二章 新たな世界

第47話 神クラス


――お前のようなレアレティCの神クラスと契約を結ぶ奴がいるわけがないだろう!――


 召喚された時、少女が召喚者に言われた言葉がそれだった。

 この世界は異世界から神や英雄を召喚し、使役するシステムがある。

 少女は召喚術をもってこの世界に召喚された。


 異界の多神教の神の一人。それが少女だ。


 見習い召喚士に呼ばれたせいか、元居た世界の記憶も曖昧で、力も全て失った未熟な状態で呼ばれてしまった。この世界では召喚され、主人が決まらない者は存在が消えてしまうらしい。


 レアレティというシステムがありCが最低でSSが最高。レア度が高いほど、強さを表している。少女は神という特殊クラスでありながらレアレティCというかなり特殊な存在だった。


 神はもっとも強い職業でその特殊性ゆえに一度契約を結んだものは契約を解除することができない。そして他の職業(クラス)なら2~5人使役できるところを、神は絶対であり、神意外と契約できない。そうつまり、少女と契約をしたが最後、少女以外と契約が不可能になる。

 神クラスとは名ばかりのスキルも『硬質化』しか取り柄のない少女と。


 この世界の貴族はみな英霊を召喚出来、召喚し従えた英霊の強さで強さが決まる。

 それ故弱い英霊と契約を結ぶものはいない。

 

 どなたか私と契約してください


 召喚士の子供たちの集う学園。

 そこにある契約のホールで少女は心の中で祈る。

 学園の中央に位置し、巨大なホールの中に大きな魔方陣のある部屋。

 主のない英霊達が保護されている場所だ。

 少女のように呼び出されて召喚者に契約拒否された英霊は、学園にある契約ホールの魔方陣の上で契約者が来るのを祈るしかない。契約破棄された英霊はまだ自らの力で召喚出来ない学生たちが引き取っていくのが習わしだ。呼び出すだけ呼び出されて契約してもらえなかった、レアレティが低いとものたちが集う場所。


 そういった者達も、自らが召喚できる力のないあまり成績のよくない召喚士に引き取られて行くことが多い。

 今年は学園に入学希望者がおおく、それでいて自らの力が弱いため召喚式をおこなえない生徒がおおいため、周りにいた未契約の英霊達も次々と契約をむすび、残りは少女一人になってしまった。


 レアレティCの神属性の少女など契約する者などいるはずがない。

 神属性の英霊は契約ポイントを100ポイント使ってしまう。

 普通の召喚士は英霊ポイントは50~80でどれほど優秀な召喚者でも契約ポイントは100ポイントが最大。最初から契約を結べる生徒が少ないうえに、契約ポイントを100所持している学生は、総じて能力が優秀でA級やS級英霊と契約を結ぶため、レアリティC級の少女と契約を結ぼうなどという酔狂な人間はいない。

 しかも神属性は一度契約を結んでしまえば解除できない。

 少女のバフは、契約者の魔力を常に補充し続け、疲労も癒してしまうという有能なバフなのだが、契約ポイント100消費してしまい他の英霊と契約が結べない、そして少女が攻撃手段をもたいないというデメリットが多きすぎた。

 召喚士の彼らのほとんどは英霊をモンスターとの闘いのために使役するからだ。

 硬質化しか取り柄のない上に、他の英霊と契約を結べなくなるというデメリットの大きい英霊と誰が契約を結ぶというのだろう?


「まだ残ってるみたいですね」

「そりゃそうだ。レアリティCの神クラスと契約なんてだれがするかよ」


 学生たちの笑い声が聞こえる。

 冷やかしにきたのか黒髪の少年一人と金髪の少年二人が少女を見て笑っている。

 逃げたくてもこの魔方陣からでてしまえば契約者のいない英霊は魔力供給がなくなり存在自体が消えてしまう。


 どうしよう消えちゃう。私は何もできないまま消えたくない。

 勝手にこの世界に召喚されてなぜこんな目にあわないといけないの?


 少年たちの言葉に惨めになる。


「なんだ、お前消えるのが怖いのか? 何なら俺がマスターになってやろうか?」


 思ってもみなかった言葉に少女が顔をあげると黒髪の生徒はにやりと笑った。


「靴をなめるなら、考えてやってもいい」


 そう言う学生の手には別の英霊との契約紋が見える。

 英霊と契約を結んだものはその英霊との契約紋が体のどこかに現れるのだ。

 神クラスは一人しか契約できない。

 つまり、他の英霊を所持しているこの男子生徒は少女と契約など出来ない。


 ――ああ、また冷やかしだ。


「どうした、舐めろよ。契約してほしいんだろ」


 学生の態度に涙がこぼれる。

 私が何をしたのだろう。

 こんな世界で存在が消えてしまうなんて嫌だ。

 英霊として仕えたあとの消滅は元の世界に戻れると聞く。

 けれど誰とも契約していない状態での消滅は、そのままこの世界に取り込まれて存在自体が消えてしまうと説明を受けた。いま少女の世界はこの魔方陣の上だけ。

 ここから逃げ出しても魔力供給してくれるマスターがいなければ消えてしまう。


 悔しくて涙がこぼれる。

 英霊は言葉を奪われる。ただただ使役される存在だから、この世界では喋る必要がないと召喚時に声をも、記憶をも、自由も奪われるのだ。

 訴えることもなにも許されないただの奴隷。それが英霊。一体これのどこが英霊なのか。

 こんなのただの奴隷だ。


 あまりにも理不尽すぎて少女はぎゅっと手を強く握る。


「泣いてるぜ、こいつ」


 リーダー格の黒髪の男がにたにた笑う。


「……消える前に慰めてやろうか」


 リーダー格の男が口の端をつりあげ、少女を魔方陣から引き出そうとする。


「ちょ、さすがにそれはやめとけよ」


 取り巻きの一人が慌てて制止にはいった。


「大丈夫だろ、俺の父親ならこんなのもみ消せる」

「いや、でも、さすがに」

「いいからでてこいっ!!」


 リーダー格の学生が取り巻きの学生の制止を破って少女に手を伸ばし、少女の手を掴んだ。その手の感触にぞくりとする。

 

『やめて、怖い、助けてお兄ちゃん!!』


 少女がぎゅっと目をつぶった瞬間。


「はい、すとーっぷ!」


 どこかで声が聞こえ、 ばちんっ!! と、盛大な音が鳴り響いた。


 手が離れた感触に少女が、目をあけるとリーダー格の学生の身体が盛大に吹っ飛んでいた。そして声の方に視線を向けると、そこにいたのは尖った耳が特徴の茶髪の男の子と、紫髪の白衣をきた女性がいるのだった。

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