第48話 思い立ったら即行動★
「いい加減にしろよお前ら。胸糞悪い」
俺は魔法で盛大に吹っ飛んでぶっ倒れた黒髪の学生に向かって言い放った。
ちなみに魔法でぶっ飛ばしたが、一応防護魔法は張ってやったので見かけよりは痛くないはずだ。
リーダー格の学生は何がおこったかわからないようで、目を白黒させ呆然としている。そして取り巻きの二人は俺と、英霊の少女、そして俺に英霊を紹介するためについてきた教師を見てあたふたしていた。
レイゼル……いや実は大賢者? まぁ、よくわからんがとりあえずみんなにマスターと呼ばれていた俺がこの世界に転生してからはや12年。一緒に転生した大賢者とともに、この世界でエルフと人間のハーフとして男爵家の跡取り息子として生活を送っている。
ガキからやり直しという状況をうっとおしくも感じたが、それなりに楽しく新たな人生を謳歌していた。が、貴族の子は必ず卒業しなければならない英霊召喚を学ぶ学園に入学した途端、これである。
今世では、父や領地の皆の性格がよく、わりとぬくぬくと育っていただけに、久しぶりに見た胸糞展開に俺は容赦なく魔法をぶっ放した。
もちろん相手がどんな奴かなんて考えもしない。
そう。思い立ったら即実行★
それがこの俺。レイゼル・ファル・シャルデール改め、こちらの世界ではリアン・デル・ファランディウムである。
吹っ飛んで叩きつけられたリーダー格が慌てて立ち上がって俺を睨みつけてきた。
後ろにいる眼鏡の女教師と、取り巻きA,Bはただアワアワとしている。
「お前……ファランディウム家の神童と呼ばれる双子の……」
リーダー格の学生が言うと、俺はにんまりと口の端をつりあげる。
「へぇ、ディルデド伯爵家様のお坊ちゃまに知ってもらえていたとは光栄だな」
そう、学園に入学する前、弟のファティス……前の世界では大賢者だった方に「兄さんは絶対揉め事を起こすに決まっています。関わってはいけない生徒・教師リストも渡しておきますから絶対喧嘩を売らない事」と渡されたリストの中にばっちり名前があった生徒。
グドル・ラド・ディルデド。
絶対関わっちゃいけない生徒NO1。
権力と金をかさに学園の生徒はおろか、教師にまで我儘放題の問題児だ。
弟のファティスに何度も何度も絶対関わるなと念を押された相手でもある。
ふっ。入学初日に、関わるなと念をおされた問題児に関わるとか俺凄い。
弟もびっくりだろう。
あとで弟のファティスに、そりゃあり得ないレベルで怒られるのは容易に予測できる。
だがこれは不可抗力だ。俺の視線の先にいた。それだけで罪だ。
目障りなやつは全力で叩き潰す!!
……。
あとでファティスには全力土下座で謝り、何とかその場をやり過ごせばいいだけの事。うん。平気なはず。
あいつなんだかんだで家族には甘い。最終的には許してくれるから問題ない。
「邪魔するな、部外者がっ!」
黒髪のグドルが俺に叫ぶ。
「すでにレアレティS級英霊一体とA級英霊と契約していてもう他の英霊と契約できないお前こそ、こんなところに何の用だ?英霊を選びにきた俺こそが関係者でお前は部外者なはずだ」
ドヤ顔で言ってやる俺。
この世界糞ややこしいことに英霊をもつのはポイント制だ。ポイントをふりわけて英霊をもつ。S級は60ポイント。A級は40ポイントなので英霊ポイントはどんなに強くても最高が100と考えるとそれ以上の英霊はもてないはず。
俺が紳士的に言うと、後ろにいた眼鏡の気の弱そうな女性教師がこくこく頷く。
「そ、そうですよ。英霊に手出しは校則で禁止されています」
「先生、俺に口出しするんですか。永劫のダンジョン100階層クリアのディルデド家に」
グドルがにんまり笑うと、紫髪の教師の顔が青ざめる。
この世界では『永劫のダンジョン』というものが世界の中心で、それをクリアした冒険者の子孫は、そのダンジョンの階層の鉱物ゾーンに自由に出入りできる権限を子々孫々受け継ぐ。永劫のダンジョンでとれる鉱物や魔石はとても貴重でそれ故この世界では、永劫のダンジョンを制覇した階層そのものがそのまま貴族の権力に直結するのだ。
この世界の人類が到達したのは階層は100層。(ちなみに1000層まであると予測されている)しかも糞生意気なこのガキの先祖のみなのだ。
ディルデド家の者がいないことには100層までのダンジョン直通ゲートがつかえない。
永劫のダンジョン100層は豊富な鉱物と魔石を採掘できるため、この大陸では王族や公爵でさえもディルデド家には逆らえない。
「そ、それは」
先生の家系は魔石を取り扱っている魔道具を作っている。
もちろん逆らえるはずもなく思わずうつむいてしまう。
「はっ。ダンジョンの鉱石ごときで教師すら脅して英霊に暴力ねぇ」
俺が言うと、グドルの隣にいた取り巻きの顔が青ざめる。
「おい。もうそこまでにしとけ。
いくら神童でも、ディルデド家に逆らうのは無謀だ」
近づいてきた取り巻きが俺の耳元で説得してきた。
なんつーか、「こんな事言ってますよ!やっちまいましょう親分!」みたいなことを言わないで忠告してくるとは、取り巻きの中でも良心のある方だろう。
これでディルデド様やっちゃいましょう!とか言うタイプだったら、容赦なくグドルと一緒に叩き潰したのだが、容赦なく叩き潰すリストからは外してやろう。今後の行動次第ではそれなりに叩き潰すリストには入れるが。
「は?なんだと? 神童とか言われているわりにはお前馬鹿なのか」
グドルが笑いながら英霊の少女を指さした。
「神クラスなのに、硬質化しかできない屑英霊だぞ!
