンプへたどり着いた俺たちは、即座に荷台を飛び降りて向かい合った。
続々と野次馬が集まってくる。
剣を構え、敵を分析する。入れ墨こそ派手だが、大したことのない相手のはず。
俺と同じDE削り役なら、せいぜいレベルアップは一回だろう。経験でカバーできる。
「おいおい、まさか役割が同じだからって同類だとでも思ってんのか? バーカ! 俺はもう三回レベルアップしてるんだよ!」
「な……」
「十年経ってんだぞ? 今時レベルアップもしてねえやつに居場所なんかねえ! くたばれ!」
剣すら抜かずに襲いかかってきた男に、俺は為す術もなく敗北した。
泥の水たまりで、自分の顔面を確かめる。ボコボコで原型がない。
「……くそう……何で……何で俺だけ……っ」
努力してるのに。
両親を殺されたあの日から、一日だって鍛錬を休んだことはないのに。
「君。大丈夫か? 回復薬でも飲むといい」
日本語だった。
涙を拭いて振り向き、差し出された薬を受け取る。
「ありがとうございます……あなたは?」
「私は
「え? あの彩羽さん……?」
日本でもトップクラスの天才冒険者だ。雑誌やテレビで見た時はすごい美人だったのに、ずいぶんやつれて別人みたいになっている。
イロハ・メソッドは彼女が編み出したものだと聞く。彼女のおかげで、大勢の探索者がDE操作を習得してきた。偉大な人だ。
そんな彼女でさえ、日本の滅びを防ぐことは出来なかったけれど……。
「さあ、起きろ。怠けている難民に食料を渡すほど、ここの雇い主は優しくないぞ」
「あ、あの」
「なんだ?」
「俺にイロハ・メソッドの指導をしてください!」
思わぬチャンスだ。勇気を振り絞り、俺は頼み込んだ。
「……仕方がないな。どこで止まっている?」
「ええと、まだ”意”のところで」
「お前……探索者歴は何年になるんだ?」
「一般開放と同時にやりだしたので、もう七年、です……」
彼女はため息をついた。
「よく今まで生き抜いてきたものだ。見せてみろ」
精神を集中させる。何も起こらない。
「見込みなし、だな」
「そ、そんな! 何とかなりませんか!?」
「一つ、裏技はある。体内のDEを無理やり外から引き抜く方法だ。ものすごい痛みが走るかわりに、嫌でもDEの存在を意識できるぞ」
「やります」
俺は即答した。
「ほう。よし。気合を入れろ」
イロハさんが音速の手刀を繰り出し、俺の胸から鮮血が迸った。
「痛っ!」
「ここからだ。気絶するなよ」
「……ああああああっ!」
ベリベリと、大事な何かが引き剥がされていく。
あまりの痛みに気絶する寸前、俺の胸元から複雑怪奇な模様が延びているのが見えた。
- 現在 -
「ハッ」
気付けば外は暗くなっていた。じっとりと気持ち悪い汗がまとわりついている。
……昔の夢を見てしまった。見たくなかったな。
あのあと、イロハさんは俺をDE削り役で雇ってくれたけど……何でだろう?
俺より強い探索者は無限にいたし、同僚の皆も俺よりずっと強かったし。
今更か。気にしたってしょうがない。
忘れよう。そうしないと頭痛がひどくなる。
「でも、あの感覚は……覚えておけば……」
……死ぬほど痛かったけど、確かに何かが引き剥がされていく感触があった。
イロハさんに引きずり出された”何か”が、つまりはDEのはず。
前世じゃ結局掴めなかったけど、レベルアップを経験した今ならきっと。
「すう……はあ……」
意識を集中し、”何か”に意識を集中する。
心臓が脈打つたび、どくんどくんと不思議な感覚が体を巡っているのが分かった。
「おおっ!?」
掴んだかも! と思った瞬間、その感覚を見失ってしまった。
難しい。だいぶ時間がかかりそうだ。
でも、一歩前進できたぞ! ヒャッホー!
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