第7話:幼なじみとガム
チューインガム。
ガムベースに味や香りを付け、噛み心地や風味を楽しむお菓子である。
また、継続して噛み続ける事で集中力を持続させたり、眠気を防いだりする効果もあり、一部の受験生やスポーツマンにも愛食されている。
さらに顎の筋肉を鍛える事で
近年ではキシリトールガムなどの歯に優しいガムも誕生しているなど、ガムは常に流行の最先端を走っているのである。
◆◆◆
「もっちゃもっちゃ……」
「…何食べてるの?」
ある日の放課後。
オレはいつものようにユイカと一緒に下校していた。
「これ」
オレはユイカの質問に対して、プゥと風船をふくらませてはパチンと噛み割った。
「ああ、ガムね……」
「ユイカも食べるか?」
オレはそう尋ねながらガムを1枚差し出した。
「せっかくだし、いただくわ」
「おう」
ガムを受け取ったユイカは銀紙を剥がし、ガムを口にポイと放り込んだ。
「もっちゃもっちゃ……。…これ、キシリトールガムじゃないの」
「オレは口の中にも気を使っているんだよ」
キシリトールガムは歯の健康を維持するだけじゃなく、骨粗しょう症にも効果があるらしい。
本当かどうかは知らないが、オレはそう信じてこのガムを選んで噛んでいる。
そこまで気にするものでも無いけれど、どうせなら健康に良い物が良いに決まってる。
「…これ、固くて膨らませられないんだけど……?」
「そりゃあチューインガムじゃあ無いからな」
これはキシリトールガム、健康の為のガムだ。
玩具菓子では無いので、風船が作れる程の柔軟性は無い。
それでも、このガムでも風船を作る事自体は一応可能ではある。
「ひたすら噛んで、柔らかくするところからだな」
「んん……」
ユイカは眉間にシワを寄せながら、一生懸命にガムを噛んでいた。
これは、相当ムキになってるな……。
ユイカは根っからの負けず嫌いだし、きっとオレが出来ているのに自分が中々出来ない事が悔しいのだろう。
失恋したあの日から、ユイカが何を考えているのかさっぱり読めなくなってきていたが、ここにきてようやく落ち着いたようだ。
ああ、良かった……。
これで、アレコレとごちゃごちゃ考えなくて済む……。
「〜〜〜っ!」
―――パンッ!
「ぶっっ!」
大きな音がしたので横を見てみると、ユイカの口周りには薄く伸びたガムがべっとりと張り付いていた。
「ぶわハハハハ!」
「笑うんじゃないわよ!」
「いって!」
あまりの面白光景に耐えきれずに笑っていたら、思いっきり回し蹴りを食らってしまった。
「うぅ〜、ベトベトする……」
「ははは、まぁこれで口拭きなよ」
「ありがと……」
オレはウェットティッシュを手渡し、ユイカはそれを受け取って口周りのガムを手際よく拭き取った。
「にしても凄いな。こんな固いガムでよくあそこまで膨らませられたな」
「コツを掴めば簡単だったわよ?」
さすが天才お嬢様。
コツさえ掴めば何でもこなしてしまいますか。
やっぱり、ユイカのポテンシャルは相当高い。侮れん。
「でも、さすがにちょっと勿体なかったわね……。もうひとつある?」
「あるけど、良いのか? もうすぐお前ん家だろ?」
「宿題する時にでも食べるから平気よ」
「そうですか。ほれ」
「ありがと。それじゃ、また明日ね」
「おう。んじゃな」
ガムを新しく渡した後、オレたちはそれぞれ別れて帰路についた。
「…プゥゥ……」
―――パチンッ。
ガムを膨らませて風船を作るが、ガム風船は開いた口に収まる程度の大きさで割れてしまった。
その後も数時間ほど頑張ってみたものの、ユイカが膨らませていた程のサイズにはついに至らなかった。
ユイカの奴、いったいどうやってたんだ……?
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