少年漫画家ちゃんと少女漫画家くん

ねむるこ

第1話 戦闘開始 or 運命の出会い

「おい」


 低い声に呼び止められた小柄な少女、青空未来あおぞらみらいは足を止めた。振り返ってその人物を見ると、思わず身構えた。


(何、こいつ。デカっ)


 未来は冷や汗をかく。

 相手は未来の頭2つ分ぐらい高い男だった。高身長に加えて、がっしりとした体つきをしていた。未来は瞬時に相手の戦闘能力とキャラクターを分析する。

 初対面の人物をキャラクター分析してしまうのは未来の癖だった。


(柔道でもやってそうな体型だな……。私なんて片手でぶん投げられそう。

大体こういう巨人きょじんキャラって無口で温厚、あるいは悪役キャラの下についてる雑魚ざこキャラなんだよなー。……ん?よく見たらあのモッズグリーンの制服ってうちの学校のだ……。てか、同じ高校生か!見えねーっ)


 

 失礼なことまで考えたせいか、男子生徒の威圧感が凄い。未来は負けじと胸を張る。


(何だ……。喧嘩でもするつもりか?やんのか?)


 未来は自然とファイティングポーズをとる。その姿を見た男子生徒は視線を逸らすと何かを手渡す。手で口元を押さえ、何かに耐えているようだった。


「……これ、落とした」


 短い言葉で告げた。未来は男子生徒の手元に視線を落とす。


「あ」


 それは未来のハンドタオルだった。しかも流行りの少年漫画、『閃刃せんが』がデザインされたものだ。可愛らしい色合いとは裏腹に、刀のデザインがプリントされている。一番くじを引いて当てた、思い入れの品である。


「ありがとう……ございます」


 悪人面の男からハンドタオルを受け取ると停止したままの男子生徒をいぶかに見上げた。


(油断させて後ろから不意打ちとかないよな……。うん、気を付けて進もう)


 ちらちらと背後を確認しながら先へ進んだ。





 一方、動きを止めていた男子生徒、時野旅人ときのたびとは感極まっていた。その姿に道を通り過ぎようとしたサラリーマンが恐怖の色に染まる。

 ゆっくりと旅人の視界に入らないように、小走りで通り過ぎた。


「かわいいが……過ぎる」


 旅人が手で口元を押さえていたのは、にやけ顔を見られないため。威圧感たっぷりの雰囲気は、未来に会えたのが嬉しすぎたせいだった。


(それにしても……朝、落としたハンカチを拾うとか……。俺が描いてる少女漫画の展開みたいだった!)


 旅人は先ほどの未来とのやり取りにテンションが上がっていた。他の人には難しい顔をした怖い顔の少年にしか見えず、とても嬉しそうには見えない。

 通り過ぎた小学生達が今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。


(見たか?あの、上目遣い。写真撮って漫画に使いたいぐらいの可愛さだった。小さくて小動物みたいだし。よく分からないポーズも可愛かったな。最後までこっちを確認してた……)


 未来が旅人が怖くて振り返っていたのはどうやら伝わっていないらしい。


(少女漫画のモデルにぴったりだな……。できればもっと仲良く……じゃなくて取材させてもらいたい。漫画を描く者同士、交流できるはずだ!)


 旅人が握りこぶしを作る。

 その姿は恋する男の子とは程遠い、決戦を前にした戦士のようだった。

 




 






 

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