私が姉妹と別れた理由

神楽堂

第1話 優しい姉

「私、一人っ子なんだよね~。だからさ、優しいお姉さんがいたらいいな~とか思っちゃうんだよね。あと、できればかわいい妹もいたらいいな~ 口うるさくて生意気でもいいからさ……」


このような、理想の兄弟に関する話題は、いつも盛り上がるもの。

みんな自分なりの思い入れがあるので、熱く自分の理想を語り始める。


自分は一番上だからいろいろと我慢させられるのが理不尽だという理由で弟妹として生まれたかったと熱く語る子もいれば、

いつもお下がりのお古を着せられるから兄姉として生まれたかった、と語る子もいる。

あとは、一人っ子がよかった、とか、兄弟たくさんがよかった、などなど、話は尽きない。


* * * * * *


私の名前は、アイ。

私にはとても優しい姉マナと、口うるさい妹メグミがいる。

私は三姉妹の真ん中なのだ。



私には、頑張っていることが2つある。

1つは、英語の勉強。

英語技能検定試験に向けて猛勉強しているところだ。


もう1つは、ピアノ。

私はショパンが好きなので、いつかは『革命のエチュード』を弾けるようになりたいと思っている。


英語の勉強も、ピアノの練習も、毎日続けることが大切。

1日サボると、取り戻すのに3日かかるというのはよく言われる話。

実際、その通りだと私も実感している。


英語の検定では面接があるので、話したり聞いたりする力を身につけないといけない。

これって、1人ではなかなか練習しづらい……


ということで、私は姉のマナにいつも手伝ってもらっている。

私の発音を聞いてもらって、おかしな点がないかどうか、チェックしてもらっているのだ。


「アイ、今のところの時制、おかしいんじゃない?」


マナが指摘してくれる。

英語では時制が大切だ。「過去」と「過去完了」の違いをしっかりと意識しないといけない。

問題集で文法問題を解くときは、ゆっくり考えることができるけど、実際に話すとなると、過去なのか過去完了なのかを瞬時に判断して話さないといけない。これがなかなかに難しい。

ということで、マナ姉さんは私の話す英語を聞き、時制におかしな点がないかなどをチェックしてくれている。


一見、効率の良い勉強に思えるが、実はそうではなかったりする。

姉が指摘してくれる私の間違いのほとんどは、私自身でも気づくようなことばかりなのだ。

実際のところ、マナの英語力は、私と変わらない。

人に聞いてもらってチェックしているのだから、自分では気づけないような間違いを指摘してもらいたい、と私は思っている。

しかし、英語の実力が同程度なので、指摘される内容が当たり前のことばかりになってしまうのだ。


あと、英語で同じ内容を伝えるにしても、別の言い方などがあったりするが、そういうのも、姉であるマナはあまり思いつかないようだ。

私では思いつかないような表現方法を教えてくれると勉強になるんだけどなぁ、などと、私は欲張りなことを考えてしまう。


一方、英語は一人でできる勉強もたくさんある。

英語のリスニングについては、毎日、英文をイヤホンで聞いてシャドウイングをしている。

英文を聞き、直後にその英文を復唱することを、シャドウイングという。

正しく聞き取れていないと復唱はできないので、なかなか頭を使う練習だ。

何回もやっているうちに、元の英文をだんだん暗記していくので、やりやすくなっていく。

英文ごと暗記してしまうのなら、リスニングにならないのではないか、とも思えるが、実は英文単位で暗記しておくと、いざ自分が英語で話すときに、覚えた英文を使うことができるので、かなり役に立つのだ。


そんなシャドウイングによる練習も、やはり毎日続けないといけない。

脳を英語脳にしていくためだ。

前に数日さぼったとき、聞き取れていた英文が聞き取れなくなってしまった経験があった。やはり継続が大事なんだと実感した。


しかし、私は普通の人間。

時には怠けたくなる。


英語の勉強は姉に付き合ってもらうことが多いので、私がサボれば姉にはすぐわかってしまう。


姉は優しいので、私がサボっても、叱ったりはしない。

「やりたくない時に無理にやっても、効率悪いよ」

なんて言ってくれる。

そんな姉の言葉に、私はいつも甘えてしまう。

今日も、シャドウイングをサボってしまった……


英語の勉強と並行してやっているのが、ピアノの練習だ。


私はショパンの曲が好き。

いつかは『革命のエチュード』を弾けるようになりたい! と思っている。

この曲は、ショパンが祖国ポーランドへの熱い想いを込めて作った曲で、この曲を聴いて感動しない人はいないのではないか、と思うくらいすさまじいエネルギーに満ちた曲だ。


こんなにも激しく、そして難易度の高い曲ではあるが、『革命のエチュード』はショパンが作ったたくさんのエチュードの中の一つ。

エチュードとは「練習曲」のことだ。


練習曲と聞くと、なんだか単調でつまらない感じの曲のように思う人もいるかもしれないが、ショパンの練習曲エチュードは、練習曲を弾けるようになるための練習曲が必要、なんて思ってしまうくらいに難易度が高く、そして、曲自体の芸術性もとても高い。


有名なところでは、『別れの曲』もショパンのエチュードの一つだ。

これは、曲の冒頭のメロディーがたいへん美しく、癒される。

しかし、途中から曲調が大きく変化する。

そして、終盤にまた、冒頭と同じメロディーが出てきて、癒しモードになる。

なかなかにドラマティックな構成のエチュードなのだ。

ちなみに私は、冒頭と最後のところしか弾けなかったりする。


別れの曲や革命のエチュードを弾けるようになるには、私はこれからもかなりの練習を積み重ねないといけない。

今までに、何度も挫折しそうになった。


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