復讐屋
懋助零
1人目 前編
ここは復讐を望む方のみが訪れる事の出来る「復讐屋」
今日もドアがノックされます。
さて、どんなお客様がお越しになったのでしょうか
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は平凡な高校2年生、相原 奏音(あいはら かなで)。
テストの点も平均、運動能力も平均、身長体重も平均な、面白みのない私でも、意外に楽しい学校生活を送れてる。
「おーい!かなでー!」
後ろから声がしたから振り返ってみると、そこには幼なじみの大川 優奈(おおかわ ゆうな)が走ってこっちに向かってきていた。
「ハアッ…ハアッ…お、おはよーっ…」
「そんな走る事でもないのに…大丈夫?」
「うん!へーきへーきゲホッゲホ」
「ダメそうじゃん、無理しないでよ??」
優奈は小さな頃から体が弱くて、意外に真面目な性格のせいか無理をしすぎて体調を崩している姿を何度も見ているし、看病も何度もしたことがあるため、私はちょっと優奈の母親的な立場になってきつつある。
その時、優奈が前に転んだ。
躓いたのかと思って手を差し伸べた時、声がした
「…あ、大川さんおはようございます〜w
影薄すぎて、そこにいんのか分かりませんでしたわ。ごめんなさいねぇ」
優奈を押し倒したのはコイツだな、と思った。
こいつはクラスの女王でNo.1の腹黒いじめっ子、如月 万葉(きさらぎ まは)だ。
コイツは如月企業の社長の一人娘で、とんでもないお嬢様だ。そのせいでわがままに育ったわけもあってか、弱いものいじめをする弱者で、いつも優奈の事を見張って、いじめるタイミングを見計らっている気持ち悪い奴。私はコイツが本っ当に大嫌いだ。
「絶対気付くでしょ?馬鹿じゃないの」
私がこう言った瞬間、相手の顔がくもった。
「は?この私に口答えする訳?そもそもこの女に私の通学路を歩く権利なんてないの!!!!!」
「ここはアンタだけの道じゃない!!そんなに気に食わないならその有り余ってるお金でヘリコプターでも買って登校しなさいよ!!!!!」
「うっさいわね!とにかくどきなさい!この私の命令よ!?口答えしたらお父様に言いつけるんだから!!」
段々私もイラついてきて、朝早くの住宅街の中だと言うのに随分うるさく喧嘩をしてしまった。
「ちょっとアンタ達!?うるさいわよ、静かになさい!!!」
近くの家からおばさんが布団叩きを持って玄関から飛び出してきた。
「あ、ほんとに申し訳ないです、すみません」
私は素直に謝ったが、万葉は謝る気配もなかった。
「はぁ、私なんかがあんたみたいな庶民に謝るわけないでしょ?そもそもこいつらが悪いのよ」
私はまた出てくる怒りを深呼吸で沈めて、頭をペコペコ下げながら、優奈と万葉を引っ張って学校へ向かった。
「ごめんね、奏音。優奈がこんなにも弱いばっかりに…」と、小さな声でそっと私に謝ってきた優奈には、「優奈は何も悪くないよ」と伝えた。
代わりに、万葉には思いっきり睨み付けておいた。
朝から疲れきって学校に着いた私は、先生からの呼び出しを喰らった。
「おい!相原!如月!ちょっと生徒指導室に来い!!」
絶対さっきのあれでおばさんが学校に連絡したんだ…と思い、憂鬱な足取りで生徒指導室に向かう。
隣で歩いている万葉は、何故か目薬を持ってニヤニヤしていた。
「…なにニヤニヤしてんの、気持ち悪い」
「え?ニヤニヤしてないわよ、アンタこそ気持ち悪いわ、こっち見ないでくださる?あ、そうそう、私御手洗に行ってから向かうわ、先に行ってて?」
「あー、わかったけど早く来てよね」
何となくいやーな予感がしたけど、気のせいだと思って1人で生徒指導室に向かった。
ガチャ
「失礼します」
「おい、相原、如月はどうした?」
「なんかお手洗いに行ってから来るって言ってましたよ。」
先生はボソッと
「あいつはほんとに…」
と呟いていて、私は笑いそうになってしまった。
その時、すすり泣く声と一緒に生徒指導室のドアがガチャ、と開いた。
誰が泣いてるんだ?と思っていたら、そこに立っていたのは万葉だった。
「先生、私…なんの件で呼ばれたかはわかっていますの…ぐすん」
「お、なんだ知っているのか、そうだ、お前らが朝早いにも関わらず住宅街のど真ん中で大きな声で騒いでいたと、近所の方かられんらくがきた。どういうことだ、2人とも。」
「あ、それは…」
