6. 真夏の温泉旅行。
第24話
「ねえねえ……! 肝試しとかはどう?」
「へえ……! 先輩、そんなの好きですか? 全然知らなかった! でも、いいですね」
都市からけっこう離れたところに、山田先輩の旅館がある。
正確には山田先輩の親戚が経営している温泉旅館で……。山の奥に位置しているその旅館はバスが3時間に一度しか来ないから、すぐ乗り換えないとタクシーを乗るしかない遠い場所にあった。もちろん……、それがもっと旅館らしい雰囲気がするから俺は嫌じゃなかった。露天風呂とか……、絵に描いたような景色が見られるはずだから……、ちょっとドキドキする。
はずだったが———。
「樹くん、大丈夫……?」
「は、はい……。ちょっと眩暈が」
「全く……、30分しか経ってないのにすぐ眩暈しちゃうの?」
「すみません……」
隣席の白雪さんが背中を撫でてくれた。
普段からバスをあんまり乗らなかったせいか……、普通ならこんなことしないはずなのに今日はちょっとしんどい。いや、吐き気もする……。
「あはははっ、雨霧くん弱〜い! 眩暈するの?」
「水原さん……、どうしてそんなに元気なんですか?」
「私は眩暈などしないからね!」
「へえ……」
「雨霧くん……弱いね」
後ろから山田先輩と水原さんにからかわれる可哀想な人生……。
なんか言いたいけど、口を開けるとすぐ吐きそうな気がして……、白雪さんに寄りかかったまま目を閉じていた。やはり……、白雪さんのそばが一番……いいかもしれない。
「寝てて、旅館に着いたら起こしてあげる」
「はい……」
「美波ちゃんの愛……、ちゃんと伝わるっ!」
「からかわないで芽依」
「チッ———」
……
目を閉じてから30分、俺たちはやっと山の奥にある温泉旅館に到着した。
すごくいい雰囲気がして、なんか落ち着く……。
「眩暈はもう大丈夫?」
「は、はい。ありがとうございます! 白雪さん」
山田先輩が親戚の方と話している間、俺は持ってきた荷物の中で水を探していた。
すると、誰かが背中をつつく。
「はい……?」
あれ……? 子供? もしかして、この旅館の子供かな?
見た目では小学生くらいだけど……。
「名前」
「はい……?」
「お兄ちゃんの名前、教えて」
「雨霧、雨霧樹だよ」
「樹くん!」
「えっ……?」
なんで、俺が女の子に頭を撫でられてるんだろう……?
「あら! さえちゃんだ……!」
「やえ姉ちゃん!」
「久しぶりだね〜」
「やえ姉ちゃん、あんまり来ないからずっと寂しかったよ。でも、今日はカッコいいお兄ちゃん連れてきたから許してあげる」
「えっ……?」
そばでびくっとする俺に、山田先輩がくすくすと笑っていた。
しかも、さえちゃんって言ったか……先から俺の袖を掴んでるから動けないし。隣の白雪さんもこっちを見てるような気がして、ちょっと緊張してしまう。なんだろうこの状況は……。
「ねえねえ、樹くん。客室まで案内してあげるから……」
「あっ、うん。ありがとう。あの……」
「さえちゃんでいい」
「うん。さえちゃん」
旅館の中に入ると、すごく旅館って雰囲気だ。
来るのは初めてだから言い方がちょっと変だけど、なんかテレビとかで見た旅館よりこっちの旅館がもっと旅館らしい雰囲気を出している。静かで木の匂いがするっていうか……、周りの景色を見ると落ち着く……。いい場所だ。
「こっちだよ。やえ姉ちゃんが来るって言ったから、ここ用意しておいた……! 褒めて!」
「あ、ありがとう……。でも、びっくりした。こんないい客室まで用意してくれるなんて……」
「ふふっ、やえ姉ちゃんが友達と行きたいって言ったから……」
「そうなんだ」
「でも、樹くんはどうして女の子たちと来たの? 男の友達いない?」
「い、いるし……。みんな忙しいから、また今度にしようって言われただけだよ」
「ふーん。そうなんだ! あのね、樹くんは学校で人気あるよね?」
「……別に、どうしてそんなことを聞くの?」
子供を相手にするのはそんなに難しくなかった。
まだ、子供だからか……。
「私……、友達あんまりいないから……。いつか樹くんみたいなカッコいい彼氏ができたらいいなと思ってるけど……、私には無理かもしれない」
「あっ……、どうしてそう思う? さえちゃんも可愛いから、もっと自信持って」
「…………あり、が、とう……」
「じゃあ、客室まで案内してくれてありがとう……。荷物もあるし、後でね……。さえちゃん」
「うん!」
樹が客室で荷物の整理する時、美波がこっそり入ってくる。
「えっと……、水分補給…ちゃんとしないと」
そして、後ろから彼に抱きつく美波。
「うっ……! だ、だれ? さ、さえちゃん?」
「誰がさえちゃんだよ……。樹くん」
この声は白雪さん……? でも、女子たちは向こうの客室に行ったんじゃ……。
てか、なんで……? なんで、服の中に手を入れる?
あれ? どうしてこんなところで……?
「うっ……。み、美波……? どうした?」
持っていたペットボトルを床に落として、そのまま美波に襲われる樹だった。
「なんか、イライラしてね……」
「えっ……、何もしてないけど……」
「そういうところが……」
「はい……?」
いきなり体を撫で回す白雪さんに、俺は何もできず床に倒れてしまう。
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