第12話 マスター酷い

 なんでこんな事になった。


 薄暗い牢獄の中。ネズミが徘徊するような不衛生なそこで第三皇子は膝をかかえてうずくまっていた。レイゼルをはめるはずが、反対にはめられていたのは自分だった。

 

 母も毒の入手先として牢にいれられ、毒の入手に関わった貴族たちも捕まった。


 もう第三皇子を守るものは誰もいない。


 皇位継承者争いから完全脱落した皇子の末路など誰だって想像がつく。


 死あるのみだ。


(レイゼル、あいつのせいだ。あいつが俺を侮辱したりしなければ、俺に罪をきせたりしなければ!!!!)


がんっがんっがんっと、血がにじむまで床を手で叩く。


「憎いですか?」


 心の中で毒づいていると空間がくたりと揺れ急に目の前に黒髪の端正な顔立ちの男が現れる。


「――貴様は」


「見ればわかるでしょう?私は魔族です。貴方にチャンスを差し上げにきました」


 そう言って目の前の魔族を名乗る男は宙にぷかぷか浮かびながら嬉しそうに笑う。

 そして第三皇子の目のまえに一冊の古びた本を差し出した。


「これはなんだ!?」


「魔族を封じた古文書です。その古文書の表紙に血を注ぎ「シャーテールファーマ」と唱えて封印を解けば、貴方の望む相手を殺してくれるでしょう」


 そう言いながら美形な魔族は妖艶にふふっと笑う。


「何故そのようなものをこの私に!」


「皇族だからですよ。この本の封印は皇族の血でなければ解けません。またその魔族を封印を解いたあとは、魔族はあなたの望む者を契約として殺すでしょう。ですが殺したあとは自由です。本から解放されたあとの魔族は何をしても許される。私達魔族としては、戦力が増えて喜ばしい限りです」


 そう言って肩をすくめた。


「俺を助けろというのは無理なのか!?」


「我々の存在意義上むりですね。その本の契約は呪った相手を殺す。それのみです。

 まぁ、私はあなたがそれを使わなくても何らかまいません。面白そうだから差し上げただけですので」


 魔族はぽんっと第三皇子の肩に手をおいて、かがむとにっこりと笑う。


「このまま何もしないまま、惨たらしく市中を引き回されて断頭台で見世物になりながら死ぬか、憎き相手に一矢報いて死ぬか。好きな方を選びなさい」


 魔族の笑みはどこまでも妖艶でそして残酷だった。


(このまま無駄に死ぬくらいなら、お前も道ずれにしてやる。レイゼル)


 第三皇子は手直にあったフォークで手首を切ると、そのまま本の表紙に血を注ぎこむのだった。



 ★★★



「マスター惨い。人間じゃない。酷い」


 カルナに魂を喰われた魔族と、魔族に魂を取られて死体になった第三皇子を前にカルナが薄目で突っ込んだ。

 そう、俺はキルディスを使って死刑宣告をうけた第三皇子をそそのかした。そして帝国の古書に巣くう本の中の魔族を第三皇子の手で復活させたのである。あの本はゲーム中でも登場する、『究明の書』。あらゆる神秘が記された書ということで、皆必死に読み込もうとするのだが、内容を解明しようと読み込むほど、精神が狂っていくといういわくつきの書だ。

 何故精神が狂っていくのか。それは簡単な事、本に魔族が封じられていたからだ。

 この書に皇族の血を注ぐと血の持ち主の魂と引き換えに魔族が復活し、憎き相手を殺してくれるというアイテムだ。ゲーム中のシナリオモードででてきたので覚えていた。

 ちなみに使ったもの魂は永遠に業火で焼かれ、永遠に苦しむことになるらしい。

 第三皇子はいまごろ魔族に魂をささげたと冥府で焼かれている事だろう。

 そして本の魔族は本から復活してる途中の無防備な状態で、カルナに喰わせ、俺の迷宮の養分になっていただいた。美味しくいただいたのである。


 てらたたたーん!!


 と、軽快な音をたてて、ウィンドウが浮かび上がり、深淵の迷宮のレベルがあがったと表示された。


 LV0→LV10へとレベルアップが表示される。


「一匹で迷宮レベルこれだけあがる。あれかなり高位な魔族」


 カルナが言うので俺は笑って頷いた。


「そりゃゲームのストーリー中でもでてきたエピソードの魔族だったしな。ゲーム中でも高位魔族で倒すのに苦労した」


 ゲームで倒したのを懐かしむ俺。


「復活の希望をあたえておいて、復活前の不完全な状態のまま迷宮の餌にするなんて人間じゃない」


 ドン引きするキルディス。


「まかせろ、俺は人間の屑として定評がある!というわけで迷宮のレベルがあがったぞ!やれることを説明してもらおう!?」


 悦び勇んで、ダンジョンの権限画面をだす俺。その姿に、


「罪悪感すらないぃぃぃ!!こわいぃぃぃぃぃ!!」

「私、知ってる、人間の言葉で言う。これサイコパス」


 キルディスとカルナが同時にドン引きするのだった。


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