第45話 真相
魔王復活は魂など関係ない。神ネロスの意志だ。
6回目のループで、レイゼルにいままでの失敗した時間軸の出来事を聞いて、出た答えはそれだった。何より3回目以降ループでは、俺は神を疑って行動していたと思える行動が多々あった。4回目と5回目の行動に関しては、俺はどこまで神が自分達に干渉できるのか、そして神を欺くにはどうしたらいいのか探っていたと思われる行動があったからだ。
そして五回目の俺に関していえば、神にばれないように6回目のループの俺に『創造主の宝珠』の存在と、『深淵の迷宮』で創造神の領域にアクセス出来ることを示唆して、のちの俺に託していた。
巧妙に、俺でなければその答えにたどり着けないような証拠を残して、五回目のループを終えていたのである。
だから、6回目に賭けにでた。
深淵の迷宮から『創造主の宝珠』を利用し、創造神の領域に踏み込み、膨大なデータを解析し、世界の理を、世界の真実を知った。
そして知った真実は――神の裏切りより残酷なものだった。
この世界は――これより先が存在しない。
レイゼルが巻き戻さなければ、この世界そのものが消滅してしまう世界。創造神に失敗だと捨てられたデータの中の一つ。正規採用されなかった不要なデータ。
それがこの世界だったのだ。
創造主は特殊な力の持ち主だった。
創造したものが知らずに実現してしまい、無数の世界を作り出してしまう。しかしその神自体は、自らにそんな力があることも知らずに、ただ物語を綴っているだけのクリエイター。
そんなクリエイターの作り出した、数多くある没データの一つ。
それがこの世界だったのだ。
それを知った俺は、ただ絶望し、打ちひしがれ、どうしたらいいかわからなくなった。
もういっそ、神に魂をもてあそばれて死ぬ未来がまっているこの世界事消してしまおうかと、迷った時、膨大に眠る創造神の世界の人間のデータが目についた。創造神がシナリオを担当したVRMMOをプレイしたいた者達の残留思念。
俺はそれに目を付けた。創造神と同じ世界の人間なら、自分には見いだせない活路を見つけてくれるのではないかと。
そして創造神と同じような職につくものの記憶を参考にした。
その者の記憶を読み込み見出した新たな可能性。
破棄されたデータの先を破棄されていない未来のデータをコピーしてそれに結び付ければまだ未来を続ける方法を見出したのだ。
けれどそれには力が必要だった。それこそ神をも捧げるレベルの莫大な魂の力が。
そこで……俺は7回目にかけることにした。
6回目をそのまま続行したのでは、俺が創造神の領域から出た途端、神は確実に自分の身体を乗っ取る。
だが神の器の俺には逆らう術がない。6回目のループの時点では、神の権限を書き換えるほどの迷宮の権限がなかったからだ。だからこの時間軸では創造神の領域から出ることは叶わない。ネロスがいまかいまかと、こちらが創造神の領域を出るのを見張っている状態なため、出た途端乗っ取られてしまう。
だから創造神の領域でトラップを仕掛け、7回目にかけ、全てを用意したうえで自らの魂をすり減らし、6回目はループのトリガーである封印を待たずに強制ループさせた。
俺は異世界人の記憶を読み込み異世界人になり自らの記憶をけした。レイゼルをのっとった異世界人となりきったのだ。もう一人の俺は完全に記憶を消し、何も知らないエルフの大賢者となった。
それもすべて、神ネロスに俺の身体本体を乗っ取らせ、俺を通じて神の力を変換し、深淵の迷宮に喰わせるために、全て計算してやった事。俺の思惑が誘導されていたのも、もう一人の俺がわざとチートの力を使い、ネロスにヒントを与えていたのも、すべてこの時、この瞬間のため。
思惑誘導などを施し、全て裏で手を引いていたのは6回目のループの俺自身だった。
「……つまり、神ネロスを騙して迷宮の餌にするために、7回目は自分自身も記憶をなくして、神ネロスに気づかれないようにいままで行動していたと?」
俺の説明を聞いたキルディスが、シャルロッテの後ろに隠れながらおそるおそる聞いてくる。
「おう、そういうことだ」
と、ウィンドウをいじりながら言う俺。ネロスの方はもう一人の俺にぼこぼこにやられ、すでに養分として深淵の迷宮に吸収させていただいた。
ほぼ魂で半英霊化した神の魂でつくられたもう一人の俺は、俺の隣で一緒にデータを打ち込んでいる。
