第5話 加勢

 なぜ俺なんだとは思う。


 前回の任務だろうか、魔道具持ちに善戦したかは分からないが足止めはできた。

 そういったことを期待されている、なんていうのは考えすぎだろうか。


 能力で足を強化して素早く移動する。アジトがどうなっているのか分からないが、警備を呼ぶくらいだ藁にもすがる思いなんだろう。


 地を蹴り、木を避けて走っているとアジト側から1人逃げている人を見つけた。どうするやったほうがいいか、なんて考えていると一歩一歩と距離が近づき「どけっ!」相手が何か投げてきた。警棒を持って素早く防御、カンッと音が鳴る。音が鳴ると同時ぐらいに刃が視界に迫ってくる。


 相手の右手には短剣が握られ俺に向かって突いてきた。横に避けて警棒をその右腕に叩きつける。苦痛を感じる声が聞こえるがその腕が下がることはなかった。


「クソっ」


 それなりに威力を込めたつもりだが。能力の扱いが上手いのか、防御が得意なのかもしれない。


「クソっクソっ」


 ただ攻撃の仕方は雑といっていい俺に当たる気配がない。

 がむしゃらに突かれたり振り回されたりする短剣、俺は避け機を見て警棒で攻撃する、ただそれだけで勝敗はついた。


 ナイフはいつの間にか地面に落ち、相手は疲労困憊だった。

 俺は近づき拳で相手の顎を殴った、たぶん意識が落ちたはず。あまり勝った感はない、ほぼ相手の自滅だった。


 それでも戦闘、額を腕で拭うと汗が出ていた。慎重だったせいか時間もかかった。

 戻って報告は余計時間がかかる、とりあえず木によりかからせて放置。それと武器を持ってないか確認するために服を探る。……ないな、あの短剣だけか。


 どこに落としたんだろうか……ん? これは鞘か。短剣の鞘を見つけた、そういえば最初に何か投げてたけどこれを投げたのか。シンプルなつくりをしている鞘だ。


 なら本体はどこにあるんだ。


 必死に辺りを探す。

 こんな場所で地面を見続けたくないという必死の気持ちで探したら。


 お、あった。鞘と似たようにシンプルな短剣、その青色の持ち手を握った、っ! なんだ? 手に取った瞬間、力が溢れてきた。能力? いやそれ以上の何か力を感じる。


 少し怖くなって手に持った鞘に短剣を納める。それでも力が溢れる感じはする。

 これって……いや時間がないとりあえずアジトに行こう。


 短剣を持って能力を使いできる限り速くアジトに向かった。

 短剣のおかげかいつもより速く移動できている気がする。いざとなったら使うかもしれない。


 徐々に音が聞こえてくる、視界に広がっていた木々がなくなり敵のアジトが見えてきた。

「これは」

 見える光景は人が入り乱れ、手に武器を持ち、カンッカンッと音を鳴らしながら戦っている。その人たちの足元にはピクリとも動いていない人も見える、血の量から助からないだろうと思う人もいた。とても現代の戦闘とは思えない。



「うっ」気分が悪くなる。嫌な光景だ、あまり見たくない。

 ……いやだめだ、ここでしっかりしないと。気を取り直して周囲を見る。ブラボーってどこだ、道にも森にもいない。時間がかかりすぎて、すでに戦闘状態なのか。見た感じ乱戦と言ってもいい。そもそもこんな状況でまともな指揮が機能しているかどうかすら怪しい。



 でも逃げるわけにはいかない。班長は危険と思ったら離脱しろと言ってくれたけど、それでもこれは。そもそもこんな状況を管理所は隠し通せるのか……いやそれは俺が考えることじゃない。



 とりあえず今どうすればいいのか考えろ、こんな状況だ不測の事態は起こる。周りを見渡す、争いから離れた場所に木によりかかり血を流して今にも倒れそうな人が目に入った。加勢ではないが、何か聞けるかもしれない。怪我をしている人のところに向かって走る。



「大丈夫ですか? 話せますか?」

「うっ、俺はいい援護を戦ってる奴らの」続く言葉は途切れ途切れで聞き取れない。何かしらの情報を聞こうと思ったが難しいか。

「分かりました、ここで休んでいてください」



 俺はすぐに走る。

 俺が飛び出したところで戦況が変わるとも思えないが、こんな状況だ応援ぐらい呼んでいてもおかしくない。

 というか呼んでないと下手すれば全滅するかもしれない。



 警棒を取り出して無防備な人を探す。


 乱戦のおかげか俺のことを見ていた人はいないのかこっちに気づく様子がない、木を使って隠れながら探す。

 後ろから一発警棒で叩く。

 卑怯なんて言ってられない、バレてないという利点は活かすべきだ。



 ……あそこにいる人にするか、ひときわ大きな武器を持っている男が近くにきた。男の服装は俺たちが着ているものと違う、施設の人間じゃない。

 こんな場所で武器持ってうろついているのが一般人だとは思えない。つまり魔暴の構成員。

 意識がこっちに向いていないことを確認して一気に近づく。


 警棒を頭に当てるように「っ!」頭と警棒の間にでかい剣があった、大剣かもしれない。



 その大剣が警棒もろとも俺をふっとばした。

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