運命の気まぐれ
仁科佐和子
第1話 運命の導き
さざめく様な人の話し声で目が覚めた。
「ここは……」
頭がうまく回らない。モヤがかかったように視界はぼやけている。
しばらくじっとしているとようやく焦点が合ってきた。
真っ白な10畳ほどの部屋。家具も窓も何もない。白い服を着た人がいる。1、2……全部で6人。少人数で集まって、ボソボソと何か話している。
あたりを見回していると、手前にいた二人……角刈りのおじさんと中学生くらいの男の子がじっとこちらを見ているのに気づいた。
「あの……ここは……?」
思い切って声をかけてみると、二人の目は明らかに落胆の色を呈した。
「やっぱりあんたもわかんねぇのか。最後の一人だから、ちょっと期待してたんだがな」
無愛想な50代ぐらいの男性はそう言って私を見てため息をつく。
(知らないところで勝手に期待されて落胆されても困る……)
そう思ったがとても言える雰囲気ではない。
よく見れば私も他の人と同じ、真っ白なワンピース状の服を着ていた。もちろん私の服ではない。こんな服は持っていない。
(一体いつのまに着替えさせられたんだろう?)
戸惑っていると目の前の壁に突然切れ込みが入った。
まるで画用紙に定規とボールペンでまっすぐな線を引くように、スルスルと白い壁に黒い筋が入る。
やがてきれいな長方形が描かれると、そこがパタンと開き、中から10歳くらいの子供が現れた。
「何だお前?」
若い金髪の男が不機嫌そうにその子を睨みつける。
「はじめまして。僕の名前は『イチル』です」
男の子は、微塵も気にしていない様子でそう言った。
「さてと。今日集まり頂いた皆さんは、今しがた自殺された方たちなわけですが……」
イチルにそう言われて、私の記憶が突然掘り起こされた。
(そうだ私、さっきまでDV夫に殴られてたんだっけ……)
取り戻した記憶は、その時の感情まで生々しく呼び起こした。
高卒で就職した私は、職場で知り合った年上の男性のマンションに転がり込み、そのまま結婚した。
しばらくすると旦那のDVが始まった。それは年々酷くなり、最近では命の危険を感じるほどになっていた。
殺されると思ったら怖くなって、裸足で外に飛び出した……旦那は大声で何か喚きながら追ってきた。
必死に階段を駆け上がる。
声が徐々に近づいているのがわかる。
(このままじゃ追いつかれる!)
私は焦った。
踊り場を挟んで旦那が迫り、私の恐怖はピークに達した。
旦那から逃れたい一心で、私はマンションの踊り場から飛び降りた……
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