と私が言いかけた瞬間、万葉が割り込むようにして私の声に被せて話を始めだした。
「朝、私が1人で登校しているところに、相原さんがぶつかってきたんですの。そしたらこう言ったのです。"邪魔、そのありあまったお金でヘリコプターでも買って投稿すれば?w"と仰ったんです…ぐす」
「え、違う!違います!誤解です!でもいや、ちょっとあってる所もあるけど。違います!」
万葉があまりにもわざとらしく泣きながら嘘の話をし続けているにもかかわらず、先生は熱心に万葉の話をうんうんと聞いている様にも腹が立ってしまった。
「私は何もしていないのに、悪口を聞かされた事に腹が立ち、少しばかり言い返してしまったのです。でもその言葉のどれも、チクチク言葉ではありませんわ。私、汚い言葉は使わない主義ですので。」
わざとチクチク言葉とかいう可愛い言葉使いやがって、どこまでも腹が立つ。と思っていたその時、
「これが証拠ですわ。」
と言いながら、万葉はポケットからボイスレコーダーを取り出して、見事に私だけが怒鳴っているところだけを切り取って先生に聞かせて見せていた。
「…おい、これはホントなのか、相原。」
「ち、違います!余りにも卑劣だよ、万葉!!!!!私だけが怒鳴ったみたいじゃない!??そもそも、貴方が先にわざと優奈にぶつかったんでしょ!?事実と余りにもかけ離れたことを話してる!おかしい!」
「酷い…私はありのままを話しているだけですのに…あぁ、なんと哀れな私………先生、もちろん私を信じてくださいますよね?」
「先生!私がホントのことを言っています!なんならそのご近所さんも優奈も呼んでください!真実が分かります!!」
私は精一杯本当のことを伝えようと努力をした。が、先生は如月家の権力には逆らえないのか、こういった。
「俺も2人を信じたい。だが、既に証拠を持っている如月を信じるしかないんだ。それに、この学校はもう問題を起こしすぎていて、この市の教育委員会からもあまり信用されていない。大事にしたくないんだ。」
……何それ、そんなの、生徒を信用しない理由にはならないと、私は今まで我慢していた不満が爆発してしまった
「へぇ、そうですか!!先生はお偉いさんからの信用を得るために生徒の主張は無視して何事も無かったかのように隠蔽するんですか、へぇ!!なら私はもうここに要らないですね、さようなら!」
バンッ
思いっきり怒鳴って生徒指導室を飛び出してきてしまった。
自己嫌悪に陥っているその時、私の彼氏田中 涼太(たなかりょうた)が声をかけてきた。
「おい、どうしたんだよ、そんなに怒って」
「あ、あぁ涼太か。いやぁそれがさ〜かくかくしかじかで〜」
と、これまでの経緯を教室に向かうまでペラペラと話していた。
「うわ、最悪だな如月。あいつちょっとどころかだいぶ調子乗ってるよな、家柄がなんだよったく」
涼太は私の言うことを信じて、私の言うことに同意してくれる、素直で優しい人だ。私は涼太のそんなところに惚れた。
「ありがと、聞いてくれてちょっとスッキリしたよ。じゃ、またね」
「おう、またな」
涼太と話して少し気持ちが楽になった私は、さっきよりかは軽い足取りで教室に入った。
教室に入った瞬間、人に囲まれた。
「ねぇ、呼び出しどうだった?怖い?w」
「俺絶対呼び出しくらいたくねぇwwww」
今は話す気力もないのに……こういう時だけ注目されるから、時を考えろと思ってしまう。
「いやぁ、疲れますよ。しかも万葉が嘘ばっかり言うもんだから、私ワンチャン退学かもねww」
と、冗談交じりにみんなに話した。
「えー、奏音退学は私嫌なんだけどおwww」
「んじゃあ着いてきてよ〜ww」
みんなと話せば万葉に対するムカつきも薄れてきた……気がする。
みんなが段々バラけてきたその時、横からひょこっと優奈が顔を覗いてきた。
「奏音……大丈夫だった?ほんとにごめんね、あと、さっきちょっと聞いちゃったんだけど、奏音が退学は私も絶対ヤダ!」
目をうるうるさせて上目遣いで訴えてくる優奈に、
私の母性が揺すぶられて、思いっきり優奈を抱きしめてしまった。
細くて私より背の低い優奈は、誰が見ても可愛い子だ。オマケに顔も芸能人並みに整っている。
「もーー!優奈の馬鹿〜!!!!!!!退学はしないからぁ〜!!!!!!!」
「ング……くるじい……」
復讐屋 懋助零 @momnsuke109
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