三枚目 線路に舞い散る雪
どうして僕は、こんなところにいるのだろう。
遺影に写る彼女は、白兎のように無垢で、可愛いという言葉そのもの。
彼女の、冬に咲く桜のような唇が、最後に僕の名前を呼んだ。
僕の名が、彼女の最後の言葉で、最後の声。
あのとき、唇を覆った白い吐息は、一瞬にして生温い液体にかき消された。
僕は見た。彼女の最期を。彼女が生命からモノになる瞬間を。
目に焼き付いたものを、僕は、永遠に忘れることができない。
映像記憶。フォトコピ―メモリー。呪いのような記憶力。
僕は、彼女の頭が潰れる瞬間を見た。
四肢が引きちぎられる瞬間を見た。
頭は、髪の毛で覆われた海胆みたいで、
ホームに飛び散った血管が、赤い海藻みたいで、
服を着た肉塊と、腕だったモノ、脚だったモノが、
鉄のレールの上に横たわり、舞い落ちた牡丹雪が、赤く溶けていくのを見た。
ああ僕は、これから一生、この記憶に苦しめられる。
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