「流石大賢者様といいますかマスターといいましょうかなんといいましょうか」
アレキアが呆れた顔をして、ため息をつく。
「だから言ったじゃろう!頭のいい大賢者に任せておけばいいと!」
胸をはっていうジャルガ。
「では、これで未来は続くし、巻き戻らなくていいのですね」
シャルロッテがほっと息をはいた。
「ああ、そうだ。これで全部終わりだ」
俺がデータを打ち終わって、もう一人の俺と目を合わせた。もう一人の俺も無言でうなずいた。
「流石大賢者様です!」
アレキアが嬉しそうに言ったその瞬間。
「……駄目」
今まで黙っていた、カルナが急に言葉を発した。
「……え?」
一斉にカルナに皆の視線が集まる。
『どうやら気づかれたようですよ。どうしますか?』
もう一人の俺が、心の中で話しかけてきた。そう、カルナは俺たちの打ち込んだ文字を見て気づいたのだろう。
「マスター、とエルフの大賢者。神ネロスの魂だけじゃない。未来を繋ぐために自分たちの魂も使うつもり」
カルナが顔をあげて、俺を睨んだ。
「よくわかったな。さすがカルナ。凄いぞ」
俺が笑って言ってやるが、カルナはぼろぼろ涙を流した。
「ダメ!!!そんなの違う!!魂が必要なら悪い奴の魂使えばいい!!何もマスターとエルフの大賢者の魂使う必要ない!!!」
大声で叫ぶカルナ。
「魂を使うってどういうことですか!? マスターは世界のために命を投げ出すなんてそんな殊勝な人間じゃな……」
俺とカルナを交互に見て、キルディスが息を呑む。
「悪いな。もう決めたことなんだ」
俺が言うと、キルディスが、「本気ですか?」と一歩前に進みでた。
「自分勝手で、気分屋で、サイコパスで、効率厨で、その時の感情だけで動いて、負けず嫌いで、自分の理になることしかしない貴方が、そんなバカげた選択をするはずないでしょう!? 目的のためなら平気で相手を貶める貴方が、なんでここにきて聖人君子になってるんですか!!! 魂が必要なら、グーンでもなんでも使えばいい、何も貴方が犠牲になることなんてないっ!!!」
キルディスが酷い事を言いながら、俺に近寄ろうとして、俺とみんなの間に見えない壁があることに気づいて、足を止め、視えない壁に手を添えた。
「……嘘、嘘ですよね?」
キルディスが信じられないといった顔で俺を見て、カルナに振り返り、カルナがぐっと息を呑みこんだ。
「そんなの認めないのじゃ!! 他にやりようはいくらでもあるじゃろう!?なぜここにきてそんな愚行を選ぶのじゃ!!!!」
ジャルガが見えない壁を必死に叩きはじめる。
「そうです!大賢者様とマスターなら他の方法をいくらでも思いつくでしょう!?」
アレキアもがんがんと壁を叩き始めた。
「そんな横暴みとめません!!!!」
シャルロッテも壁に全力で盾をぶつけてくる。
『ずいぶん慕われていますね。貴方だけ残るという選択肢もあるのですよ』
もう一人の俺――大賢者が、俺に視線を移した。
「アホいうな100%成功させるには俺の魂の力もなきゃ足りない。グーンや他の魂だといくら捧げても質量不足になる可能性がある。お前だっていまからならまだ変更可能だぞ」
俺が言うと、もう一人のエルフの大賢者が笑う。ふざけたことを言うなという感じの笑みに俺はため息をついた。
「ま、決めたら、意見を変えないのは俺もお前も一緒だな」
そう言って、俺は目の前に最後の仕上げとなるウィンドウを出す。
「悪いな、みんな。屑でアホで、気分屋だったが……やっぱり俺、世界の調停人、光の選定人、エルフの大賢者なんだ。例えそれが私利私欲の神から与えられた使命だったとしても、俺はこの仕事を引き受けた以上、最後まで誇りをもち、最後まで成し遂げたい」
俺の言葉に皆泣きながら壁を叩いている。
変なプライドなのはわかっている。神に仮初に与えられた仕事など放りだせばいいとも思ったことがある。
――だが、一度引き受けた仕事だ。
世界の調停人として、エルフの大賢者として与えられた最後の仕事として、この世界の存続を自らの手で成し遂げたい。
「いままで付き合ってくれて、ありがとうな」
俺の言葉に、皆何かを必死に叫んでいたけれど、ボタンを押した途端意識が遠のく。
『エルフの大賢者のあなたと融合できたことを誇りに思いますよ』
薄れゆく意識の中でもう一人の俺が言う。