お前はこれと契約を結ぶつもりでここにきたのか!?」
「ああ、そうだ」
あっさり答える俺。
その言葉にグドルは腹を抱えて笑い、取り巻き達まで引いた顔になる。
「流石、『じゃないほう』の兄ですね」
取り巻きAがぽつりとつぶやいた。
「じゃないほうってなんだ?」
聞くグドル。
「出来る弟に比べて落ちこぼれなので『優秀じゃないほう』と呼ばれている兄の方です。弟の方は女子にもてているのに兄の方がさっぱりで有名です」
説明する取り巻きA。
「おい。その説明いるか?」
突っ込む俺。
成績は弟と一緒なのに、素行が少し悪いだけでなぜか俺には落ちこぼれのレッテルがついてしまった。いや、確かに素行は悪い。売られた喧嘩は全力で買ってきた。
素行が悪い系の評価はまぁわかる。何一つ間違っていない正当な評価だろう。
だが、落ちこぼれは成績が悪いようにもとれるので、その評価はいただけない。
「馬鹿に教えてやるが、神クラスと契約したら一生これと契約だぞ!
あとからどんな強力な英霊を手に入れても変える事は出来ない」
グドルの言葉に、取り巻きA.Bが頷いて、英霊の少女レナはぐっと唇をかむ。
そう――この世界、英霊を戦力として召喚しているのだが……。
俺とファティスでカルナ達の協力の元いろいろ試した結果、この世界、召喚者本人も英霊レベルの力をもつことが可能だった。魔法をちゃんと覚えられ筋力とかも魔法で増幅してしまえば余裕で強くなれるのだ。逆に英霊側というと召喚者の魔力以上のことができず、かなり本来の強さからパワーダウンされてしまうし、召喚者側は英霊に魔力を吸われ続けている状態で、こちらもやはりパワーダウンしてしまう。
召喚者が魔力をその者の持つ魔力を100注いだところ、英霊が使用できる魔力は20。
少し違うのだが、わかりやすく説明すると召喚者がMP20で放てる技を使うのに英霊はMP100消費する。しかも威力も召喚者がMP20消費したのと同じ威力しか出せないというおまけつき。
これが値引きならお買い得の80%カットなのである。
物凄く燃費が悪い。
まぁ、自分で痛い目をみたくないから、戦力ダウンしても英霊に頼みたいというのならわからなくもない。戦い慣れた英霊に戦闘をまかせるというのも別にありだ。だがこの世界、前にも述べた通り、ダンジョンがかなりの重要な位置を占めている。
鉱石、魔石などといった生活に必要なものがほぼほぼダンジョンだよりなので、ダンジョン攻略にかなりのソリースを割いて、わざわざ学校で英霊を使った戦い方を勉強し、訓練もする。召喚者自身も自らダンジョンにおもむいてダンジョン攻略をしている世界観なのに、超燃費の悪いことをしているアホ設定。
召喚者と英霊がlose-loseの関係を築いてるのがマジで意味がわからない。
創造神があまり深く考えてなくて、設定がめちゃくちゃ……という可能性も0ではないが、問題はわざわざ、召喚者の注いだ魔力の20%しか力をだせないという設定を設けたことだ。
一応俺の世界の創造神と同じなのだから無根拠に設定を盛り込むタイプではない。
何も考えてないならこの設定などいらないのである。
わざわざこれを設定したことは意味があるはずだ。
って、話がそれたが、つまるところ、この世界。強い英霊をもつより自分自身が強くなったほうが強くなれる。
それをなぜかこの世界の住人が無視している歪な世界。
そこにはきっと何か意味があるのだろうが、今はわからない。それを確認するためにこの学園に入学したので、今回はこの件は横に置いておこう。
とりあえず、このレナという英霊は俺にとってはまさに神と崇め祀ってもても足りないくらいの神英霊。
魔力常時回復。腹が減らない。疲労超回復など、バフを所持しまさに神レベル。そしてスキルは「硬質化」で防御完璧。しかも召喚者の魔力20%しか使えなく超燃費が悪いとしても、すぐさまその魔力が回復してしまうのだからマイナス面もカバーしている。
サポートキャラと考えればありえないほどの超チートキャラだ。
正直この英霊を無能扱いしているこの世界の住人の神経がわからん。
「問題ないな。俺にとってこの英霊は最適解だ。むしろ神と崇め祀ってもいいくらい超優秀英霊じゃないか」
俺がにんまりしながら言う。
「いいだろう、忠告はしてやったからな。
さっさとそいつと契約しろ、契約したらすぐさま決闘を申し込んでやる」
そう言って今度はグルドがにんまりと笑うのだった。
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