第40話 救済
ががががががががが
【聖光のゴーレム】が放った一撃が、聖教王国の一部を綺麗に消滅させた。
逃げ惑う人々も、建物も、抵抗する兵士も関係なく無慈悲に存在すら消していく。
「たすけて!!聖女さま!!」「おお神よ!!」「神官達は何をしている!!」
あちこちで怒号が飛び交う中、聖女は大神殿の中央の一番見晴らしのいい場所で、うっとりと逃げ惑う人々の光景を見ていた。
その横では無慈悲なゴーレムのビームの発射が続いている。
「みなさん、悲しがる事はありません、皆さんは本当に救われるのです!!
ああ、いますべての不浄が浄化されてすばらしい……」
聖女は手を広げにっこり笑う。
光神ネロスより降りた神託。それはとても素晴らしい物だった。
これより先、本格的な浄化がはじまり、不浄は全て取り払われ、世界は新しくなるのだ。その前の死など、儀式にすぎない。この死を乗り越えた先には――理想の未来が待っている。
争いも、憎しみも、飢えも、悲しみもない、皆が幸福な世界。
創造神が作り出した不条理な食物連鎖という鎖を断ち切って、弱肉強食もない皆平等な世界を光神ネロスが新たに誕生させる。
いまこの死は幸せになるための試練にしかすぎない。
ゴーレムは攻めてきたはずの、帝国兵さえも城壁内からビームで一瞬で駆逐していく。一瞬で消滅していく帝国兵士達。
「素晴らしいっ!! 素晴らしいですわ!! 全てに浄化を!!!」
聖女が手を掲げた途端。
がしんっ!!!!
聖女の頭上で、帝国の皇帝の剣とティアラ教大神官の錫杖が交差した。
ふとそちらを見て見ると、ボロボロになった帝国皇帝が聖女に切りかかってきたらしいのだ。どうやら単騎で教会にまで乗り込んできたようだ。
「あら、皇帝。こんなところまで来るなんて」
聖女はにやりと、神官達の攻撃で頭半分を失ってもハァハァ言いながら剣を持って襲い掛かってくる皇帝に笑いかけた。
「可哀想に。闇の紋章の力かしら」
皇帝は涙と鼻水を流しながら「あはははは」とただ剣をふるうだけの人形と化している。大神官が、皇帝の斬撃を全て振り払っているが、その剣技は衰えておらず、どうやら意志だけは残してあるらしい。
「可哀想な迷える子羊ちゃん。私が浄化してあげましょう」
聖女はそう言って、魔法を唱えだした。
そして皇帝に魔法を放つが、皇帝の身体は一瞬灰になり、すぐまた復元してしまう。
「あらあら、闇の紋章って残酷なのね。助けてあげたいけれど、さすがにその状態では私では救済することができない。だって肉体の復元率の方がすごいのですもの。私で殺すことは無理だわ」
聖女は手に錫杖を召喚した。
奇声をあげながら、襲い掛かってくる皇帝を大神官がいなし、その後ろで聖女の魔法が完成する。
「【聖光のゴーレム】に浄化していただきなさい♡ その復元力だと浄化できるかわかりませんが♡」
その言葉とともに、皇帝の身体に何か巻き付いた途端……【聖光のゴーレム】のビーム発射口に皇帝の身体は転移して、そのまま縛り付けられるのだった。
★★★
何故こうなったのだ――!!
皇帝は心の中で悲鳴をあげた。
ゴーレムのビームに焼かれては、身体が復元して再び焼かれ、そのたびに痛みが累積していく、痛みと恐怖に皇帝は絶叫をあげた。
こんなはずではなかった。
確かに不死は望んだが、こんな形の不死など望んでいない。
ただただ、痛みが蓄積し、自らの意思は関係なくレイゼルの操り人形になって、意志とは関係なくただ戦い続けなくてはいけない。
ゴーレムがビームが放たれるたびに身体が散り散りになり、束縛していた聖女の束縛がなくなったのにも関わらず、ゴーレムのビームの発射口で復元して破壊され、破壊されるを繰り返される。
一体この痛みと恐怖はいつ終わるのだ?
