スキルがはずれだったので無敵の勇者になれました。

だぶんぐる

スキルがはずれでした。

『俺の明るい未来は決まってた。なんせ転生ガチャでSSR確定、超あたりスキル持ちとして生まれてきたんだから、世界を救うしかないだろ』


 初代勇者はそんな意味不明な事を言っていたらしい。


 意味不明な言葉でも、偉人が言えば名言になる。


『あたりスキルは世界を救う』


 そういう意味らしい。本当か?


 この世界にはスキルというものが存在する。

 生まれつき持っている才能の中でも具体的に奇跡が起こるものをスキルという。


 そして、才能にも色々ある。

 政治の才能、戦闘の才能、人たらしの才能、そして、盗みの才能や悪女の才能。

 良いものばかりではない。


 あたりはずれがあるのだ。


 そして、あたりを引いた者は社会で優遇され、はずれは冷遇。

 そんなもんだ。


 そして、俺は、はずれだった。


「ケムリよ! お前のスキルははずれじゃ!」


 それだけ言ってスキル鑑定士の爺さんは死んだ。


 そして、俺ははずれスキル、しかも、スキルそのものがなんなのかも分からない、という二重の意味ではずれなスキルを持っている、らしい。


 何かも分からないから、持っているかも分からない。


 大体、強く念じればスキルの奇跡が起きるのだが、俺の場合は何も起きない。


 さて、問題です。

 はずれスキルは冷遇されます。では、はずれスキルで、しかも、何かも全く分からないスキルを持つ者はどうなるでしょう。


 答えは簡単。


「ケムリ! お前みたいなのがいるからこの村はいつまでたっても貧しいままなんだよ! この疫病神が!」


 超冷遇だ。


 ちなみに、今の言葉が父親の言葉だ。

 息子にかける言葉か、普通。


 誰もが俺をゴミでも見るような目で見ていた。

 昔は違った。

 俺は村でも人から好かれ頼りにされていた。

 村長の娘に告白をされ皆からの祝福を受けながら仲睦まじい日々を過ごしていたし、村の平和を脅かす魔物を倒しては男たちから賞賛され、女たちからは熱い視線を送られていた。

 数年前の、年に一度のスキル鑑定士が来る日までは。


 十三になった俺は皆の期待を背負ってスキル鑑定を受けた。

 そして、はずれだと言われ、鑑定士が死んだ。


 次の年も十三の子達が鑑定してもらったあとに、せめてどんなスキルかだけでもと土下座して頼み込んだその瞬間に、鑑定士が死んだ。

 それ以来、俺は鑑定士の来る日には蔵に閉じ込められるようになった。


 閉鎖的な村だ。

 それ以降、不幸は全て俺のせいにされ続けた。


 素晴らしい人柄の領主様がこの村にだけは視察に来ないこと、度々狼達の襲撃に会うこと、村で雨が降ることが少なくなったこと、出かけようとしたら足をくじいたとか、今日の髪はまとまらないとか何もかもが俺のせいにされた。

 そして、俺が蔵へ閉じ込められる回数は日に日に増えていき、とうとう一週間、七日間ずっと蔵に閉じ込められた。

 その次の日、俺のはずれスキルは、究極のはずれに辿り着く。


 蔵の外の声がその日に限って聞こえてきた。


「やっぱりアイツは悪魔かなんかなんじゃねえか? 毒のスープを飲ませても死なないなんて……」


 村の人間は俺を殺すつもりだった。


 そもそも飲んで死ななかったわけじゃない。

 スープにまるまる入っていたボザンの実が固すぎて口が締まらなくなり、無理やり流しこもうとして咽てほとんどこぼしてしまったせいだ。

 今の話だと、毒の匂い消しにボザンを入れたんだろうけど、面倒でまるまるいれたのが俺にとっては不幸中の幸いだった。


「じゃあ、やっぱり……殴り殺すしかねえな」


 ……その時、俺の中で何かが壊れた。


 今までは、小さいながら希望があった。

 蔵に閉じ込められても出られた。

 飯抜きにされても餓死寸前には飯は出た。

 そう、はずれ続きでもいつかあたりがあるんじゃないかって思えた。


 ない。

 そんなものはない。


 死。

 それは生きる道を外れるということ。

 もう戻れないはずれ。


 俺は、そこまではずされてようやく気付いた。


 誰かがあたりを俺にくれることはない。


 ここを逃げ出す方法がないか必死に考えた。

 蔵には鍵がかかっており、恐らく次に開くのは俺を殺しに来たときだろ……う?


