ホームレス少女
@Rewrite3104
プロローグ
ある日の寒空の下、僕は息を切らしながら一心不乱に走っていた。
「やばい! 打ち上げに間に合わない!」
そう、今日で大学一年目の講義が終わり、この後仲のよかった友達と打ち上げをする予定なのだ。
待ち合わせの時間が三時、そして今は二時五十五分、ここから待ち合わせの場所まで三十分、どう頑張ったって間に合わない。
少しでも近道をするためにいくつもの脇道に入ったが、二、三分の短縮にしかならず、ただいたずらに時間が過ぎた。
そして何個目かわからない脇道に入ると、僕は何かに躓いて転んだ。
何に躓いたのか確認するため後ろを振り返ると、そこには少女が座り込んでいた。
きれいな黒の長髪で、座っているからしっかりとはわからないが手足もすらっとしているように見える。
顔は伏せているから全然見えないけど、きっときれいに整った端正な顔立ちをしているのだろう。
着る物を着たらどこかのお姫様にだって見えそうだ。
でも、僕はそんなことより少女の格好に驚いていた。
なぜなら、東京の寒空の下、長袖長ズボンしか着用しておらず、手袋もマフラーも身に着けていない、唯一着ている長袖長ズボンも何日も着替えていないかのように薄汚れていたからだ。
僕は少女の格好に少し戸惑ってしまったが、すぐに我に返り謝罪をした。
「あの、すいません。躓いてしまって。それよりもどうかしましたか? こんな寒い中そんな格好で……」
失礼だとは思ったが、やっぱり心配になって事情を尋ねてしまった。
昔から僕は心配性で、誰かが困ってるとほっとけない性格だった。その度合いは病気レベルで誰であろうと心配してしまうレベル。
友達にもよく「お助けマン」なんてからかわれたりもする。
「あっ! 大丈夫です。こちらこそすいません。あと……この格好については気にしないでください。私は大丈夫ですので……」
とても大丈夫そうには見えなかった。
寒そうに体を震わせ、寒さをじっと耐えるように自分の体を抱いているのだ。
それに今は三月、少しずつ春に向かって温まってきているとはいえ、平気なはずがない。
僕は自分の着ていたパーカーやマフラーなどの防寒着を一式脱いで少女に渡してあげた。
「よかったら……これどうぞ」
「いえ……ほんと大丈夫ですから。これじゃああなたが凍えてしまいますよ」
「僕の家ここから近いんです。すぐ替えを取りに行けます。それに僕なんかより君のほうが寒いでしょ……?」
半ば強引にパーカーとマフラーを渡したら、少女は目に大粒の涙を浮かべて泣き出してしまった。
「えっ! ……僕なんかした!? えっと……ごめんね」
なにが何だかわからず、謝った。
僕の知らないうちに少女にひどいことをしていたのかもしれないし、なにかあったら謝るという僕の本能が勝手に口をあけていた。
「違うんです。こんなに人に優しくされたの……ひさしぶりだったから……」
少女は泣きながらそんな悲しいことを口にした。
確かに東京の人は人に冷たい。
知らない人にだったらなおさらだ。
誰かが困っていても自分には関係ないの一言で平気で見て見ぬふりをする。
僕が東京に来て初めて感じたのも都会の冷たさだった。
田舎から出て来たばかりの頃は、外に出るのが怖かったくらいだ。
この子を見ていると、あの頃の自分を見てるみたいで胸が痛んだ。
僕がそんなことを思っていると、少女のお腹から可愛らしい鳴き声が聞こえた。
きゅるる~
「はっ! えっと、あの、その、……すいません」
少女は恥ずかしそうにお腹の辺りを擦りながら、頬を赤らめて俯いてしまった。
僕はあまりに微笑ましい光景を前にして、つい頬が緩んだ。
ついさっきまで暗いことばかりを考えていたのに、そんなことはパッと頭から吹き飛んで、なんだか楽しくなってきてしまった。
「すぐそこの喫茶店に行こうか。もちろん僕のおごりで!」
「そ……そんな! 悪いですよ! 私なら大丈……」
きゅるる~
「ほら、いこ!」
僕は少女に手を差し伸べる。
「は……はい。……すいません……ご馳走になります」
少女は僕の手を取り、恥ずかしそうにつぶやいた。
こうして僕と少女の物語が始まった。
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