せめて自我を失えれば幸せなのに、脳が吹き飛んでも自我が失われはしない。
「おのれぇぇぇぇぇ!!レイゼルぅぅぅぅ!!」
ビームがやんだその間に叫ぶが、その声も次にゴーレムに放たれた一撃でかき消された。
★★★
「死ねない身体なのを知っていて、ビームの発射口に束縛して延々と攻撃喰らうようにするとか、やることがえげつないな」
俺がゴーレムの光線にあたらないようにバリアをはり遠くから、聖女と皇帝のやり取りを見ていると、隣にいたキルディスがドン引きしながら
「マスターといい勝負じゃないですか。にしてもあのゴーレムやばいですね」
光線を放ちながら一瞬で全てを灰にしているゴーレムを見ながら言う。
「かなりの迷宮の魂を魔王に送り込んだ。もう大体ここら辺一体の生命の魂の回収完了」
カルナも俺の隣をぷかぷか浮かびながら言う。
「このまま魂を捧げるなら進軍するゴーレムについていけばいいだけだが……」
俺はそう言いながら望遠鏡で、聖女を見ていると、聖女がにこりと笑う。
明らかにこちら目線だ。
どうやらこちらに気づいたらしい。
「その前に一戦しなきゃならなそうだ。面倒だあいつらも殺しておく。キルディスとカルナは隠れてろ」
俺が二人に指示した途端。
「その必要はありませんわ」
そう答えたのは、遠くにいたはずの聖女だった。
なぜか俺たちの前に一瞬でワープしてきたのだ。
……へぇ。
もう隠す気もないってことか。
「わざわざ聖女様がお出迎えしてくれるとはおそれいるな」
俺は満面の笑みで出迎える。
「貴方が噂の第八皇子様かしら?」
にっこにこしながら話しかけてくる聖女。
「ああ、そうだ。どうせこの国は亡びるんだろうが、個人的にあんたらが気に喰わないんで殺しに来た」
俺が言うと、聖女がくすくす笑う。
「死は我々にとって救いであって、恐れはありません。けれど愛した民たちの救済を最後まで見守ることもせず死ぬ気はありません。救済の様子を見届けないと」
「救済? 人を殺す事が救済か」
俺の質問に聖女はにっこり笑う。
「貴方だって同じではありませんか。殺して人間の魂と迷宮の魂を入れ替えている。それを神ネロスが気づかないとお思いですか?」
聖女がにこりと笑い、その言葉にカルナとキルディスが一斉に構える。
「へぇ、ヤッパリお見通しだったわけか」
「神ネロスは何もかも見通しています。貴方が人間の魂と迷宮の魂を入れ替えて【救済の天使】様を破壊しようとしていることも。貴方が神に【創造主の宝珠】の力で逆らおうとしていることも」
そう言ってにんまぁーと笑う聖女。
『どうします、マスター!?我らの行動が筒抜けでした!?』
『撤退したほうがいい、この女嫌な気を感じる』
心の中に話しかけてくるキルディスとカルナを俺は手をあげて制す。
『慌てるな、それも計算の内だ』
そして俺は二人に視線を向けて『お前達にとって、俺は何だ?』問う。
『底意地の悪いペテン師』
『負けず嫌いの詐欺師』
と、返してくる。この状況下においても容赦ねーなこいつら。
『その通りだ、いいか、二人とも、俺は底意地の悪い詐欺師だ。この先何があっても俺を信じろ。いつだって最後に笑うのはこの俺だ』
心の中で二人に言って、俺は聖女に底意地の悪い笑みを浮かべた。
「なんのことだ?」
俺が聖女に問うと、聖女はにっこり笑い、何か球体のようなものを取り出した。
そしてそこに映るのは、アレキアたちの姿だった。
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