 鍵が外れていた。

 番のヤツがかけ忘れていたのだろうか。


 そして、番本人もいなかった。

 小便か何かで席を外しているのかもしれない。


 俺は今が最大の好機と蔵を抜け出した。


 やせ細った身体では力も入らない。

 けれど、その細く小さい身体を更に縮こまらせているせいか、村人の視界からは外れているようだ。

 誰も気づいた様子がない。


 もう少しで村を出れる。

 その時だった。


 視界の端に一人の女が見えた。

 ふんわりとした美しい栗色の髪の女。

 俺と恋人だった村長の娘。

 その女は、別の男と熱烈な口づけをかわしていた。

 男は、あの日まで俺を兄貴と慕い続けていた男だった。


 今日までの俺に対する態度からあの女にその気がなくなっていることは分かっていたが、それでも、現実に見てしまったものは俺の心を揺さぶり、嫉妬の炎を燃え上がらせ、俺の中の箍が外れた瞬間だった。


「メリル!」


 女は慌てて振り返り化け物でも見るような目でこちらを見て叫ぶ。


「ぎゃあああああ! ケムリが! アレが! 蔵から出てるわ!」


 そして、口づけを交わしていた男は、下ろしかけていたズボンを直し、こちらを睨みつけた。


「ケムリ! 散々村を不幸にしたお前が無責任に村を出ていくのか!?」


 無責任?

 不幸?

 俺の不幸は、俺の不幸だ。

 けれど、お前らの不幸まで負うつもりはない。


 俺ははずれのスキルなんだ。

 どうせはずれだ!

 村からも外れてやるだけだ!


 俺は声にならない声、ほとんどうめき声をあげながら、男に殴りかかろうと拳をあげた。

 けれど、俺の限界まで弱った身体はただ拳をあげるという動作だけで悲鳴をあげる。

 がごっという音と共に肩が外れる。


 情けない。

 幼くして魔物ともやりあった俺の身体はこんなになってしまって、恋人を寝取った男に拳の一つも喰らわせることも出来ないのか。


「は、ははははははは! どうした!!? まさか! 今の動きで肩が外れたのか!? そんなお前なんぞ俺一人で十分だ!」


 男が近づいてくる。

 今の俺の足では逃げられないだろう。


 と、その瞬間、男は前のめりに倒れる。

 どうやらさっき直したズボンのボタンが外れていたらしく、ズボンが落ち、足をとられてこけてしまったようだ。

 その上、股間を石にぶつけたようでうめき声をあげながら悶えている。


「よかったな、俺と違ってお前は大当たりだったようだ」


 そう呟くと、俺は男に背中を向けて走り始めた。


 あの姿を見れば十分だ。

 俺は、この村を出て自由になるんだ。

 大丈夫、きっとなんとかなる。


 後ろから叫び声が聞こえる。

 村の連中が集まってきたようだ。

 口々に俺を罵りながら石を投げてくる。


 俺は笑っていた。

 俺は、大丈夫。

 きっと、大丈夫だ。


 俺は、俺のはずれスキルがなんなのか理解し始めていた。


 だって、俺に向かって投げられたはずの石は全て、はずれていたのだから。





 数年後、俺ははずれ仕事を任されてとある場所に来ていた。


「我は、魔王シャデン。貴様が、勇者か」

「あ~、らしいよ。巷では『はずれ勇者』なんて呼ばれている、イズモだ。よろしくな、魔王」

「くっくっく……随分と余裕だな。はずれ勇者が。我は、確かに、今、永い眠りから覚めたばかり……だがしかし! 貴様とは天と地ほどの力の差があるのがわからぬか!? 己の無力さ、死をもって知るがいい!!!」