「お前は俺で、正真正銘エルフの大賢者だろ?自画自賛かよ」
俺が言うと、エルフの大賢者は嬉しそうに笑う。
最初は、神の器としてなじませるために無理やり身体にいれられた神の魂の欠片。それがもう一人の俺の正体。いつしか自我をもたなかった魂は融合に近い形になり、俺の一部になり俺だった。俺が異世界の人間の人格を取り入れ性格すらかわった今となっては、むしろオリジナルの大賢者は、もう一人の俺の方だとさえいえる。
「お前がいたからこそ、こうやって、世界が救えた。ありがとうな相棒」
そう、これでこの世界に未来が生まれた――。
遮断されて先がなく、無の世界だったこの世界が存続できることになった。
創造神が生み出したずっと続く世界へと結んだ世界。
そしてそこはもうコピーでしかなく、すでに創造神の手の及ばない、自ら切り開かなくてはいけない世界線。あとはそこに生きている者達が歴史を刻む。
神ネロスも滅んだことだし、あとは何とかなるだろう。
たとえその先が滅びだったとしても、繁栄だっとしても、どちらでもいい。
そう――未来がちゃんと存在しそこに生きる者達が選んでいける。
その先にある未来はどんな道だったとしても神の干渉なく、人類が選び取った道なのだから。
俺が笑うとエルフの大賢者もふっと笑う。
『貴方は私なのでしょう?自画自賛ですか?』
嬉しそうに手を伸ばす大賢者、俺もその手をとった。
「ああ、決まってる!俺はいつだって自分が一番だからな!!自画自賛だ!!!!!」
それが俺が意識を保っていられた最後だった。
★★★
びーっ!!!!!
『マスター』と大賢者が光に包まれて消えた後、妙な音をたてて、何かメーターのようなものが表示され、3%と表示された。
視えない壁も消え、慌ててキルディス達が『マスター』のいた場所に駆け寄るがそこにはもうマスターの姿はない。
がんっ!!!!
硬質化した岩肌をキルディスが思いっきり両手で叩きつける。
「あり得ないでしょう!!なんで最後の最後で、らしくない聖人君子してるんですか!!!最後までクズはクズで貫けばいいのにっ!!! サイコパスの効率厨が最後でいい子ちゃんにならないでくださいよっ!!!
なんで、なんでっ……ついて来いっていったじゃないですか、……こんな形で、おいて行かないでください……」
キルディスは泣きながら地面にうずくまる。
「キルディスさん……」
アレキアが蹲ったキルディスの肩に手を置いた。
「何とかできぬのかカルナ!? マスターたちを救う方法は!?」
ジャルガが問い詰め、カルナは表示された3%の数字と見る。
「まだ100%になってない。最初は先に捧げた光神ネロスの魂をパワーに変換してる。マスターとエルフの大賢者が変換される前に別のものを捧げればいけるかもしれない」
「本当ですか!?」
「やってみる」
カルナがウィンドウをだすが、そのウィンドウもエラーがでて、干渉できないようにされている。おそらくエルフの大賢者が先手をうっているのだろう。
「……そんな、干渉すら出来ない。嘘、やだ、このままじゃマスター死んじゃう。
カルナやだ、マスター死ぬのやだ、またマスター変わるのヤダ、ずっといまのマスターがいいっ!!」
カルナが、涙ながらにウィンドウを何度もたたく。
「どうしよう、カルナ何もできない、マスター死んじゃうのに、何もできないっ!!」
「カルナちゃん」
自分の髪の毛をかきむしり、狼狽するカルナを慌てて、アレキアが抱きしめると、「カルナ、いい子になるから、帰ってきてっ、いい子になるからっ」と、カルナもそのまま大声で泣き始めた。しばらくカルナの鳴き声が響き渡り、どうしていいのかわからず、英霊達も押し黙る。
『まだ――二人を救う方法はある』
静寂を破って、別の所から聞こえてきた懐かしい声に、皆そちらに視線を移すと、そこに立っていたのは第八皇子、レイゼルだった。
「……マスター?」
キルディスが呼んでみるが、レイゼルは首を横に振る。
「もしかして……私の弟の方のレイゼルでしょうか?」
シャルロッテが立っているレイゼルに問うとレイゼルは頷いた。
そう立っていたのは――道ずれにしないようにと、魂が切り離されて、おいていかれたもう一人。本当の第八皇子、レイゼルだった。
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