祝福された者の約束

雪方麻耶

プロローグ

 沈黙を破ったのは、美晴みはるの方だった。美晴の声は、光沢を放つ陶器のように滑らかだった。


「約束、覚えてる?」


 美晴が放った一言は、恭太郎きょうたろうの記憶の葉脈にまともに突き刺さった。

 彼女は約束としか言っていないが、どれを指したものなのかは考えずともわかった。遠い日に交わした約束。恭太郎の能力は、誰にも秘密にするというものだ。


「恭太郎は、私を守ってくれるって言ったよね?」


 美晴は細い小指を差し出してきた。ひどく華奢だが強い意志を込めて向けられた小指だ。幼き日に交わされた約束が、甘い香りを伴って再び浮上してきた。二人はいつだって、互いを守り助け合ってきた。

 太陽が沈みかけた空は青と橙のグラデーションで彩られて、日中より近くに感じる。もう少し経てば完全に闇が覆い被さり、なにもかもが黒に染められるだろう。

 恭太郎は様々な思いを閉じ込めた息を大きく吐き、天を仰いだ。

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