 魔王が、黒い魔力で大量の魔法で出来た剣を生み出す。


「万を超える数の黒い刃、貴様に防げるかなあ!」

「いや、無理」

「潔い、その点だけは感心だ。では、死ね」

「それも無理だな。だって」


 黒い刃は全て俺からそれで大地に食い込んでいく。


「全部『外れる』から」

「は?」


 魔王が信じられないものを見るかのようにこっちを見ている。

 まあ、そうだろうな。

 俺も本当に吃驚したよ、最初は。


 俺のスキルははずれスキルだった。

 『外れ』スキル。

 己の意思によって全てが外れるのだ。


 相手の攻撃が外れ、罠や鍵が外れ、相手の読みが外れる。

 はずれという超あたりスキルだったのだ。

 ただ、


「よし、じゃあ、今度はこっちから……って、あのー、離れてくれませんかね」

「無理。だって、イズモから離れたら魔王の攻撃当たる」

「そ、その通りです! だから、くっついているのは理に適っていると神も言っています!」


 仲間もかなりの外れ者だった。

 恐ろしいほどの魔力で忌み子と呼ばれ、獣人の国を追い出されたアカネ。

 教会の為に戦い続けたにもかかわらずその教会に魔女認定され迫害されたサファイア。

 とても強いのだが、アカネは俺の匂い、サファイアは俺の声で、箍が外れ、無茶苦茶迫ってくるヤバい道の外し方をしていらっしゃるのだ。


「あー、もう分かった。じゃあ、せめてじっとしててくれよ。アイツ一回ぶっとばすから」

「うんっ! はあはあ」

「かしこまりました! あふぅん」

「は?」


 そして、俺は、二人を抱えたまま、魔王の前に飛び出し蹴りを一発。

 その蹴りは魔王をぶっとばし、壁にめり込ませる。


「な、なんだこの人並外れた力は……って、まさか」

「そ。人並『外れた』力」

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な! こんな、これほどのヤツは、我を封印した初代の“必中”スキルの……!」

「さて、魔王。もう分かったろ。絶対に攻撃が外れ、人並外れた力を持つヤツに勝てるかどうか。あ、ちなみに、呪いも外れるらしいぜ。お前を信仰する魔族共が、魔王様を脅かす可能性のある者を殺す呪いってのをかけてたらしいけど、全部外れた。そのせいで、何人もの人が死んで俺が不幸のどん底に突き落とされたからある意味成功はしてたけどな」

「……もうよい。負けだ。好きにすればいい」


 魔王は、天を仰ぎ、腕をだらりと下ろす。


「ん。じゃあさ、俺と一緒に世界征服しようぜ」

「は?」


 俺は勇者になった。

 神に選ばれた勇者に。

 俺は、神に出会ったことがある。なんかワープゲートから外れちゃったときに、会った。

 そんで、選ばれた、神に。


 俺は村を出てから復讐を誓い、人の道から外れた生き方をした。

 人間の社会に逆らい、掟に従わず、生きた。


 そんな俺が神に選ばれたのだ。

 道を外れていたのは、この世界の人間だったのだ。


 俺の村はもうすでにない。

 俺が村の一員から外れてすぐに、素晴らしい人柄と噂の領主様が視察に来て村長の娘を筆頭に村の娘を手籠めにし男たちは山賊まがいの事をやらされるようになったらしい。領主は何故こんな美人の多い村が視察リストから外れていたか不思議に思っていたらしい。


 その後、狼達の襲撃がなくなった代わりにスタンピード、魔物の大量発生による襲撃に会ったらしい。元々魔物が定期的に大量発生しては村々を襲っていたのだが何故か俺の元居た村だけはルートから外れその分狼が餌を求めてやってきたんだろうとアカネが言っていた。


 そして、生き残った僅かな村人と廃墟のような村も大雨で全て流されてしまったそうだ。

 今まで外れていた有名な占い師の大雨の予言が当たって面目躍如したのだとサファイアが教えてくれた。


 そして、その魔物の大量発生や大災害は人間が引き起こしたものだと後に知る。



 外れている道を正道だと言い放つ人間からすれば、俺の方が異常で、道を外れた者なのかもしれない。

 けれど、それでいい。

 俺は『はずれ』だから。


「お前もさ、生まれながらに魔王って役割を与えられただけなんだろう? 神様から聞いたよ。だからさ、俺達ではずれものが救われる世界を作らないか」

「……う、うん!」


 魔王を包む黒い霧が外れると、そこには幼い魔族の少女が。


「は?」


 そして、戸惑う俺に思いっきり抱きついてくる。


「いよーし! うれしい今日は宴だ! 飲んで飲んで飲みまくろう! 勇者よ! ……そして、酔った隙に、我と貴様の子を……」


 うん、残念だったな、魔王。俺は羽目だけは外さないと決めてるんだ。

 おい、ズボンのボタンを外すな。

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